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ダムの底:呪われた村  作者: 本宮 圭司
12/13

拡散

とりあえずわかったことを整理してみるとこうなる。

水に乏しい土地であった四輪村では雨を降らせることのできる弥代日家が信仰の対象になっていた。戦後に用水路が整備され弥代日家への信仰は弱まった。そのことに怒った弥代日家が大雨を降らせたと考えた村人は彼らを殺した。

その後村人の身体が干からびて死んでいくという自体が起きた。彼らはそれを弥代日家の呪いだと考えた。そこでダムが建設され村人は村を離れて呪いから逃れ、村はダム湖に沈んだ。

しかし今になってダム湖が干上がり、再び現れた村に立ち入った者たちに呪いがかかった。

片岡は呪いにかかって生き延びた者はいないと言っていた。それならば唯明と鈴木、そして市川は全員死ぬことになる。しかし彼らが呪われる道理は本来無いはずだ。弥代日家殺しに加担したわけでも無いのだから。

「理不尽じゃない?」

市川が言った。

「そうだな、亮たちも市川もただ村に行っただけなのにな」と大垣。

「それに対して片岡は弥代日家殺しに加担してるのに呪いを受けて無いしね」

「呪いを受けてないのはおれも同じだな」

思い出したように大垣が行った。

「なんで大垣君は呪われなかったんだろ?」

羨みではなく純粋な疑問で言った。

「村でも一度に全員が呪われたわけじゃなかったみたいだし、呪いをかけられる人数には限りがあるのかもな」

言われて見ると確かにそうかもしれない。だが市川の頭にもう一つ疑問が浮かんだ。

「なんで私の呪いは中途半端なのかな」

「どういうことだ?」大垣が訊く。

「鈴木君も唯明も全身が干からびてるのに私は右手だけ。しかも昨日から悪化もしてないし身体の不調も無いでしょ」

「あの2人は完全に呪われて、おれたちは呪いの影響が小さいってことか」

それが何を意味するのかわかれば呪いから逃れる方法に繋がるかもしれない。市川は必死に思考を巡らせた。

「どのくらいの人数が一度に呪われたのか知る必要があるな」

そう言って大垣はまた片岡の家へ向かった。

彼が戻って来て言った。

「あいつが言うには同時に5,6人くらいは呪いにかかっていたらしい」

「てことは本来私達も完全に呪われてるはずなんだね」

大垣はうなずいた。

弥代日家は市川と大垣も呪いにかけることができたはずなのにそうしなかったことになる。何故だ?

「もしかしたら」大垣がつぶやく。

「あの2人の血筋が理由かもしれない」

「血筋?どういうこと?」

「もしあの2人の先祖が四輪の出身だったら、呪いを受ける理由になるだろ」

それは考えにくいことだった。

「偶然同じ土地の先祖を持つ2人が揃ってその土地に行くなんて確率的にありえないでしょ」

「…そうだよな」

彼自身も無理があると気付いていたらしい。そんな偶然があるはずがないと。

そのとき偶然という言葉が引っかかった。そういえばあれも偶然なのだろうか?

「ダム湖が干上がったのは偶然なのかな?」市川が言った。

「どういうことだ?」

「ダムの水が無くなったのは雨が降らなかったからだよね」

「そうだけど…」

「弥代日家は雨を降らせることができたなら、逆のこともできたのかも」

「弥代日家が雨を降らせなくしてダムを干上がらせたってことか、でもなんのために?」

「それは…」

市川は言葉に詰まった。弥代日家の能力を”雨を降らせる”ではなく”天候に干渉する”と解釈すれば、彼らがダム湖を干上らせたと考えられる。だがその動機はなんだ?

そもそも弥代日家は何をしたいのかを考えるとそれは間違いなく四輪の人々への復讐だろう。そのために弥代日家は呪いをかけた。だが全員を呪い殺す前に人々は村を離れた。

それから呪いにかかった者がいないのならば、弥代日家の呪いはあの地域にしか及ばないということだろう。ダム湖を干上がらせたのは再びあそこへ人を行かせ、呪いをかけるためなのか?

いや、村の人々があそこへ行くというのはありえない。行くとすれば何も知らない唯明たちのような者だろう。それらを呪い殺したところで復讐は果たせない。

確かに直接復讐はできない。だが…

「調べさせるためかもしれない」

大垣は首をかしげた。

「ダム湖が干上がれば誰かが面白半分でそこに行く。そこで呪いにかかって帰れば、周囲の人は助けるために手を尽くす。その中であの村のことを調べる。私たちみたいに」

彼の目つきが変わった。

「そうしてあの村で起きたことを突き止めさせることが目的なんじゃないかな。芦沢教授が呪われなかったのもそれが理由だと思う」

「おれたちはやつらの計画通りに動いたってことか」

彼は少し思案して言った。

「だったらもう呪いは終わるんじゃないのか、やつらの狙い通り真実を聞き出したんだから」

それでは不十分だと市川は思った。

「まだ真実を知ってるのは私達だけ。それじゃあ弥代日家の目的は果たせて無い」

「大勢に知らしめないといけないのか」

「そうだと思う」

ため息をついて大垣が言う。

「約束を破ることになるな」

「約束?」市川が訊く。

「おれは片岡に言っただろ。”ここで聞いたことは誰にも言わない”って」

確かに彼はそう約束した。

「わたしは言ってない」

「…なるほど」

そもそも呪いを受けるはずだったのは片岡だったのに、唯明たちや市川が呪いを受けている理不尽に比べれば約束を破ることなど大した問題ではない。

「となると手っ取り早いのはネットだな」


2人が豊田に戻る頃には午後四時を過ぎていた。それからはパソコンにかじりついて作業をした。

ウェブサイトを立ち上げ、Wikipediaを編集し、youtubeの動画を撮影し編集、twitter・Instagram等も利用して四輪村の真実を発信した。それらの作業を分担して全て終える頃には日付が変わっていた。

これで残された時間はあと2日だ。どうかこれで終わってくれと祈りながら市川は眠りに着いた。


5月20日火曜日午前7時

市川は目を覚ますと直ぐにパソコンに向かい、昨日作ったサイトのアクセス数を確認する。アクセス数は3だった。ツイッターのつぶやきもリツイートは6。Instagramのいいねは0。これでは到底真実を広められていない。弥代日家の目的も果たせていないことになる。あと2日でどうにか広まることを祈るしかない。

眠気に耐えながら登校すると、同じく眠たそうな顔の大垣がいた。

「ネットの反応はどうだ?」

大垣が訊いた。

「全然だめ。サイト、Twitter、インスタ、全部合わせても10人くらいしか見てない」

「やっぱりか、おれも同じだ」

彼はうつむいて言った。

「まあ、まだ投稿してから一日も経ってない。これから伸びるかもしれないし、まだ手段はある」

それが本心か気休めかはわからないが、そう信じるしかなかった。

唯明に容態を訊いたが、やはり治っていない。授業など眠気と不安で全く身が入らない。

終業の後、再びアクセス数やリツイート数を確認するが大して変化は無かった。弥代日家の真の意図に気付いたと思ったときには希望が見えていたが、結局また絶望に行き着いた。

確かに現代は誰もが情報を発信できる時代だ。しかしその中で注目を集めることができる者はごくわずか。ほとんどは誰の目に触れることもなくネットの海に沈んでいく。

その日の夜、大垣から電話があった。

『おい、おれの動画見たか?』

彼は興奮気味に言った。

「動画?見てない…っていうか投稿した動画のこと聞いてないんだけど」

『悪い、忘れてた。URL送るから見てみろよ』

そう言って通話が切れるとLINEでURLが送られてきた。それを開くとyoutubeの動画に移動する。

『衝撃‼九連ダムに沈む呪われた村⁉』とういタイトルに派手な文字で『一家惨殺、ヤバすぎる真実』と書かれたサムネイルの動画だ。それを再生するとフルフェイスで顔を隠した男が四輪村のことを語っている。大垣が被っていたものと同じヘルメットで、背格好も彼のものだ。

再生回数を見ると5万を超えている。動画の概要欄には市川が作ったサイトへのリンクもあり、サイトのアクセス数を見ると3千ほどに達していた。

再び彼から電話がかかる。

『どうだ、これで弥代日家も納得するだろ』

確かにこれで四輪村の真は世に明らかになったかもしれない。だがそれが本当に弥代日家の狙いだというのはあくまで市川の予想でしかなかった。

「これで呪いが終わるといいけど…」

『あとは待つしかないな』


5月21日水曜日午前7時

市川はスマートフォンの着信音で目を覚ました。LINEやメールではなく電話だ。通知には佐々木唯明とある。急いで通話

をタップするとやけに明るい声が聞こえた。

『もしもし、結佳?』

「結明!?どうなったの?」

『治ったよ!』

それを聞いて安堵の気持ちが広がった。

「本当!?よかった…」

『結佳がいろいろしてくれたんでしょ?本当にありがとう!』

「いいの、唯明が助かってくれたなら」

『後で何したのか教えて、しっかりお礼もしたいし』

「今日の授業後に家に行くね」

『わかった、待ってる』

「じゃあね」

そう言って通話を終了した。やった。助かった。歓びが心を駆け巡る。

大垣からLINEでメッセージが届いていることに気付いた。

『鈴木亮は治った。佐々木はどうだ?』

直ぐに返信をする。

『唯明も治った』

『なら良かった。お前の右手は?』

市川の右手はまだ干からびたままだった。

『まだ治らない』

『そうか、とりあえず様子を見よう』

『わかった』

市川は自分の右手を見つめて不安な気持ちに駆られた。なぜ自分だけ治らない?

いや、直ぐに治るはずだ。彼らだって治ったのだから。そう自分に言い聞かせて登校の支度を始める。






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