愛より大事なのは金! 〜金好き令嬢は大金持ちの悪魔公爵に嫁ぎます〜
どうしても続きが思いつかない話があったのでここに置いておきます。
あらすじや人物設定はあまり細かく決めていません。
「マチルダ。君との婚約を解消させてほしい」
久々に会った婚約者にそう言われ、わたしは頷くしかなかった。
長年連れ添ったはずの婚約者。しかしそこに愛などなかったのだろう――少なくともうちが貧乏になっただけで切り捨てる程度には。
だがわたしはその事実に落胆してはいない。
別に婚約者に対し未練があるわけではなかったから。それよりもわたしが腹を立てていたのは、別のこと。
(ああもうあの馬鹿姉! わたしがどれだけ苦労してきたと思ってるのよ! 全部パーじゃない!)
婚約者という名の金蔓を失ったことでさらに金運が遠のいていくことだった。
***
平民の中でも最も貧しい貧困層に生まれたわたしの半生は、毎日が生きるか死ぬかの瀬戸際だった。
母譲りの可愛らしいピンクブロンドの髪と男好きのする体だけが取り柄の馬鹿姉が男に股を開いて金を稼ぎ、母がせっせと働いてやっと食品を買う金が手元に残るくらいなもの。そんなわたしたちの暮らしに転機が訪れたのは、母が男爵家の後妻として見そめられたからだった。
実は母は元々商家の娘だったが、父親――つまりわたしの祖父が事業に失敗して貧困層に落ちぶれたのだとか。母が裕福だった頃に婚約していたのがその男爵とやらだった。
後妻の娘、つまり男爵令嬢となって最底辺の生活から抜け出せたわたしは、必死で努力した。
二度とあんな貧しい思いをしないために。わたしが最も大切にするのは金。金さえあればなんでもできる。だから、金以外は何もいらない。
男爵領で作られる農作物の病気を治すため、国中を奔走したり。男爵家の事業がうまくいくようにと取引の手伝いをしたり。伯爵家の長男坊という婚約者を見つけ、彼を金蔓にしたりもした。
そのおかげで我がフレミング男爵家はそれなりに裕福になり、金の不自由の心配をする必要はなくなった……はずだった。
馬鹿姉がやらかすまでは。
馬鹿姉は社交界で知り合った第一王子といい仲になり、なんと体の関係を持ってしまったのだ。
せめて王子の妾の地位を得てそれで満足すればいいのに、欲を出したのか王子を唆し、自分が王妃になるために婚約破棄をさせたのである。
王子の婚約者だったのは侯爵家の令嬢で、大勢の前で恥をかかされたと王子と馬鹿姉に慰謝料を請求。その額が半端ではなく簡単にフレミング男爵家が傾くほどだった。
廃嫡された王子と一緒になっても仕方がないと彼を投げ捨てた馬鹿姉が再びこのような問題を起こさないようにとりあえず適当な子爵家の後妻として嫁がせておいたが、それで何かが解決するわけもなく。
侯爵家に対してたっぷり慰謝料を払わざるを得なかったフレミング男爵家に残った財産は雀の涙だった。使用人を全員解雇せざるを得ず、男爵邸はがらんとした寂しい場所になってしまった。
さらには金蔓だった婚約者にも見放され、男爵家はとうとう没落しようとしている。
わたしはどうにかこの状況を立て直さなければならない。たとえこの体を売るようなことになったとしても。
――だって何よりも大事なのは、金なのだから。
そんな時、婚約を解消されてからたった数日だというのにわたしの元へ舞い込んで来た縁談があった。
わたしも母の血のおかげでそこそこ美人ではあったが、馬鹿姉のせいで評判がガクンと落ちた我が男爵家に婚約を打診することを考えれば、好条件な話ではないことはすぐにわかる。どこかの貴族家の後妻だろうか。それとも、どこかの愛妾にでもするつもりなのか?
手紙の封を開けると、そこに書かれていたのは。
「オグロ公爵家……?」
思っていたより随分好条件な縁談らしかった。
***
――そして迎えた結婚当日。
「初めまして、旦那様! わたしはフレミング男爵家の娘マチルダ・フレミング。そして旦那様の妻となる女でございます」
「……これは偽装結婚だ。マチルダ、君を愛することはないから、そのつもりでいろ」
「はい、承知しています。元々愛なんて望んでいませんので大丈夫です」
血のような真っ赤な瞳でわたしを見つめる血色の悪い薄紫色の肌の男に、わたしは笑顔で頷いていた。
彼がわたしに縁談を寄越した人物。オグロ公爵家当主、デイモン・オグロ――『悪魔公爵』と呼ばれ、多くの者たちから恐れられている男だった。
確かに見た目はこの世のものとは思えないほど醜い。
この国では珍しい黒髪だし、肌の色も瞳の色もおかしい。でもだからと言ってわたしは彼を少しも不快に思っていなかった。
なぜなら彼が、この国有数の金持ちだから。
「変わった娘だな。俺のことをなんとも思わないのか?」
「思いません。強いていうなら、お金を自由にさせてくれればいいなと思って期待しています」
「そういうことではなく俺の容姿だ」
「ああ、そのことですか? 確かに変わっているなとは。でも別に気にしていません。抱かれろと言われれば抱かれますし、触れるなと言われれば触れません」
「……そうか」
男爵と母には散々反対された。
いくら結婚すれば男爵家を立て直せるほどの大金が払われるとはいえ、『悪魔公爵』だけはやめておきなさいと。彼と過去に婚約していた全員が病に倒れており、あの男は呪われているのだと言った。
しかしわたしはそれでも構わない。貧乏で倒れるよりは、贅沢を尽くしてから病で倒れた方が何倍もマシだろう。最期の瞬間までせっかくなら楽しんで暮らしたいものだ。
彼らを振り切ってわたしはこうして『悪魔公爵』に嫁いできたのだった。
早速「愛することはない」と宣言されてしまったが、どうでもいい。
だって彼は大金持ち。贅沢な食事に温かいベッドが待っている。そう考えれば何も嫌なことなどあるはずがなかった。
わたしは嬉々として婚姻届にサインをする。
こうしてわたし、マチルダはオグロ公爵の仮初の妻となった。
ご意見などございましたらよろしくお願いします。




