常春の地に起きた異変
ユリくんは仕事場のみんなと
ちゃんと話をするべく
オオイヌノフグリの青を探しています
そして、見つけました
"あれ、なんでこんなに落っこちてるんだろう?
嵐でもあったのかなあ?あ、さっきの突風?"
近くで切り株を囲んで何やら真剣に
話し合っているみんなを見つけ駆け寄ります
「やあ、みんな!
あの……突然いなくなってごめん
ちょっと混乱しちゃっただけなんだ
だから、その……
お話に入れて欲しいな?」
首をこてんと傾けると、
タンポポが泣きじゃくりながら
ユリに抱きついてきました
「うええええん!ユリィィィ!
バラざんがぁ
あんまりむりにはなじがげぢゃだめっでいうがら
がまんじだのにぃぃ
まだいなぐなるしぃ〜!
うちらがどれだげじんっゲッホゲホッ!
じんばいしたかあぁぁ…ズルルッ!
ごのあほおーーー!
「え? なんて?」
「はいはいごめんねタンポポ!落ち着いて……」
ハンカチを手にしたバラさんに
引きずられて行きました
「ふふっ…何も……伝わってない……
タンポポ……かわいそ……ふふふっ…」
「なあなあ、あの時、すごい形相だったけどさ!
一体何があったんだよ?
そういえばさっきお前さんが散らかし
「そんなことよりもお〜
ユリきゅんが戻ってきてくれたの、
マーガレット、すご〜くうれしいんだよん?」
みんなが堰を切ったように話し出します
下を向いてプルプル震えていたアヤメが
ばっとユリの両手をギュッと握りしめて
キッと目を合わせてから
おでこをユリの肩にすりすりしながら、
「ユリさあああん!
私なんかしちゃったんでしょうか?!
どこを直せばいいんですか?
私、まだまだ未熟ですから!
1人じゃダメなんですよう……
ちょっとやってみましたけど、全然できなくて……
あっ ユリさんいい匂いする クンカクンカ(小声 」
「おおう? アヤメごめんな。迷惑かけて
アヤメのせいじゃないから
アヤメはそのまんまでいい……たぶん?(小声 」
こんなに熱烈に迎えられると
おもっていなかったユリは
嬉しさと困惑が半分半分でした
「と、に、か、く!
戻ってきてくれて良かったわ!ユリくん
何が起きたのか聞いていいかしら?」
みんなは静かになり、興味津々でユリを見つめます
「えっと、それを話すにはまず、
2日前、ツツジを治したあとに遡るんですけど、
あのあとぼく、森に行って……
「んん?? 2日前のツツジ?
もう、10日以上ツツジは治してないわよ?」
「……っふぇ?」
「いや、だって、あなた10日間寝て
ずどおおおおおんッ!!!!!
パリンッパリンッパリパリッッ!!!
地面に響き お腹の底をびりびり震わすような爆音と
結晶が割れたような高い音が連鎖して響きました
全妖精たちは騒然として
誰かが持っていたのだろうものが散乱し
あっちでコロコロこっちでコロコロしています
あまりの恐怖にみんなの顔は蒼白になり
3秒後には各ブースのリーダーを中心に
ギュッと抱き合った妖精団子ができていました
「何が起きたのかしらね」 ザワザワ
ブツブツ 「怖いよう」
「何かが壊れた音がしたな」
ヒッグヒッグ 「びえーーーーーんっ!」
「タンポポ…ちょっと…シー……ね?」
「大変だあーーー!
南の結界が弱まってたみたいだ!
悪しきものに突破されたんだって!」
黄色い妖精が大声で叫びながら通り過ぎました
「そんな……母なる精霊樹の結界が……
一度綻びができたら
どんどん広がってしまうわよ」
呟くバラの声を拾ったユリたちに
不安が広がります
「どうにかできないんですか?」
アヤメが焦れてぽつんと尋ねました
「妖精だって結界は張れるけれど、普通、
ろうそくの火を吹き消すほどの力で割れちゃうわ
となると、精霊樹を復活させるしかないわね!
私たちの出番だわ。なんとか治しましょう」
バラが仲間たちをギュッと抱擁し、声をかけました
ユリは少し悩んだあと頰をペチンっと軽く叩いて
「わかりました!
まずはいつも使ってる緑玉に
祝福を込めてくっつけてみましょうか」
努めて明るい声で応じました
「っじゃあ、おれは!
精霊樹は硬くてなじまなそうだし、
とっておきの甘くてなめらかな
ノリを作っておくな!」
「私も頑張ります!
ユリさんをちゃんとサポートしてみせます」
「ん……わかった、おけい……」
「マーガレットだって〜
みんなのためにがんばっちゃうんだから!」
「うわああん!置いでがないでよぉおお!」
覚悟を決め、手を繋いで精霊樹のある
泉のほとりへ出発しようとしたその時
「ダメだ!行くな!
西の方に魔狼が侵入している!
泉だって時間の問題だ!手遅れなんだよ!
東の里だけでも守るために
今すぐ全員で結界を張るべきだ!
じゃないと僕らは全滅してしまう!」
西からやってきた黄緑色の妖精が
声を張り上げました
「確かにその通りだ!早く結界を張ろう!」
「魔狼だなんて!恐ろしいわ!」
「そんなあ!私の花、泉のそばなのに!」
「誰かのとこに住まわせてもらえるさ」
「どの辺までは安全なの?」
「魔狼はキノコが苦手みたいだよ」
「じゃあ、そこに張るのがいいんじゃないか?」
静かだった妖精たちが途端に騒がしくなります
「どうします?」
「どうしましょうね」
ユリとバラが目を合わせボソッと呟きました
いきなりユリが目を見開き
ばっと振り向いて西を見ました
脳裏にスズランの笑顔が浮かんだのです
スズランとは泉で別れました
それに……スズランの花は西にあります
気づいた途端、ユリの身体中から
嫌にひんやりとした汗が吹き出してきました
「すみません、バラさん、ちょっと……」
「え? どうしたのユリ!」
バラに断りを入れ今にも飛び立とうとした時でした
「あ!そうだ!ここには
奇跡の黒妖精がいるじゃないか!」
声が響き、
あたりがシーンと静まりかえりました
ユリはみんなの視線が
自分に集まったことに気づき
困惑しつつ身を縮み込ませました
声の主は続けます
「彼は魔力と素質が狂ったように高くて
<先祖に選ばれし精霊の騎士>のたまごなんだろ?
輝く羽も美しい歌声も
力以外なーんにも持ってない奴でも
こんな時くらいは役に立ってくれるよな?」
「コケモモッ!」
バラが咎めるようにきつく言い放ちました
コケモモは悪びれずに答えます
「ああ、内緒だったっけ?
でも、今は非常事態だ。
使える人材は全投入したほうがいい
そもそも、リーダー格はみんな知ってたろ?」