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あの子だけが知らない




ユリが目を覚ましました

花の力をたっぷりもらいながら

ぐっすり眠ったおかげで羽もきれいに治っています



うんとのびをしてから、花びらを開くと

太陽はもう1番高いところに来ていました

お仕事の時間を過ぎてしまっています

ユリは焦って飛び出しました



"ぼくがいないと治療はできないに違いない

きっとみんな困ってしまっている

きっと祝福が足りなくて迷惑してる

みんなに謝らないと…… "  



そう思いながら一生懸命飛び続けます



妖精たちはみんな自分の仕事に取り組んでいて

あちらこちらから楽しげな声や

リズミカルな作業音が聞こえてきます




『カラコロトントン カラコロトン

 

 5つに2つはとらないの

 リスさんだってほしいもの

       鳥さんだってほしいもの

 

 みんな大好き美味しい木の実

 カラコロトントン カラコロトン』


   


    『クルクル あみあみ ぬいぬい ポン 

     できたよ できたよ おようふく


     冬はフワフワ 夏ならサラサラ

     どうして?  魔法かな? 

  

     込めた想いは奇跡を起こす


     クルクル あみあみ ぬいぬい ポン』




ユリはどんどん飛んでいきます



やがて、真っ赤なバラさんの羽がちらりと見えました

花がぽろっと落ちてしまったオオイヌノフグリのそばに寄り添うように立っています



すぐに合流しようと思ったユリは

地面に降り立ち駆け寄ろうとします



しかしその足が中程でピタリと止まりました




『ぼくらは森のお医者さん

 どんなお怪我も治します!


          虫さん 風さん お日さんの

          きまぐれだってこわくない


  ギューっと詰めて

       ポンポン弾めば

         フワッとピタッとさあどうぞ!』




歌が聞こえたのです

あの、()()()()歌が元気よく聞こえてきたのです



()()()()()()()()



右斜め前のの茂みに隠れてそっと奥をのぞいてみると

自分が長いこと仕事してきた仲間たちと

知らない2匹の妖精が

楽しそうに作業をしていました



中でも、アヤメと知らない2匹の妖精は

特に仲が良さそうで

両手を繋いで輪になり

3匹で一緒に祝福を込めています



ユリは自分の中に嫌なモヤモヤした感情が

湧いてくるのを感じました



"今までぼくはみんなのために

たくさんがんばって祝福してきた

なのにちょっぴり遅れただけで

別の子呼んで、仲良くなっちゃうんだ

へえ、そうなんだ……"



考えれば考えるほど

モヤモヤはなんだか淀んで重くなっていきます



"でもぼくじゃないとうまくいかないに決まってる

そうだ、ここでちょっと見ておいて

うまくいかなくなって

みんながぼくの名前を呼んだら

今きたよって言いながら出て行こうかな"



そう思ったユリは様子を見ることにしました







しかしユリは知りません

ユリが10日間も眠っていたことを



ユリを心配した仲間たちが

ぎゅっとかたく結ばれたままの百合の蕾を見つけ

何かあったに違いないから

起きてくるまでゆっくりさせてあげようと

仕事に戻ったことも



3日目に、自分1人でなんとかしなきゃと

がんばりすぎたアヤメが寝込み


5日目で、バラが友達のつてをたどって

祝福の経験がある先輩達を呼んできて練習し


8日目から

3人一緒に祝福をすることで

治すのに必要な力がごく少ないお客さんだけをとって

なんとか仕事を消化しはじめたことも



責任感の強いユリが戻ってきたときに

罪悪感をもたないように

みんなで歌って

意識して楽しく働くようにしていることも



ユリは知らないのです







待てど暮らせどユリが呼ばれる気配はありません

それどころかみんなはニコニコ笑ってます

ユリの目にじんわりと涙がたまってきて

1つぽとんと落ちました



"じつはぼくは最初から

みんなに疎まれていたのかもしれない


妖精なのに歌も踊りもあんまり得意じゃないし

羽も黒くてキラキラじゃない


1人でがんばろうとしてたことも

助け合おうとしない

生意気なやつだって思われていたのかもしれない


ちょっと力が強いからって

受け入れてもらえてると思い込んで

調子にのってる嫌なやつだったのかもしれない"



ユリはどんどん不安になって

悪いことばかりぐるぐる考えてしまいます

目の前に広がる光景が

その考えを裏づけているように感じられて

つらくて悲しくてたまらなくなりました







結局そのまま夕方になってしまいました

周りの妖精たちは花に帰っていきますが

ユリの仲間たちに帰る気配はありません



"よっぽど楽しいんだな"



すっかり意気消沈したユリは

もう今日は仕事に戻れそうにないと思い

帰ることにしました



みんなに見つからないように

そっと木の影になっているところに出てから

一気に羽ばたいて高度を上げました



あんなにお気に入りだった虹の絹の光景も

今のユリの気持ちを晴らすことはできません



キラキラしていて美しい眺めだとは思いますが

あの中に黒い自分が入ってしまったならば

どんなに異質で邪魔だろう、と

そんなことばかりが頭に浮かびます



ユリは、そのままの高度で飛び続け

視界が滲んでふらふらしながらも

百合の近くまで来ました



それから、近くに知り合いがいないことを確認して

静かにそろりと舞い降りて

花の中に閉じこもりました





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