それでも朝はやってくる
なじみ親しんだ光が
花びらの間から差し込んできました
中の妖精の気持ちなんか知るはずもなく
百合はツヤツヤきらめいて
朝だよ、朝だよ、と
ユリを優しく起こします
本当はずっと出たくないと思うユリですが
そんなわけにはいかないので
勇気を振り絞ってお仕事に行くことにしました
"ぼくが勝手に休んだのだから
ちゃんと理由を話して、ちゃんと謝ろう
もしかしたらまた仲間に入れてくれるかもしれない
そしたら今までよりもっとがんばろう
もしもだめだったら……
だめだったら次のお仕事を探さないといけないな
だいじょうぶ
きっとなんとかなるさ……"
そんなことを考えながらふわふわ飛んで
バラさんを見つけました
今日は昨日とは別の
オオイヌノフグリの花を治すようです
百合の絵を手のひらに3回書いて
大きく深呼吸をしてから
バラさんに話しかけました
「バラさん、おはようございます
それと、突然休んでしまってすみませんでした」
「大丈夫よ。気にしないで」
にこりと笑うとバラはそそくさと去って行きました
ユリはちょっぴり困惑しました
"気にしないでって?
ここにいてもいいのかな?
それとも、ぼくの後は決まったから
自由にしていいってことなのかな?"
そのままぼーっと立っていると
アヤメがやってきました
「おはようユリさん
今日からまたよろしくお願いしますね」
そう呼びかけられたユリはうれしくなりました
自分の居場所をたしかにここに感じたからです
「じゃあ、またぼくを仲間に入れてくれるのかい?」
「ユリさんは変なことを聞きますね
いまさら私たちが仲間だなんて
言う必要もないでしょう?」
ユリは今度は少しの違和感を感じました
昨日みんなと楽しそうに仕事していた
彼らは一体どうなるのでしょう?
「あの2人なら、もう来ませんよ
ユリさんの方がずっと早いですしね
ユリさんがいない間とっても大変でした
でも、これでもう安心です」
尋ねたユリに、アヤメがそう答えましたが
それを聞いてもユリの中の違和感が
拭い去られることはありませんでした
それに形をつけられず戸惑うユリを残し
アヤメは仕事場に行ってしまいました
ユリもその後を追います
やっと追いつくと、
仕事内容を話すバラとみんながいました
振り向いてユリを見て目を見開き
ちょっと手を振ったり、笑いかけたりした後
すぐに元のようにバラに向き直りました
「今日もオオイヌノフグリの花を修復
1つの花あたり青玉10個必要ね
いつものようにユリは祝福、アヤメは補助。
それから、タンポポとホウセンカで運んで
スミレとマーガレットでくっつける。
わかったら、さあ、始め!」
バラが指示を出しながら青玉をユリに渡し
みんながテキパキ働きはじめました
ほどなくしてユリは違和感の正体に気づきました
変わらなすぎるのです
"昨日、ぼくが休んだせいで
みんなは違う誰かを仲間に迎えて楽しく仕事をし
今日、今度はぼくが来たせいで
さようならしたと言うのに
ぼくは特に何を言われるでもなく
まるで何もなかったかのように
きれいさっぱりもとどおり
あの2人の存在は
まったくもって無かったのとおんなじみたいだ
じゃあぼくは?
ぼくがある日ずっと戻れなくなったなら?
ぼくより優秀な子があらわれたなら?
きっと、まったくもって無かったのとおんなじになる
ぼくだけじゃない
他の誰でもそうなるんだろう
まるで仕事場は大きなカラクリで
働くぼくらは取り外しできる歯車だ"
そんな考えに至ったユリは
全身にゾゾっと鳥肌が立つのを感じ
それからどんどん怖くなりました
ふと目の前の青玉に目を向けると
それの方が自分よりも唯一らしく見え
全てを吸い取られてしまうような気がして
思わずユリは手をばっと離してしまいました
パリンッ
ぎょっとしたみんながちらりとユリを見ました
ユリは顔をしかめながら
少しの間じっと破片を見つめ
それから
逃げた