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可愛くてわがままで頭のおかしい、俺の最愛の婚約者の話

ジャンル:異世界恋愛


登場人物

⚫︎アビゲイル……第二王子で主人公。フリジアにひっそり一目惚れする。

⚫︎フリジア……優秀な公爵令嬢であり、転生者。前世の記憶からここが悪役令嬢ものと呼ばれるラノベの世界だと知っている。


あらすじ


「私との婚約を解消して、お願い」

第二王子であるアビゲイルの婚約者になった公爵令嬢フリジアは、顔を合わせるなりそんなことを言い出した。

彼女曰く、フリジアは悪役令嬢という存在で、異世界から転生してきたらしい。

悪役令嬢フリジアはアビゲイルに婚約破棄され追放された後、兄の第一王子に見初められて幸せになる運命だという。しかしそれが気に入らないので運命を変えるため、俺との婚約を先に解消してしまうつもりだったようだが……。

「君、頭おかしいんじゃないのかい」

アビゲイルは笑った。

「私との婚約を解消して、お願い」


 将来間違いなく美人になるであろう可憐な顔を引き締めて、俺の婚約者になったばかりのその少女は言った。


 人払いをしていたから良かったようなものの、もし俺以外に聞かれていたら彼女の首がスパッと飛びかねない一言。

 俺は当然ながら動揺し、その意図を問うた。


「……どういうことだ」


「詳しく説明してもきっとわかってもらえないと思う。でも私とあなた、このままでは幸せになれないと思うの」


 我が国の筆頭公爵家の令嬢、フリジア・アメリーンが、俺を見上げながら懇願してくる。

 背丈は俺よりずっと低いのに、どこか上から目線な物言いで、少し癇に障ったが許した。


 婚約を結び、初顔合わせをした途端にこれだ。彼女の言い分は、まるで子供のわがままだった。

 いや、実際その少女の年齢は子供と言ってもいいだろう。俺より二歳下の十歳。しかし歳の割には聡明で有能だと評判のはずだったのだが。


 ――やはり所詮は子供か。

 俺とてまだ子供の域を脱していなかったけれど、そう思った。


「あっ、あなた今、私のことを子供っぽいって思ったでしょ。私、精神年齢で言ったら二十七なんだから」


「いや、どう見てもまだ子供だろう、君。それとも人生を何度かやり直したとか寝物語のようなことを言うつもりか」


「……わかった。私の事情を話すわ。そしたらこの婚約、解消してくれる?」


 無邪気に微笑むフリジアは、とても輝いて見えた。

 第二王子たる俺と公爵令嬢フリジアの婚約は、当然ながら政略的なものである。そこに愛はなかったはずが、俺はこの時点でフリジアの虜にされ始めていたのだった。


「話次第では考えよう」


 俺が先を促すと、フリジアは事情とやらを語り出した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 フリジアは元は異世界の日本という島国で暮らす十七歳の少女だったらしい。

 平凡な人生を歩んでいた彼女は、ある日不慮の事故に見舞われて命を落としたのだという。

 そして気がつけば、なんと前世に読んだラノベという本の主人公、悪役令嬢フリジア・アメリーンになっていたとか。


「フリジアは断罪されて、幸せになるの。でも決まりきった人生なんてつまらないじゃない? だからぶち壊しにしようと思って」


「転生とやらと、断罪と俺との婚約に何のつながりがあるのかわからないぞ。説明するならもっとしっかりしろ」


「……むぅ、子供のくせに偉そうね」


「だからフリジア、君の方が子供だからな?」


「違うって言ってるでしょ、もう!

 そうそう、さっき私が言ったことの関連性だったわね。

 アビゲイル王子、つまりあなたと婚約していたフリジア・アメリーンは、アビゲイル王子と恋仲と噂されていた伯爵令嬢に冤罪をふっかけられて、十七歳の時に夜会で婚約を破棄されてしまうのよ。

 断罪されて処刑されそうになっていたところへヒーローが登場、見初められて溺愛ハッピーエンドってわけ」


 早口で捲し立てるフリジアは真剣だった。

 どう見ても真剣でしかないからこそ、可笑しくなる。思わず満面の笑みで言ってしまった。


「……君、頭おかしいんじゃないのかい」


 俺は第二王子としての社交や外交で、今まで様々な人物と出会ってきた。

 でも、彼女のような人物は初めてだ。


 俺を敬おうとも、利用しようともせずにただ妄想を語る公爵令嬢。なんて面白いのだろうか。


「馬鹿にしてるでしょ、私の言ったこと信じてないでしょ!

 最悪信じてくれなくてもいいから婚約解消してください。お願いします」


「ダメだ。これはそもそも王命の婚約。俺の一存でそう簡単に解消できるわけがない」


「アビゲイル王子のくせになんて正論を!」


「君の中の俺はどれだけ馬鹿なんだよ」


 彼女の認識では俺はとんでもないクズで馬鹿な男であるらしく、「アビゲイル王子のくせに……」ともう一度言っていた。


「と・に・か・く! 婚約は解消させてもらいます。あなただって廃嫡されたくはないでしょう?」


「廃嫡? 俺がか?」


 俺の兄は病弱で、外には出られない体質だから俺が王位を継ぐのではと噂されている。

 だがそれはまだ噂程度だし、兄上の方が俺よりずっと優秀だという自覚が俺にはあった。


「あ、そっか。まだ王太子になってないのか。

 将来あなたは王太子になるの。でもお兄さんへの劣等感があるから勉強を真面目にしなくて、その上フリジアが優秀だから拗ねちゃって、例の伯爵令嬢と真実の愛を築くのよ。

 でも当然お相手の彼女は実は愛なんてものはなくて、王妃の座を目当てにしてるだけの尻軽女だから、結婚後すぐに後悔することになるのだけど。


 真実の愛? 意味不明過ぎる。

 政略結婚が基本な貴族では、妾を作ることはあれど恋したからとその相手を配偶者にするようなことはない。しかも王太子妃に? あり得ない。

 俺の苦笑は深まるばかりだ。


「で、あなたのお兄さんが本来のヒーロー。フリジアが病気を治したとかで外に出られるようになるのよね。すっごくかっこいいんだけど、なんか私のタイプじゃなくって。だから適当に領地に引っ込んでゆっくりお相手選びしたいなと思って、こうしてお願いしているわけ」


「わかったよ」


「わかってくれたのね!? 物分かりが良くて助かるわ。ありが――」


「君がどれだけ、変人かということが」


 揶揄うようにそう言ってやると、フリジアの小さなゲンコツが俺めがけて飛んできた。


「この、アホ王子が!!!」


 頬を膨らませ、激昂する彼女は可愛い。

 鼻っ柱を折られながら俺はそう思い、心に誓った。




 ――婚約解消なんて、絶対にしない。

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