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人知れず、深い森では今日も

ぽたんと泉に還る雫

そこからぱあっとひろがる黄金色の光

やがて水面から溢れて静かに辺りを照らす




聖なる森に朝がやってきました


          


そっと首をもたげたユリから飛び出た妖精が

つやめく黒の羽をピンと張って

仕事場に向かって飛んでいきます



「おはようユリくん。今日はいい風がふいてるね」



西からやってきた白い羽の妖精ががクルクルまわりながら言いました



「おはようスズラン。たしかにいい風だから、お仕事もうまくいきそうだ。それじゃあ、またな」



ユリは手を振りながらそう答えると、

大きく羽ばたいてずっと上にある枝に座り、辺りをぐるっと見渡しました



通勤中の妖精の羽の輝きが尾をひいてかさなって

美しい虹色の絹が織られているように見えます

この眺めはユリのお気に入りです



満足げな顔をしたユリは、よくやく見つけた真紅に向かって滑空していきました









「バラさん、おはようございます。今日のお客さんはこのツツジですか?」



「ええ。虫に好かれすぎて花が欠けてしまったようなの。再生の祝福を赤玉に込めて修復しましょう」



バラは鈍く赤く光る箱をユリに渡すと、集まった仲間たちを見回し、こう続けます



「いつものようにユリは祝福、アヤメは補助ね。それから、タンポポとホウセンカで運んでスミレとマーガレットでくっつける。今回はだいたい50個必要よ。

わかったら、さあ、始め!」



ちょうどユリが箱から取り出した1つに祝福を終えたところで、みんながテキパキ働きはじめました



赤玉を受け取ったホウセンカが花弁の真下まで弾ませ、そこからタンポポが浮かせて届ける。そしてスミレが作ったのりでマーガレットがくっつける。

この作業を繰り返していきます






ユリはどんどん赤玉に祝福をしていきます

胸の奥を巡る暖かい力を出し、玉を優しくつつんでから、注意しつつギューっと詰め込むのです



祝福は妖精の力そのものを使うので、ふつうはたくさんの妖精の補助を受けながらします

けれど、ユリの力はとても強いので、たった1人の補助でも大丈夫です



ユリはこのことを誇りに思っています

みんなに信頼されていて、期待されている

と思っていて、いつか1人でもできるようになろうと張り切っています



『ぼくらは森のお医者さん

 どんなお怪我も治します!

 

          虫さん 風さん お日さんの

          きまぐれだってこわくない

 

  ギューっと詰めて

       ポンポン弾めば

         フワッとピタッとさあどうぞ!』


 

誰からともなく歌い始めます

するとすぐに大合唱になりました

お仕事の時、歌を歌うのが妖精のお決まりです



フワリフワリ舞っていたり

玉を指でシュルシュル回していたり

楽しんでいて、まるで遊んでいるかのようです



近くで心配そうに見守っていたツツジの妖精もバラの手を取って踊りはじめました



ユリは歌を遠慮がちに口ずさみつつ

アヤメと手をつなぎ、足りなくなってきた力を分けてもらいながら作業に打ち込みました






日が暮れ、周りがオレンジ色に染まってきた頃には

50個の目標も達成し

ツツジの花はすっかりもとどおりになりました



バラがお仕事終了の号令をかけると

みんな、自分の花へ帰っていきました






ユリは今日、いつもより1人でできた分が多かったと

満足していたので足取りが軽く

鼻歌を歌いながらルンルン帰り道を飛んでいました



そして、ふと

いつもと違う道から帰ろうと思い立ちました





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