五芒星の器
テラスはその先で、五芒星城塞への石橋と接続している。
五芒星城塞内部に入るための、唯一の通路である、半月堡のテラスからのびる石橋。
城塞の攻防戦、そして城が陥落してからの長い歳月で、石橋は大きな損傷をうけていた。
かろうじて崩落せずにはすんでいるものの、あちこちで床は崩れ落ち、大きな穴が開いている。
ある部分に至っては、わずかに一列の石材のみが残り、まるで丸木橋のようなありさまになってしまっていた。
「さて、これが、あたしたちの体重を支えられるかどうか……」
ケイトリンさんが斥候として、まず、橋を渡り始める。
「なんとか、なりそうだ。一人ずつ渡れ」
あたしはすくむ足を必死で動かして、なんとか渡りきった。
最後に、アマンダさんが渡る。
そして、彼女がこちら側にたどり着いたた瞬間、その後ろで橋が崩落した。
「ああっ……」
驚くあたしを尻目に、白銀の皆さんは顔色一つ変えないが、これ、どうやって帰るんでしょうか。
城門部分にたどり着く。
頑丈な石組みの通路を、三カ所にわたって金属の格子扉が区切っていた。
先頭をすすむケイトリンさんが、ぴたりと立ち止まり、
「よっと」
腐食して折れ曲がった、格子の金属棒を一本ねじりとる。
ケイトリンさんは、狙いをつけると、金属棒を前方の、通路の天井に向けて投擲した。
金属棒は、石組みの隙間に、はめこまれるように突き刺さる。
「さ、急いで渡って」
うながされ、あたしたちは足早に通路を渡りきった。
どこかで、ギリギリときしむ音が聞こえはじめた。
やがて、刺さっていた金属棒が押し出され、ガランと床に落下。
とたんに
ザシュッ!
ザシュッ!
ザシュッ!
ザシュッ!
いま、あたしたちが通りすぎたばかりの通路の壁から、薄い幅広の金属の刃が、何列にもわたって飛び出し、通路を横切った。
「ひゃっ!」
なんと、これだけの歳月を経ても、まだ生きている仕掛けがあったのだ。
ほかにもしぶとく生きている仕掛けがいくつかあったが、あたしたちは、ケイトリンさんに続いて、ぶじに通路をぬけた。
城門の通路が終われば、いよいよこの先が五芒星城塞内部だ。
ところが、通路の出口、つまり五芒星城塞の入り口は、苔むした木の幹と、それに絡まる蔦で、ほぼふさがれていた。
幹と幹のあいだに、わずかに隙間が開いているばかり。
よく見ると、そこには枝や蔦を払ったあとがあり、幹にも刀の痕があって、このすきまを抜けて内部にはいったものがいるようだ。お宝目当ての、命知らずの冒険者かもしれない。
「こっちからいくんだ」
ケイトリンさんが左手を指さす。
のぞきこむと、茂った草や蔦に埋もれて、外壁のうちがわに設置された石段があった。
この石段は、長いことだれも使っていないようで、完全に植物におおわれていた。
アナベルさんが剣をふるい、一面の蔦を切り払う。
じゃまな枝や蔦を払いのけながら、あたしたちは石段を登り切った。
石段は、歩廊に登るための階段だった。
歩廊とは、城塞の外壁の上にぐるりと築かれた、回廊である。
歩廊を護るように、その外側に胸壁が設けられ、胸壁には弓を放つ狭間もある。
あたしたちは、その、歩廊の上に並んで立った。
ただし、外を向いてではなく、内側を――城塞の内部に向かって、立っていた。
そこからは五芒星城塞の中が一望できた。
でも、これは――。
「あの……これって?」
あたしは思わず声に出した。
あまりに意外な光景だった。
「うん」
アナベルさんが、あたしに言う。
「驚いただろう、エミリア? 五芒星城塞は、荒れはてた廃墟だと、みんなそう思っているが、じっさいは……」
放棄され、住む者のない城塞は、確かに廃墟ではあるけれど、それよりも。
見下ろすあたしたちの目の前に広がる、緑、緑、緑。一面の緑。
五芒星の形をした城壁の内部にからみあい繁茂する、鬱蒼たる樹木たち。
歩廊から眺めても、地面は全くといっていいほど見えない。
見えるのは、凶暴とも言えるいきおいで隙間なく生育した木々の、こんもりとした樹冠ばかりだ。
どこかから聞こえる鳴き声は、あれは鳥か、獣か、それとも魔物か。
五芒星の器に盛られた、溢れんばかりの緑の密林。
それが現在の五芒星城塞だったのだ。
あたしがあっけにとられていると、
「エミリア、わかるか、あそこ、それからあそこ……」
ケイトリンさんが、城塞内部を指さす。
「ええと?」
その指さす先に目をこらせば、ほとんど緑に覆われてはいるけれど、なにかの構造物がみとめられた。
あるものは崩れ、あるものは横倒しになっているようだが、あれは……
「あれは……塔、ですか?」
「そうだ。五芒星城塞の中心には、かつて四つの塔があった。すべて倒れた。あれが、その塔の残骸だ」
アマンダさんが続ける。
「わたしたちは、今からそこに向かうんだ。いや、正確には――」
と、アマンダさんが何かを言いかけたが、突然、下の方から
「うわーっ、たすけてくれーっ!」
と、悲痛な叫び声がひびき、
「ぎゃああーっ!」
喉が切れるような絶叫がそれに続いた。
アマンダさんの顔が引きしまった。
「だれか、襲われているな。みんな、いくぞ!」
「はいっ!」
あたしたちは、叫び声をめざして、駆けだした。
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