プロローグ 異形の仮面
お読みいただきありがとうございます。本作品は、私が現在公開中の「アンバランサー・ユウと世界の均衡」からのスピンオフです。本編ともども、お楽しみください。
――滅びた城砦には、隠された部屋があった。
この間に、その廃墟を探索した数多くの者たち。
新たな支配者の命を受けた探索者、宝物の噂を聞きつけ一獲千金を狙う冒険者、ただの度胸試しの無謀な若者、何も知らず足を踏み込んでしまった旅人…。
四百年の永きにわたり、その部屋はだれにも気づかれなかった。
開けられることのない、その部屋の中には。
黄金の坐像があった。
異形である。
人の形をしてはいるが、腕は六本。
そして、正確には、黄金でできているのは、首から下だけである。
異常に長い、かしいだ頸の上に乗ったその頭部は――おそらく朽ち果てた、なにものかの生首。
唇が落ち、歯がむき出しとなっている。
その歯も、半分以上が脱落して、青黒い口腔内が露出している。
長い歳月によりミイラ化したその首。
しかし、
……モルテ ノルテ チキ メンド…
……モルテ ノルテ チキ メンド…
その生首は、喉の奥からかすかに、今やだれもその意味がわからない古い古い呪文を詠唱していた。
生首は、仮面をかぶっていた。
蒼く輝く金属の仮面が、何事かをつぶやく生首の、唇から上を、頭頂部まで覆っていたのだ。
そして、その仮面。
左右に突き出した耳は、まるで獣の耳のように大きく横に広がっている。
鼻梁は薄い板のようになり、長く、頭の上まで伸び上がっていた。
そして、その目。
その目は、あたかも蟹の眼のように眼柄をもち、顔面から前方に突き出していた。
眼柄の先にある眸は、縦に細長い。
異相である。
手でさわれるかのように濃密に漂う、まがまがしい瘴気。
この部屋は、だれにも発見されるべきではなかった。
時が果てるまで、けして…。
【作者註】ここで描かれている仮面は、わたしたちの世界では、中国三星堆遺跡から発見された、青銅戴冠縦目仮面がおそらくいちばん似ているものと思われます。参考までに。
本編「アンバランサー・ユウと世界の均衡」は、こちらからどうぞ。現在、第一編「エルフの禁呪」、第二編「星の船」、第三編「時の大伽藍」までが完結しています。
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