聖なる泉への逃避行
前半がとんでもなく暗いです。
苦手な方は流し読んでください。
あんまり派手に飛び出したものだから
周りに咲いていたオオイヌノフグリが
ぽろぽろ落っこちて
青い絨毯ができてしまいました
もう点ほどに小さくなっていってしまったユリは
それでもここまで風が届くほど
必死になって飛んでいて
その姿に普段のしなやかさや曲線美はなく
羽音の喧しさはさながら生き急いだ蝉のようです
置いてけぼりの仲間たちは
呆気にとられてぽかんと口を開けたまま
顔を見合わせました
さて、ユリはどこへいったのでしょうか
ユリは泉のほとりに来ていました
その顔に悲しみや悔しさの表情はなく
ただ静かに泣いていました
なんであの時飛び出したのか
なんでこんなにも涙が止まらないのか
ユリ自身にもわかりませんでした
全身にだるい脱力感があり
自分だけがこの世界から
ぺいっと放り出されてしまったような感覚だけが
ユリの頭にこびりついています
それよりもっと変なのは
放り出されてしまう前の世界に戻ることが
魅力的に思えないことです
"なんでかな、おかしいな
ぼくはまたみんなと働けることになったのに
どうしてとびでてきちゃったんだ?
でもまあ、いいか
ぼくが行かなくったって誰かがやるだろうし
代わりはいくらでもいるんだ"
空虚な心は果てなく深く
1度入ってしまったら
どうやって出るのか
そもそも出口なんてあるのかわかりやしません
"ぼくだけじゃない
本質はみんな一緒だ
アヤメだって、マーガレットだって
いまの自分がただの道具とおんなじって
気付いてないだけだ
ご苦労なことだ
自分だけの特別さを信じて疑わないんだから"
水面に手を乗せてすいっと円を描くと
波紋が広がって、向こうまで行って戻ってきて
映っているユリの姿がゆらゆらゆれます
それが何故だか気に食わなくて
足をひんやり冷たい水中に差し入れ
思いっきり蹴り上げると
上がった水しぶきと白いあぶくが
今度はユリの姿を全部かき消します
ちょっとユリはすっきりしました
しかし、すぐに泉は静寂を取り戻し
鏡のようにくっきりとユリを映します
やるせなくなったユリは
羽をたたみ両腕でぎゅっと体を抱いて
静かに泉に入りました
音が遮断され時々
ぽたん、ぴちょん、涼やかな水の音
生き物の気配はなく
ここにはぼくがひとりぼっち
奪われ続ける体温と水温の差を感じることはもうない
さらに深く……蒼く……
深く……群青に染まる……
ふかく……
""だめだ!!""「がはっ! ブクブク」
""ぼくは今何をしようとした!?""
無我夢中で水をかいて足をばたつかせ
羽を、今にも折れそうなほどしならせながら
全速力で地上を目指します
さっきまではまったくそんなことなかったのに
肺が押しつぶされそうなほど苦しく
身体中の血がギュンギュン巡っているのを感じつつ
目をギンと光らせながら
上昇していくことしばらくして
やっと見えた光に飛び込み
そのままの勢いで岸にあがりました
「ぷはあっ! なんだ? なにがおきた?
なんでこんなことになった?
ぼくは、今、全部を諦めようとしたのか?」
ユリは混乱して息継ぎも忘れて自分に問いかけます
「ぼくは、もうだめなのかもしれないなあ」
打ちひしがれ、膝を抱えて蹲りました
「どうしたの? そんなに濡れちゃって
落っこちちゃったの? ドジだなあ〜」
あっははっ、と声を出して明るく笑うのは
いつの間にかやってきた
真っ白ふわふわのスズランです
「この前あたし、今のユリくんみたいなの見たよ!
ほっぺまでパンパンに木の実を詰めたリスさんがね
木の枝についてるどんぐりを取ろうとしたの
そしたらね
ヨタヨタってして、すてんって転んで
真下の川にぼっちゃん!
もう、ずぶ濡れでびっちょりだった
リスの尻尾ってホントはあんなに細いのね……
木の実は全部流れちゃったの
ユリくんもそうなの? そうなのね!
だからそんなに落ち込んでるのよね!
集めるの手伝ってあげようか?
でもこの泉深いからなあ……
いっそ全部水ぬいちゃおうか!
泉の水全部抜く! ってね
それか、あとはぁ…… 網とか?……
ん?ユリくんどうしたの?」
スズランは驚異のノンブレスで言い切ると
何も言わずじとーっと見つめるユリに聞きました
「スズランはいいよなあ悩みとかなさそうで」
「失礼ねっ!あるわよ!
ほら、私の花って狭いじゃない?お姉様達多いし。
最近食べすぎちゃってね、やばいの!
今朝もなかなか出れなくて
出たとおもったらね、スポン!って
音なっちゃったの!もう恥ずかしくて……
ダイエットしようかしら
っていうか!ユリくんほんとにどうしたの?
ブルーベリーみたいな顔色じゃん!」
ユリの異変にようやく気づいたスズランが
自慢のふわふわの羽でユリを包みながら
心配そうに尋ねました
「でもスズランに言ってもなあ……」
「もったいぶらずに話しなさい!
このスズランお姉様が
聞いてあげてもよろしくってよ!」
末っ子のスズランのその言い草に
ユリは思わず吹き出します
「ぷっ! そういうところだよ!」
「どういうところよ!
ちゃんと真面目に聞くから!
話してよ、おねがいだから」
スズランの、真剣な色をはらんだ白銀の瞳に
まっすぐ見つめられて
ユリは泉でのことは伏せて全て話すことにしました。
次回あたりから物語が大きく動きます!
乞うご期待!!
とは言ってもこの作品
1人にでも読んでいただけているのでしょうか
異世界転生ものや令嬢ざまあものが
フィーバー中なうえ、
書きたいものだけ書き散らかしているので
ある程度覚悟はしていましたが
不安です……
もし、読者様がいらっしゃいましたら
痕跡を残していただけると励みになります。
コメント等いただけたら泣いて喜びます。