腹黒陽キャ男子が学級委員長の堅物女子に助けられた結果、恋が始まりました!?
ジャンル:現実世界恋愛
登場人物
⚫︎ 皆沢晴翔……主人公。陽キャに見せているが実はめちゃくちゃ腹黒で性根がひん曲がった男子高校生。
⚫︎星山希……主人公に次いで成績優秀な学級委員長。瓶底眼鏡におさげ髪の地味女。
簡単あらすじ
陽キャに見せているだけで実際は裏表の激しい皆沢晴翔は、実は裏でいじめを指揮するリーダー的な存在だった。
そんな彼が次のターゲットに選んだのは学級委員長の星山希。別に何の恨みがあるわけでもなくただ遊んでやろうという魂胆である。
しかしある日うっかり階段から落ちそうになった晴翔は希に助けられ、そこから二人の関係性は徐々に変わっていくことになる。
——まずっ、足を踏み外した。
気づいた時には遅かった。
どこかを掴もうと伸ばした手も空を切り、俺の体は宙に浮遊し、落下を始めていた。
考え事ばかりして前を見ていなかったのがいけなかった。
落ちながら俺は考える。この階段、かなり高い。打ちどころが悪ければ骨折、良くても捻挫は必至だろう。ああまったくなんてことだ。これじゃあしばらく学校に来られないじゃないか。
周りの奴らになんと説明したらいいのだろう。道化を演じて笑い話にする? だが舐められるのは嫌だ。ならどうすれば。
ああ、くだらないことを考えているうちに石段が目の前に迫ってきた。これは額をまともにぶつけるのじゃなかろうか。そうなったら、最悪だぞ。
「うわぁぁぁっ」
想像し、俺の喉から野太い悲鳴が上がり、恐怖と直後来るであろう痛みにぎゅっと目を閉じようとして……。
「あなた、危ないでしょう」
力強く後へ引っ張られた。
最初は何が起きたかと戸惑ったがすぐに理解した。誰かに助けられたのだ。
その誰かに弁解し、礼を言わなくてはと俺はすぐに思った。いつも通りの笑顔を浮かべて振り返った俺は、石のように固まってしまう。
「希ちゃん……?」
「あなたにちゃん付けで呼ばれる謂れはありませんが、そうです」
ため息混じりに答えたのは、俺のクラスメートで学級委員長の星山希。そして俺の次のターゲットにする予定の眼鏡系地味少女だった。
どうして彼女がここに?
理解が追いつかずに目を白黒させながら俺は、今までのことを走馬灯かのように思い返した。
■ ■ ■ ■
「ハルくーん、あたしとデートしよ?」
「あっずるいー。ハルくんは私のなんだから」
「ハルくん、わたしと遊んでくれるよね?」
俺の周りには常にうざい女どもがいる。
名前は知らない。皆が俺に媚び、手を組み、あるいはドッジボールのような胸を押しつけて、さも仲良さげにしている。
俺は彼女らにニコニコと微笑みながら、「じゃあみんなで遊ぼうぜ!」と言ってやる。そうすると女どもはいそいそと俺について来るのだ。
俺は顔がいい。しかもそこそこ金持ちだ。
女たちにとっては相当な優良物件なのだろう。
本当に単純だと思う。
単純過ぎて扱いやすい。女はそれが一番だ。
決して口に出しては言わないが。
俺はクラス一の陽キャだと……陽キャを演じ切っていると自覚している。
男友達も女友達も多い。彼女がいないのは、執着されるのが嫌であえて作っていないだけだ。作ろうと思えばいつでも作ることは可能であるし。
成績優秀、スポーツ万能、そして表向きは人当たりのいい俺は影の部分なんて一切ないと思われているに違いない。
だが現実というのはそんな綺麗なものであるはずがなく、実際は俺は気に入らない生徒には女をそれとなくけしかけていじめ、興味のない生徒もハブリ、そのあとでわざと優しくしていじめをやめさせ、好感度を上げていたりするのだ。
実はこれが唯一の趣味だったりするということを、俺以外誰も知らない。
つまらない青春だと笑うヤツもいるかも知れない。だが俺にとってこれは最高の日々であったし、何の不足もなかった。
文句を言うヤツがいれば潰すまでだ。
近頃は優等生のガリ勉をハブって密かに楽しんでいたが、それもそろそろ飽きた。次の遊び道具を見つける時期だろう。
俺は腕に絡みついてくる女どもを無視してクラス中を見回す。すると、ちょうどいいヤツを見つけた。
「そうだ、あいつにしよう」
女どもを侍らせている俺をその女は白い目で見ていた。
ダサいことこの上ない瓶底眼鏡におさげ髪。おしゃれ心ゼロ、そして可愛げゼロと定評のある彼女の名は星山希。このクラスの学級委員長だ。
頭だけはいい。いつも学年一位の俺に迫れるのは彼女だけだ。
しかし俺は学年二位に転落したことはないので彼女のことをなんとも思っていなかった。
じろじろ睨みつけて来るのも俺を羨んでのことだろう。そう思えば別に腹は立たない。そして何より彼女とは挨拶くらいしか交わしたことがなかった故に星山のことなどプロフィール以外はほぼ知らないも同然だった。
それならなぜ遊び道具に選んだかと言えば、このクラスの中にはもうハブって遊べるような生徒が残っていなかったというだけつまらない理由である。
地味眼鏡な彼女を下に見る女子は多い。
女たちを適当に振り払い、一人で廊下を歩きながら星山希をどうやっていじめさせようかと考える。
いじめさせた後は俺が王子様になってやろう。
そうすれば星山希も俺にメロメロになる。そうしたら可愛がって弄んでやっても——。
良いかも知れないな、と考えたのと、足が地面を掠めたのは同時だった。
俺の体は浮遊していた。階段から落ちたのだ。考え事をして階段の傍に来ているのを知らなかった俺のミスだ。
そのまま落ちるのは必至だった。しかしそれを止めたのは他ならぬ星山希で、どう反応していいかわからなくなった。
彼女は俺を現時点ではまだ好ましくは思っていないはずだ。
それどころか軽く嫌っているというか軽蔑している。俺はそこそこ人間観察が得意な自負があるから間違いない。
しかし星山希の顔は互いの息がかかるほど至近距離にあり、俺の襟首を強く掴んでいる。
「……助けられた、のか?」
「落ちたら怪我をしていたでしょう。フラフラ歩くあなたを見かけたので、ついて来てみたらこれです。皆沢さん、気をつけてください」
呆れた様子で言いながら彼女は俺をきちんと立たせてから、襟首から手を離す。
瓶底眼鏡の向こう側の瞳とまっすぐに目が合う。その瞳はまるで俺の心の奥底まで覗いてくるようでなんだか気持ちが悪い。
「そっか。そうなのか。おかげで助かったぜ。希ちゃん、ありがとう」
俺は完璧な作り笑いで心にもないお礼を言う。
彼女にだけは借りを作りたくなかったという本心が見抜かれていなければいいなと必死に願いながら。
これが俺と星山希の、初めてのまともな会話になった。
階段に落ちかけたのを助けられた。ただそれだけのはずだった。
ご意見などございましたら、よろしくお願いします。




