この男、異世界人には見えないのだが
こちらは短編として書いており、これだけでも完結した話になっています。
第1部「異世界とかいうところから来た男に会ったんだが」
第2部「異世界から来た女と出会ったんだが」
第3部「異世界の少女に手を焼いています」
とは、完全に独立した話になっていますが、もしそれらも読んで頂けると嬉しいです。
また、感想やブックマークもお待ちしております。
それでは、よろしくお願いします。
『キシャー!』
口ではない、体のどこかからか、その様な音を立てて、大蛇が威嚇してくる。
今、俺の眼の前にいるのは、グレートスネーク。
大人の男の2~3倍ぐらいの位置まで頭を持ち上げ、ゆっくりと口を開ける。その全長は今の高さの3倍以上はあるであろう。
近くの細い低木はその体が鞭のように振われると簡単にへし折られ、その威力が伺える。
俺の名前はリンクス。
流れ者の冒険者だ。
眼の前のグレートスネークの隙をじっと伺いながら、得物に力を込める。
こんなロングソードでこいつとやろうってのはあまりにも無謀すぎる気がする。そもそも、真正面から対峙するような相手ではない。
なんでこんなことになってしまったのか。。。
・・・・・・
それは5日前のこと。
ギルドにあった商隊の護衛任務。
それを受けたのだった。
待ちから街への護衛というと、一般的な依頼の一つだ。
今回はキンペの街とコンホーの街との間は定期的に商隊の行き来があるので、森を抜ける街道も比較的整備されている。
大きな商隊は、お抱えの傭兵を持っていたりするので、不定期に行き来をしたい商人、しかも誰かに販売委託をするのではなく、自分自身がその街まで行って商品を販売したり仕入れたりしたいもの、そういう商人達が冒険者を護衛に雇うのだ。
今回の任務だと、センシーの森の街道を抜けるので、森に出現しそうな魔物の対策はしてから出発した。
勿論、想定外の相手に遭遇する可能性もある訳で、そういったときに命を落とすものも少なくない。
・・・・・・
『くそっ。まだ死ぬには早すぎるんだがな・・・。』
目尻に一筋の汗が流れる。
「こっちは片付いたぜ」
後ろから声がする。
護衛として雇われたもう一人の男だ。
依頼人の馬車の安全を確保するため、二手に別れ、俺はこの魔物を食い止めることになった。こちらに合流したってことは、馬車は安全なところまで退避できたということだろう。
「ほう、これは大きいな。」
なかなかの胆力だ。普通はこの大きさの魔物を見たら、威圧感で怯むはずであるが、この男は悠々と歩いてきた。
魔物と対峙する二人。
何秒間かの膠着状態。
それも長くは続かなかった。
ふいに後ろに立った男、ヒサユキから声が掛かる。『キュッ、ギリギリッ』と音がすることから、弓を引いているのが予想できる。
「もうすぐ来るぞ。ちゃんと避けて自分の身は自分で守ってくれよ。」
ヒサユキが言い終わったか否か、頭上を強い風が通り抜ける。
すぐ後にその鋭い音と、グレートスネークに刺さった矢を見て、一撃が放たれた事を認識する。
その刹那、左からグレートスネークの尻尾が大きく薙ぎ払われる。
俺は、慌てて地面に伏せる。
頭上を突風が左から右へ流れる。
「んじゃ、フィニッシュといきますか。」
先程のフルスイングにも動じていない様子のヒサユキの声が聞こえたかと思うと、ヒサユキはグレートスネークの頭に肉薄していた。
そのまま頭上まで飛び上がると、両手に持ったショートソードでグレートスネークの首を切りつける。
「おらよっと。」
グレートスネークは鮮血をまき散らしながら、苦しそうにもだえる。
その間にも、尻尾は周辺の木々をなぎ倒す。
俺はその尻尾が自分の方に飛んでこないかを注意しながら、距離をとる。
一方、グレートスネークはその体躯の大きさから、ショートソードでは、なかなか斬り落とすには刃渡りが短すぎるようだ。
ヒサユキがガスッ、ガスッと何度か切りつけた後、グレートスネークは一度上半身を大きくピンと硬直させ、その後そのまままっすぐに倒れた。
「あー、もう終わったか。」
血まみれのヒサユキは、首が半分とれかかったグレートスネークの背中から現れる。
「大丈夫・・・そうだな。」
近づこうとする俺を手で静止したヒサユキは、バッグから取り出した桶に水をため、頭からかぶる。
「こいつの体液はかなりの毒だからよ。近づかない方がいいぜ。」
そういうヒサユキがなぜピンピンしているのかは分からないが、とりあえず、大丈夫なようだ。それに、グレートスネークが非常に強い毒を持っているとは聞いたことがある。
「グレートスネークは何度も相手しているのか?」
落とした物や、潰されてしまった荷物を回収しながら聞いてみると、ヒサユキは驚くようなことをいう。
「いや、全然。初めて見たし、グレートスネークって名前も初めて知った。だた、こいつが強い毒を持ってることは、戦って分かった、ってことかな。」
「では、なぜ毒に耐えられている?」
グレートスネークの首を落とすときに体液が多く掛かっているヒサユキが大丈夫なのか、という疑問が、なぜ毒を持っていると分かった事よりも先に立った。
「毒耐性のお守りは、前に居た街で出会った同郷からもらったのさ。
・・・んで、あと毒を持ってるって分かったのは、俺はそういう力を授かったってことさ。」
俺の疑問をかぎ取ったのか、もう一つの疑問に対する答えも教えてくれた。
「さて、馬車と依頼人は高台にこの先の高台で待ってもらってる。さっさと行こうぜ。」
そういって小走りになるヒサユキが少し何かを隠すように見えた。まるで、その魔物の力を見抜く力を持っていることについての話しを終わらせたいように。確かに、鑑定の力であれば、多くの者から声が掛かるであろうし、それが煩わしくて隠す者もいるであろう。ヒサユキの力には興味が沸いたが、ここで突っ込んで聞くのも野暮というものであろう。冒険者という生き方を選んだ時点で、何かに縛られるのを嫌っている可能性が高い。
「お主の故郷はどこなんだ、一体?」
「あー、チキュウってところさ。聞いたことあるだろう?俺は1週間前に来たんだ。」
少し久しぶりの投稿をしました。
今後も小品集のように単品の作品を作っていきたいと思っています。
面白く無かったら★1つ、あとは面白さに応じて★2~5つ付けて頂けると嬉しいです。
次回作への励みになりますので、悪い点を含め、感想を頂けると助かります。
どうぞよろしくお願いいたします。