守ると壊すは紙一重
今回はほのぼの童話を外れて
ラストに残酷な表現が入ります
苦手な方は心の準備を……
もうとっくに日は落ちて
影は全てを黒く塗りつぶさんばかりに広がり
月の輝きと
開いたままの妖精の花々の光だけが
淡く辺りを照らしています
ユリは、風になっていました
心は熱く滾り、しかし頭はすっきりと冷静で
ユまるで完成された芸術のように
一切の無駄なく洗練された飛行を
息をするのと同じ、ごく当然のことのように続けます
今のユリを目で追えるものは
この世界に、ほんの一握りしかいないでしょう
「ぎぃやあああ!!」
耳に入った叫び声に
ユリは即座に上昇し、木々の間を見渡すと
どこかで見たピンク色の妖精が
おどろおどろしく闇に染まった黒狼に
襲いかかられていました
「掴まってっ!」
急降下したユリが手を差し伸べて引き上げ
近くの木の枝の上に飛び乗りました
「うわああん! ビオラ様!
帰ってきてくださったんですねぇ!
ぼく、ずっとビオラ様ぁぁああじゃないだと!
お前さんいつかの夜遊びくんじゃあないか!
あのなあ、夜っていうのは危険がいっぱいでなあ、
「あの、今の方がよっぽど危険じゃないか?」
「ああ、そうだな。俺もそう思うッ!」
黒狼がなんと木をバリバリいわせながら
よじ登ってきたのでサクラがとっさに回避しました
「逃げるぞ!」
「だめだ!」 「なぜだ!」
「向こうにはみんなが避難してる!」
「だからってどうすんだよ!」
ユリが、喉をゴクリと鳴らしてから答えます
「ぼくが倒す!」
サクラはちょっと目をピクッとさせ
「妙にキラキラしてると思ったら
次世代のってわけだな
なるほど……そうか……じゃあ、頼んだぞ!」
木の影にさっと隠れました
ユリは黒狼と対峙して両手をかざし
ギンッと光を放って……
……放って……?
くるっと引き返してきました
「なっ! どうした!?」
「大変なことに気づいたんだ!
ぼく、戦い方わからない!」
ユリが大真面目に答えます
「なんだってっ!?
それでおまっ、おまえ、倒すと?」
「なんかいけそうな気がしたんだ」
「いけそうでいけるんなら、魔物は全滅してる!」
サクラが、緊張に細くすぼめられた目で
里のある後方と正面の黒狼を交互に見ること数秒の後
目を見開き何か思いついた顔をします
「なあ、ビオラ様に教えてもらった
魔法の呪文なるものを
出来る限り伝えるから
とりあえず、がんばってみてくれ」
「え、そんなこと言われても、ぼく
「まずな、『うおーたー』なんたらだ!」
「『うおーたー』? それで、どうがんばるの?」
「想像するんだってよ!
そんでもって唱えるんだ!『うおーたー』って!」
「想像って……」
"うおーたー、うおーたー….うーむむ
あ!魚太! きっと魚の男の子だな!
つやつやの鱗にひれ、尾っぽと……"
「 『おいで!魚太!』 」
ユリの正面に、青白く鮮烈に光る線で
複雑な文字に囲まれた円と、幾何学模様が浮かび……
ービチビチッ
手乗りサイズの魚が現れました
「ちがあーーうっ! そうじゃないんだよ!!
魚出してどうすんだ!
魚が狼に勝てると思うか?なあ?
ん、待てよ? 今の召喚だよな?
召喚の時って、ビオラ様すごく大変そうだったし
長々したの唱えてたよな?
それになんか、名前だって
聞き慣れないのを勇者様につけてもらってたよな
えっと…確か、『ゲムベンベ』、だったか?」
「ブッフォオッ!!!」
「「……えっ??」」
驚いた2匹が振り向いた先には
耳を真っ赤にして
フルフルしながら手で口を覆うスズランがいました
ちょっと間があいてから
「スズラン! 無事だったんだね! よかった!」
「え、ええ、そうね、なんとかね」
満面の笑みのユリの言葉に
スズランがどもりながら答えます
安心して、ユリはだらしなく表情を緩めました
「まて、喜ぶのは早いぞ
たくさん連れてきやがって」
いつのまにか3匹は20を超すほどの数の
黒狼に囲まれていました
「えへへっ あたしったらモテモテでさ…
ぜーんぶ連れてきちゃったんだ! てへっ♡」
「まじかよ!おい……」
「いや、むしろ助かったよ
いずれどうにかしないといけないんだから
集まってたほうが楽ちんだろうし」
「それは奴らを倒せる戦士の言うことだ」
黒く唸る群れはじりじりと近づいてきています
不思議そうにしたスズランに
ユリが今までの経緯と
サクラが今の状況を手短に話すと
「つまり、ユリくんが
はっきり魔法を捉えられればいいのね?」
ユリが自信ありげに尋ねました
「その通りだ。だが……
「なら大丈夫! 得意分野よ!
そうねえ……
自分の腕が、実際の長さよりも長く
うん、だいたいこの辺まで伸びてる想像をして、
その部分に、風を集めて
薄く薄く、鋭く鋭く形作ってから
そこにユリくんの意思と決意を
できた刃が、どんな大木だって両断できるほど
強くなるまで込めて!
それを見つけたから、ユリくんは今の
随分頼もしそうなユリくんになったんでしょう?
きっと出来るはずよ!」
ユリはこくんとうなづきました
"刃は、あの日のスゲの葉のように鋭く
形は、いつか読んだ絵本の勇者の剣のように
ぼくは……ぼくは、
この恐ろしい敵を倒すんだ!
みんなを襲う恐怖を壊して消し去る!
ぼくならできる!"
意志の強さが、たわむつむじ風を凝縮させ
ユリの両腕の先に、エメラルド色に発光する
嵐の剣が2本生み出されました
「すごいよユリくん!」
「何も唱えずに……むちゃくちゃだが、すげえな!」
褒められてたユリはちょいちょいっと頬を掻いてから
黒狼に向き直りました
「俺ら妖精の武器は素早さ。
より軽く、より速く。集中するんだ」
「リズム感を大切に、空中でステップを踏んで
舞うように戦うのがいいとおもうわ」
2人の言葉を聞きつつ
頭のてっぺんから羽のいっちばん端まで
神経をピンと張りつめさせていき
深く息を吸いこみ、
ふーーっと全て吐ききると
跳躍した
月に重なったユリは
それから脱力して落ちるに任せながら
" ぼくはッ 守るためにッ "
その闇よりも深い瞳を見開き
"彼らをッッ
……コロスッッ"
黒狼に狙いを定めると加速して
''ズザッッ!''
化け物の眉間から腹まで剣が突き刺さり
血が飛沫をあげる
凶悪なまでに紅いそれをもろに浴びたユリは
血走った目でギロリと獲物を舐めつけ
咆哮をあげた