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鳥籠の中に閉じ込められていた鳥人の元聖女は、追放された先で自由を謳歌する ~戻って来いと言われても断固拒否です~

ジャンル:異世界恋愛


登場人物

⚫︎ヘレナ・フォーゲル……フォーゲル侯爵令嬢で鳥人族の血を引いた聖女。

⚫︎アメリーヌ・フォーゲル……ヘレナの異母妹。彼女の婚約者を奪う。

⚫︎王太子……名前はない。ヘレナを道具扱いするクズ男。偽聖女のアメリーヌに騙されてヘレナとの婚約を解消し、のちに死ぬほど痛い目にあう。


簡単あらすじ


 聖女でありながら、『穢らわしい』とされる鳥人の血を引いたヘレナ。

 鳥籠の中に囚われ、名ばかりの聖女として何もない日々を過ごしていた彼女の暮らしは、ヘレナの義妹が聖女の力に目覚めたことで終わりを告げる。

 用無しと追放されたヘレナ。鳥籠から放たれた彼女は大空を羽ばたき、静かな農村に移り住む。

 そして思う存分自由を謳歌し、農村で出会った少年に淡い恋心を寄せるようになるのだった。

 その少女は、鳥籠に囚われていた。

 白く美しい翼を折りたたみ、長い首を下げて、神へと祈りを捧げているのだ。


 ――この世の不条理が全てなくなりますように。

 ――そして、私が人並みの幸せを得られますように。


 届かない祈りだということは、わかっている。

 それでも彼女……鳥人の聖女ヘレナは一心に願い続けた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ヘレナ・フォーゲル。

 フォーゲル侯爵家の長女である彼女は、侯爵家の女性の中で稀に誕生する聖女だった。


 聖女は人々の傷を癒やし、神に祈って幸せを呼ぶ。

 初代の聖女である一代目フォーゲル女侯爵をはじめとし、過去の史実では聖女に救われたという話が数多く残されている。聖女とは本来は崇められ、讃えられるべき存在だ。

 しかしヘレナはそうではなかった。


 彼女は父親のフォーゲル侯爵が異国からやって来た女と不倫し、生まれた子。しかも、この国では『穢らわしい』とされる鳥人族の血を引いていたのだ。

 本来であれば屋敷に押し込められて終わるはずだったヘレナの人生は、聖女の力が発覚したことで大きく変わってしまう。


 侯爵家に引き取られたヘレナは、とんでもなく冷遇された。

 白い羽、長い首、鳥の足。フォーゲル侯爵家の血族の特徴とはまるで違う漆黒の瞳。


 たとえどんなに努力をしてもフォーゲル侯爵令嬢に相応しくはなれなかった。

 母はもちろん、兄や妹にも罵られ、痛めつけられたこともある。


「気持ち悪い。あんたなんて生まれなければ良かったのに」

「お前は侯爵家に相応しくない」

「お義姉様が聖女だなんてずるいですわ」


 父は終始ヘレナを無視し、ないもののように扱った。

 愛人が鳥人族を先祖に持つと知らなかった故の過ち。そのせいで先祖返りでヘレナのような『穢れた子』を産ませてしまったことを認めたくなかったのかも知れない。


 ヘレナは彼らにとっては不要な存在でしかなかったのは明らかだった。


 そして聖女として目覚めた者は王家と婚姻する決まりがあり、十歳になると共に王家へと嫁がされた。

 だが王家とて蛮族である亜人の娘を快く受け入れるわけもなく、暗くジメジメとした小部屋の中に置かれた銀色の鳥籠に囚われ、名ばかりの未来の王太子妃として飼われ続けた。


 婚約者……もとい飼い主である王太子に指示されたのは、「祈れ」という短い一言だけ。

 聖女は本当は国を巡り、苦しむ人を直接癒すものだ。しかし穢れたヘレナにそれは許されないのだという。

 日に一度の『餌』が与えられるだけの、何もない、本当に何もない鳥籠の中で日々が過ぎていった。


 鳥籠の中から見えるのは、薄汚れた部屋の壁のみ。

 時々羽を伸ばしては、天を飛ぶことを夢見た。しかしそれは所詮叶わない夢。青空を拝むことすらできない。



 きっとここで王国の平和を心から祈れば皆に認められるのだと、王太子に愛してもらえるに違いないと信じて、生きてきた。

 そうするしか心の保ちようがなかったのだ。でも、どうやらそれは全て無駄なのだと悟ったのは一体いつの頃だっただろう。


 その時から彼女は、自らの幸せを願うようになった。

 王国の平和なんてどうでもいい。自由になりたい、ただそれだけのささやかな祈り。届かないと思っていたそれは、だが確かに神の元まで届いたのだ。




 ――だってヘレナの鳥籠生活は、ある日突然終わりを告げたのだから。


「聖女ヘレナ。穢らわしい貴様を聖女と呼ぶのは今日で最後だ」


 久方ぶりに姿を見せた王太子が言い放った言葉に、ヘレナは首を傾げた。

 何を言っているのだろう、この人は。私が聖女じゃなくなる? ということは、殺されるのか。でもこの国には聖女が必要なはずでは……?


 だがヘレナの考えは全くの見当違いだった。王太子は、ヘレナではないもう一人の聖女を連れていたのである。


「貴様より美しく、清く、素晴らしい聖女が現れた。彼女だ」


「お久しぶりでございます、ヘレナお義姉様?」


「……アメリーヌ」


 それは、家族の中でもヘレナに激しく嫉妬し、嫌っていた義妹のアメリーヌだった。

 アメリーヌはニヤリ、と微笑を浮かべ、これみよがしに王太子に身をすり寄せている。が、ヘレナの心に少しの嫉妬心も湧かなかった。


 王太子には、もうすっかり愛想が尽きていた。


「彼女に聖女の力が芽生えたことが明らかになった。故に、蛮族の血が流れる貴様はもはや用済みだ。本来地下牢へ投獄しても構わないのだが、俺は今、アメリーヌと婚約を結べたことで機嫌がいい。だから特別に貴様を見逃してやろう」


 がん、と扉を蹴って鳥籠を開けた王太子は、さも鬱陶しそうにヘレナを見つめながら言う。

 ヘレナは小さく頷くと鳥籠から歩み出て、スッと白い翼を広げた。


「王太子殿下、お義姉様のご自慢の羽がガサガサしていらっしゃいますわ。一枚一枚丁寧に抜き取って綺麗にして差し上げたら良いのではありませんか?」


「それは妙案だな、アメリーヌ。今すぐにでもヘレナの羽をむしり取って……いや、それは面倒だな。これ以上姿を見るのも腹立たしい。ヘレナ、貴様は国外追放だ。さっさと俺たちの視界から消え失せろ」


 ヘレナの羽を奪うことを却下されたアメリーヌが歯軋りしていたのは、王太子には見えていないらしい。

 アメリーヌが王太子の言う通り美しく清く素晴らしい女性なのであれば、わざわざ私の羽を抜き取るなんて言い出さないに決まっている。だからきっとアメリーヌが聖女というのも嘘に違いないと思ったけれど、ヘレナにはどうでも良いことだった。


 国外追放、大いに結構。

 むしろ、やっと鳥籠から解き放たれるのだと思って、すっかり死にかけていた心が昂った。


 王太子とアメリーヌを振り返ることなく部屋を後にし、聖女――否、元聖女のヘレナは外へ飛び出す。

 外はどこまでも澄み渡った青空だった。

 ご意見などございましたら、よろしくお願いします。

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