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婚約破棄で追放されたら、百合王女が私を好きだと言ってきた

ジャンル:異世界恋愛


登場人物

⚫︎ララ・ベルンシュタイン……公爵令嬢。主人公。

⚫︎エドワード・リリーエ……主人公の婚約者。いわゆるアホ王子。

⚫︎シャーロット・リリーエ……エドワードの姉で王女、そして次期女王。実は同性愛者(百合)である。

⚫︎イザール・ブーゼ……悪女。王子をたぶらかして国を我がものにしようとしている。


簡単プロット


 主人公のララ・ベルンシュタインは、王子を婚約者にもつ公爵令嬢。

 幸せに暮らしていたが、ある日突然、何の罪もないのに冤罪に問われて囚人たちの地である『罪人の島』へ追放されてしまった。

 辛い日々を送りながら涙を流す彼女の元へ、一人の少女がやってくる。

 彼女はシャーロット・リリーエ。単身で『罪人の島』へ乗り込み、ララを連れ出す。

 シャーロットはララへの愛を伝えた。『百合王女』と呼ばれていた彼女は、同性愛者だったのだ。

 でも同性愛者ではないララは、シャーロットの告白に戸惑う。

 とりあえず友人になった二人は、ブーゼ男爵令嬢の企みを止めるために動き出すのだった。

「ララ・ベルンシュタイン。君との婚約を破棄する」


 ――どうしてこんなことになってしまったの? 私は何も、悪いことなんてしていないのに。

 婚約者から告げられる婚約破棄は辛く厳しいもので、何の愛情もそこには残されていない。


 その瞬間、私はひどく絶望した。



* * * * * * * * * * * * * * *



 私はララ・ベルンシュタイン。

 とある大きな王国の公爵令嬢として生を受け、両親に愛を注がれて真っ当に生きてきた。


 長い黒髪に綺麗な琥珀色の瞳。自慢じゃないけど容姿はかなり優れていた方だったと思う。


 もちろん決して楽な人生じゃなかった。恋愛など許されず、十歳の時はすでに将来の相手が決まっていた。

 それでも私は、幸せだったの。


 婚約者の名前はエドワード。王国の第一王子だった。


 第一王子たる彼は一番家柄の高い女性が妻とならなくてはならない。そこで私が選ばれたというわけ。


 エドワード王子はそこそこにいい男だった。あまり話すことは多くなかったけれど、男前だと貴族の娘たちに評判だったと聞いている。私も彼をいい人だと思っていた。


 いい人だと思っていた……のに。


 全てがおかしくなり始めたのは、あの娘が来てからだわ。


 私たちが通う王立学院に、一人の新入生がやって来たの。

 彼女の名前はイザール・ブーゼ男爵令嬢。諸事情があって男爵家に引き取られた、平民の子。


 勘違いしないでほしいのだけれど、私は平民差別などしないわ。あんなのははしたないやつのすることよ。

 私はよく平民の手助けをしていたし、他の貴族連中なんかより領地の民のことを考えていた。父がそのあたりが疎いから、よく手伝っていたわ。


 とにかく、イザール嬢の話に戻りましょう。


 彼女は容姿は平凡、知能も平凡。平民上がりの下級貴族だったから、下の方のグループにいたの。私と話をすることすらなかった。

 けれどある時期から……そう、道端で転んだ時にエドワード王子に助けられた時から、その態度が大きく変わったの。


 まるで獣のように、王子に追い縋るようになったわ。下級貴族は入れないはずの上級貴族の輪に入り込んで、やたらと王子と近づきたがるの。

 でも元々王子は人気があったから、私はそこまで気にしていなかったわ。むしろ、他の令嬢から「気持ち悪い」と叩かれていた彼女を守ったのは私だった。


 彼女は私たちより後に入って来たけれど、ちょうど同い歳。だからこそ、イザール嬢は私のことが憎かったのね。


 ちょこちょこ、本当にちょこちょこありもしない噂が流れてきた。

 私がイザール嬢の勉強道具を壊しているとか。イザール嬢に嫌味を言いまくっているのが私だとか。


 根も葉もない噂話だけれど、私は一応彼女に言ったの。「嘘を吐くのはやめてくれないかしら」って。

 そうしたらすごい形相で私は睨まれた。睨まれたのよ。……それでも、私は彼女を許したわ。


「犯人は私じゃないから。勘違いしたのはわかったから、もういいでしょう」


 それきり、しばらくは騒動が落ち着いたの。


 なのに王立学院の卒業式だったその日、事件は突然起きた。


 イザール嬢が突然、階段から転げ落ちたのよ。

 しかも、誰も見ていないところで。

 落ちていく瞬間、私は見たわ。……悪魔のように笑う、彼女の顔を。


 すぐに人が集まってきて騒ぎになった。特に、最近イザール嬢と距離が近づいていたエドワード王子なんか、激昂していて。


 私は何もしていないと言ったのに、イザール嬢の言葉だけで私を犯人と決めつけた。

 そして今。


「――婚約を、破棄する」


 そう宣言されて、私は目の前が真っ暗になった。

 どうして? どうして私がこんなことを言われなければならないの?


 加えて、『罪人の島』への投獄処分も言い渡されてしまった。

 『罪人の島』は王国中の犯罪者の収容所で、治安は最悪。地獄の中の地獄とそう呼ばれる場所だった。


「違う! 違うわ! これは冤罪よ!」


 そう叫んでも誰も聞いてくれなかった。王立学院卒業式は、地獄の断罪場へと化している。

 王族に逆らえないのもあって、誰一人として私に味方はしてくれなかった。


 王子の傍に立つイザール嬢を、力いっぱい睨みつけても無駄だったわ。

 私は衛兵に引っ捕らえられてしまった。



* * * * * * * * * * * * * * *



「――気をつけて」

「うぅ、うぅぅぅっ。ララ、ララ……」


 両親が涙を堪えて私を見送ってくれる。

 私の両親は、多忙な貴族にしては愛情深かったのではないかしら。

 政略の道具として使われる不憫な令嬢もいるけれど、私はそうじゃなかった。だからこそ別れがつらい。


 それに両親は、最後まで私を信じてくれた。『私が無罪だ』って、王国にだって必死に抗議してくれたもの。

 でもそれは聞き入れてもらえず、どうしようもなかっただけで。


「……行って来ます」


 屋敷を出るとまもなく、待ち構えていた馬車に詰め込まれた。

 もう二度と帰って来ないであろう我が家。そう思うと悲し過ぎて、胸が苦しくなった。


 馬車の中でどれほどの待遇を受けたか、それは言葉にもしたくないくらいだった。

 ほとんど荷物同然だった。水や食事も充分に与えられないままで丸一日閉じ込められたのだ。

 着いた時にはもう、自分が生きているのかどうかすらよくわからないくらいに疲れ果てていた。


「降りろ」


 乱暴に降ろされ、私は軽くよろめいて転けた。

 痛い。痛い……。惨めさが湧き上がってきて、私は泣き出したくなった。


 けれど人前で涙は見せられない。それが公爵令嬢としての意地だった。


 ――その後、私は船に乗せられ、とある島へ上陸した。

 それがこの世の地獄、『罪人の島』。

 ここへ来た人間の多くはこの地で一生を終える。そして私もその一人になるに違いなかった。


 私だけを残して旅立つ船を見ても、もはや何も思わなかった。

 いくら泣き叫んだところで何も変わることなんてないのだから。



* * * * * * * * * * * * * * *



 劣悪な毎日を送るうち、心が擦り切れていく。

 どうして私がこんなことを。無駄な自問を続ける時間が延々と続いていった。


 私は上陸後すぐに、一人の男に襲われた。

 金品を狙ったものではない。私の体を奪おうとしていたのだ。


 なんとかそれから逃げ切ったが、安心できる場所はどこにもなかった。

 男から身を守るためには、島の女ヤクザたちの仲間に入らなくてはならず、一番力の弱い私は、小間使い――いや、奴隷同然に扱われたのだ。


「ほら、あれしろよ」

「さっさとやれ。やらないと鞭で打つよ」

「くははは。かわいそーだね、あんた」


 つらかった。今すぐここで死んでしまいたいくらいつらかった。

 たくさんの体罰や強制労働を受け、でもそこから逃れる道はなかった。

 常に私には監視のように、最低一人の女ヤクザがついている。ひとたび変なことをしたら殺されるだろう。


 いっそ殺されてしまおうかとも考えたけれど、両親のことを思うと死ねなくて。


 一人でいる時はいつも泣いていた。

 あの王子が憎い。あの娘が憎い。私を見捨てた世界が憎い。


 負の感情が溜まっていって、もう頭がおかしくなってしまいそうだった。


 ……だから彼女が来た時、私は信じられなかったの。

 そして同時に心の底から安堵してしまった自分がいた。



* * * * * * * * * * * * * * *



 彼女は、眩しいほどの美貌の女性だった。


 金髪の巻き毛を肩で揺らし、深い青の瞳は海を思わせる。

 色白で顔立ちがよく、高身長。

 白百合のような純白のドレスがとてもよく似合っていた。


 それがもし舞踏会などで見かけたのなら納得がいく。けれどこの場でそんな姿を目にするのは、あまりにも衝撃的だった。


 海から姿を現し、砂浜を駆けて来る彼女。そして叫んだ。


「ララ嬢!」


 名前を呼ばれ、私は思わず凝固する。

 ……私の勘違いかと思った。けれど違ったわ。


 流していた涙を拭い、彼女を直視する。

 そうだ、間違いない。確か、彼女の名前は――。


「シャーロット王女様!?」


 私の元婚約者エドワード王子の姉にして、次期女王。シャーロット・リリーエ王女が私のすぐ目の前にいた。



* * * * * * * * * * * * * * *



 ――どうしてシャーロット王女様がここに?


 私の頭の中は疑問符でいっぱいだった。

 シャーロット王女は私より三歳上。国王の長子であるため、この国を継ぐのは彼女と決まっている。


 彼女の二つ名は『百合王女』。百合の花の如き麗しさからそう呼ばれていたかしら。


 ちょうど年齢の関係で王立学院で一緒になることはなかったけれど、エドワードと会う時にたまに顔を合わせた覚えがある。


 でもそんな彼女が、どうして今? わけがわからなかった。


「あんた何者だい? キラキラしたお洋服を着やがって。どこかのお姫様か何かかい?」


 ヤクザの女がシャーロット王女に食ってかかる。……ある意味度胸あるわね。


「ええ。わたくしはこのリリーエ王国の第一王女、シャーロットですけれど」


「はぁ!? 王女だぁ? ふざけんじゃないよ。どうせ弱っちいただの小娘のくせ……」


 直後、私は驚きに声を失ったわ。

 だって先ほどまで威張り散らしていた女が泡を吹いて倒れたんだもの。


 シャーロット王女はにこりと微笑んだ。

 そしてその手には、白金色の長剣が握られていたの。……柄だけでヤクザ女を昏倒させたその凶器が、ね。


「あらまあ。少し手加減を誤ってしまいましたか……。次から気をつけるとしましょう」


 それでいてまるで平気な顔。

 私は呆気に取られ、身動きできなくなってしまったくらい。


「これは夢なのかしら」


 そう思ったけれど、どうやらこれは本当の現実のようで。

 この国の王女、シャーロットが私の元に姿を現したということらしかった。



* * * * * * * * * * * * * * *



「ああ、ララ嬢。無事ですか?」


 シャーロット王女が駆け寄ってきて、私の心配をする。

 やっとのことで驚きから立ち直った私は、小さく頷いた。


「え、ええ。でも」


 状況が全然わからない。


 王族はそもそも護衛がなければ城の外には出られないはず。学院ですら常に護衛がついていた。

 なのに、今のシャーロット王女には誰も付き添いはいないようだったし、なぜわざわざここまで来たのかも全くの不明。


「突然驚かせてしまい、申し訳ありません。とりあえず事情を説明しますから、聞いてくださいますか?」


「はい。もちろんですわ」と私は笑う。

 とりあえず斬り殺されるようなことはなさそうだ。そう思い、内心安堵していたのだった。



* * * * * * * * * * * * * * *



「わたくし実は、ララ嬢を助けに参りました」


「私を助けに?」


 私は小さく首を傾げた。

 だって王家は私を断罪した側で、決して援助してくれるはずがない。なのになぜ?


「……あなたがイザール嬢を突き落としていないことが、わたくしにはわかったのです。弟は信じませんでしたが……。なので単独で乗り込んで参りました」


 エドワード王子と喧嘩したこと、脱城したこと……。

 シャーロット王女が私に語ってくれたのは、私を救出するべく奮闘した話だった。

 来てくれたのは嬉しい。けれども、疑問はますます浮かんでくる。


「そこまでして、私を助け出そうだなんて。そんなの申し訳なさすぎますわ。私、たとえ冤罪だとしても罪人ですのに。シャーロット様のお手を煩わせてはいけませんわ」


 そう言うと、シャーロット王女は私から目を背けてしまったわ。

 そして一言、「見逃せなかったんです」と声を漏らす。


 私はさらに質問しようとしたが、話を続けることはできなかった。


 王女がやたらと私の心配ばかりし始めたから。その上、こんなことを言い出したの。


「この島を出ましょう、わたくしと一緒に」


「え、いいんですの?」


 でもここは足を踏み入れたが最後、出られないって話なのよ? 事実、一人として出られてはいないし。


 けれど王女はにっこりと笑う。


「もちろん、わたくしの船にお乗りいただきますよ。見つかったとしたら刃向かうまでです」


 そもそもシャーロット王女は、小舟でやってきたらしい。

 よく考えてみればそれに乗ったらいいのね。もちろん、島の番人に見つかる危険性はあるけれど……確かに、先ほどの腕前を見ていれば何も心配いらないわね。


「行きましょう、ララ嬢」


 ……彼女が一体何のつもりで、ここまで私を気にかけてくれたのか。

 それは今はわからない。私にわかっていることは、とりあえずはシャーロット王女に付き従う他はないということ。


 でもこの先どうなろうと、この最悪の地獄から抜け出せるだけで嬉しくて仕方なかったわ。

ご意見などございましたら、よろしくお願いします。

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