第八話 小さな一歩
ーーー槙本信介ーーー
金曜日の夜、連日あった新城からの連絡がなかった事以外いつもと変わらない土日を過ごした俺は休み明けの今日月曜日、学校へ向かっていた。
新城から土日も連絡は無かったが、俺的には特に気にせず過ごした。
強いて言うなら土曜の朝に新城からの通知が無かった時、若干寂しいと何故か思ってしまったが未だにその理由は俺自身分かってはいない。
だが考えても仕方が無いので俺は真っ直ぐ学校へと向かった。
勿論途中のコンビニでいつものおじさんと挨拶をし、店内で昼食を買った。
学校に着き、俺は自分のクラスの教室へ入る。
教室内はまだ疎だがクラスの大半の生徒が既に登校していて、俺はそんな中自分の席を目指す。
近くの友達や通り過ぎる友達に朝の挨拶をしながら無事に俺は自分の席で休む。
「なんだ〜?朝からお疲れか?」
俺は声のする方を向くとそこに居たのは朝から元気な祐樹とその後ろからスマホを弄っている木村がいた。
「いや、普通に眠いだけ」
「いつもじゃん」
「やっぱ月曜日は気が重いよな!さっさと夏休みにならないもんかね」
「まだ1ヶ月以上あるけど」
「その前に期末テストと体育祭があるよ」
「体育祭が先だっけ?」
「体育祭当日にテスト1週間前になる」
俺の通うこの学校は何かと行事毎に合わせてテストなどを組むため、このようにテスト1週間前が体育祭やら文化祭などは普通なのだ。
特にキツイのは文化祭だ。
文化祭が近付いてくるとクラスで出す出し物や屋台の準備に駆り出されるが、それが終わってみると今度は試験勉強に明け暮れる。
「なんか選択種目とかあった?」
「俺休んでたから良く分からない」
「確か来週決めるとか金曜に言ってたから、今週中には決めるかもな」
そんな話をしていると担任が教室に入って来て、クラスの皆は自分の席へと戻って行った。
担任は確認事項を言うが、俺はその殆どが自分に関係無いと聞かなかった。
それは授業に於いても同じだ。
俺は人の話を聞いているようでその実何も聞いていない。
俺はやっているフリだけは自分で上手いと思う。
理解しているように頷きながら先生の説明している事をさも理解していると思わせるように授業を受けている。
だから毎回テスト前になると勉強しなければ赤点を取ってしまう。
俺は何をしても平均レベルでしかない。
普通に出来る物は出来る、だがそれだけ。
相手が満足する結果は出せなければ、大して悪い結果を出す訳でもない。
つまり平凡なのだ。
................つまらない。
つくづく自分の人生がそう思えてくる。
「どうした信?」
「...........なんでもないよ」
昼休みに入って祐樹と木村の3人で昼食を食べている時でさえ、時々こうして考えさせられる。
病んでるのかもなと何度思ったことか。
「午後の残り2時間使って体育祭の事決めるってよ」
「選択種目って何があった?」
「綱引きかリレー。それと確か全学年である借り物競走」
「綱引き」
「俺も」
やはりか。
俺が綱引きと言うと木村も同様に綱引きを選んだ。
俺と木村はインドア派の人間で外より屋内にいたいタイプで、祐樹はどちらかと言うと外に出て遊びたいアウトドアタイプ。
体育祭だが極力走りたくない。
「それより俺は信と新城の関係性が気になる」
「おっ!丁度俺も聞こうと思ってたんだ!」
げっ!
木村の変な一言で祐樹にスイッチが入りやがった。
この場合の祐樹は友達だが本当に苦手になるぐらい熱のこもった勢いで来る。
正直めんどくさいんだよなあ
「で、どうなんだ信!?」
「何もねえよ」
「祐樹が月曜になったら面白いもんがあるかもみたいな感じで言うからちょっと楽しみにしてたのに.........」
木村、お前は当事者の位置につかないと人の気持ちが分からないのか?
「信は新城の事は何とも思わないの?」
「綺麗だとは思う」
「付き合いとかは?」
「ない」
即答
「か〜!お前はそれでも現役高校生か!?」
「そう言うお前は青春を謳歌できなかったおっさんかよ」
「お前は異性に興味がなさ過ぎる!」
「俺だけじゃないだろ。よくよく考えたら木村だってそうだろ!」
俺は横でスマホゲームをしながら会話にちょくちょく入って来ている木村を指さした。
木村駿は、ゲーマーであり休憩時間は大体スマホをつついてゲームをしており、それだけ聞けばただのゲームオタクと言われるが、外見は祐樹と変わらない程整っている勿体ないイケメン君だ。
「?俺はゲームで忙しいから」
「いや俺より酷いと思うんですけど!」
「確かに駿も信と変わらん。だが、興味がないと断言できる信と比べて駿は多少の興味はあるからな!」
「思春期だしね」
くそ、お前は俺と同類だと思っていたと言うのに....
悪い流れが続いている。
とそんな時
ピロン♪
俺のスマホの音が鳴った。
デジャブ?
俺はそう思いスマホの画面をつける。
【中条】:放課後みんなで帰るよ!
送って来たのは中条だったのだが、このみんなと言うのは誰の事を指すのだろうか。
「.......なあ、これ.......」
俺は分からないので祐樹と木村の2人に聞いてみようと思ったのだが、木村は先ほどからだが2人は俺と同様にスマホの画面を見ていた。
このタイミングで全員スマホを見る事なんてあるか普通?
俺は恐る恐る2人に聞いた。
「なあ、もしかしてだけど中条からメッセ来た?」
「いや、俺は遥から『今日みんなで一緒に帰ろう?』って来た」
「俺は中条から。もしかしてこの皆って信と祐樹の事?」
ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ
いらっしゃいませ〜!
俺と祐樹、木村は隣のクラスでありメッセを送った張本人中条と祐樹の彼女である宮野、そして校内1の美少女である新城の計6人で学校帰りにファストフード店へとやって来た。
各々が食べたい物を注文し、大勢で座れる席を探してそこに座る。
「.....................」
「.....................」
これは自然になったのか、それとも故意なのか分からないが、俺が注文を終えて最後に皆が座っている場所に着くと空いている席が新城の隣しかなかった。
いつまでも席が空いているのに座らないのは他の人の通行の邪魔だと思い大人しくその空いている席に座るのだが、座ったは良いものの俺と新城は席が隣にも関わらず1度も言葉を交わしていない。
ただ無言のままに自分が注文したポテトや飲み物を口に入れていく。
木村はこの状況に於いてもスマホでゲーム、祐樹は彼女である宮野と仲睦まじく会話を繰り広げていた。
そんな中俺と新城にちょっかいを掛けてくるのは今回俺達を誘った中条だった。
「もう!何で信も葵も無言なの!?信、あんた男なんだから何か話しなさいよ!」
「ちょ、千鶴!?」
中条の無茶振りにたじろぐ俺を他所に隣の新城は困ったような声を出した。
中条とは1年の時からの付き合いであり隣の席になった時期のある俺は、このまま無視を決め込んだとしても中条は逃してくれない事を知っているので俺は会話の入り口を作る。
話は体育祭についてだ。
「じゃあ体育祭の選択種目何にした?」
「あ〜、私はリレー」
「わ、私と遥は綱引きだよ。それで私は借り物競走にも出る事になったんだ」
「へ〜頑張るね新城」
新城は自分からと言うよりクラス全員がやりたがらないから立候補したと俺は思った。
新城は優しいからな。
「あっ、私ちょっとトイレ行ってくる」
「おう、行ってら〜。駿、ゲームばっかしてないで食えよ」
「食べてるよ」
木村はそれでもスマホをいじる。
マイペースなのは木村の良いところである。
今、中条はトイレに行って退席して木村はゲームに集中、祐樹と宮野は自分達の会話で忙しいらしく誰も俺達に注目はしていない。
俺はこのタイミングで聞こうと考えた。
「........なあ、新城」
「え?な、なに?」
「俺の事..........苦手だったりする?」
普通なら自分の事を苦手だと思っている相手にこんな質問は投げ掛けないのだが、変に気まずいままなのは新城にとってストレスになるかもしれないと問題は早いうちに片付けた方が良いと思ったからだ。
新城は俺の問いに「....え?」と声をもらした。
「スマホで連絡を取る時は分からないけど、俺に直接関わると新城、俺と極力目を合わせようとしないだろ?」
「そんな事ないよ.......」
「新城自身が自覚してなくても俺はそう感じたんだ」
まさか自覚してなくてあんな態度を取っていたとは思わなかったが、新城の性格からして相手を嫌う感情が良く分からないのかもしれない。
だから俺を苦手としている事を自覚していないのかも。
「..........だからさ、もし俺の勘違いじゃなかったら無理に俺に接さなくても良いんだぞ。入学式の日の事で恩を感じて優しく接してくれているならあれぐらいで俺に恩は感じなくても良いんだ」
無理に俺に関わる必要はない。
俺は自分がとてもつまらない人間だと言う事は重々理解しているし、それが他人にまで思わせる事を知っている。
だからこそそれを知ってなお四六時中いてくれている祐樹や木村、会えば話してくれる中条などには本人達には言わないが感謝している。
「........................................がう」
ん?
隣にいる新城の声が上手く聞き取れなかった。
俺は新城の方を見ると彼女は俯き今にも泣きそうな顔になっていた。
「し、新城?」
俺はまさか新城が泣きそうになるなんて思わなかった。
そもそも新城がこの話で泣くなんて俺の中ではありえない事だった。
苦手な相手から拒絶に似た様な言葉を言われれば諦めがつくはずだ。
俺はてっきり新城が俺の話を聞いて俺と無理に関わらないで済むと思ったのだが。
「違う。確かに入学式の日の事は今でも感謝してるし恩に感じてる。でも、それだけで今まで槙本くんと連絡を取り合ってた訳じゃない」
「............つまらなかっただろ?」
「ううん。楽しかったよ。私いつも楽しみにしながら槙本くんとメッセしてたよ」
楽しかった.......?
俺は自分がどれだけ無愛想な内容を新城のメッセに応えたか理解している。
それに絵文字だとか!マークもあまり使わないので『怖い』と言われた事だってある。
このように言われたのは初めてだった。
「それに槙本くんから通話しない?って言ってくれた時も嬉しかった。私の方こそ緊張して槙本くんにつまらないかな?って思う話しか出来なかった」
「いや、俺もなんだかんだ楽しかったよ」
俺は急いで訂正を試みる。
あれ?俺なんでこんな必死になってんだ?
「でも、じゃあ何で俺から逃げたの?」
「に、逃げてないよ!私、槙本くんとはメッセ何かで交流はあっても直接顔を見て話した事なんて数えれるぐらいしかないから................その.....どんな感じで話せばいいのか分からなくて......」
.....................どうやら俺の考え過ぎだったようで、中条や祐樹の言う様に新城は俺とどうやって関わっていけば良いのか分からなかったようだと分かった。
「じゃあ、別に俺の事が嫌いって訳でもないの?」
「うん、違う」
何故か今まで途切れ途切れだった新城の言葉がこの俺の問いだけ妙にハッキリと否定してきた。
「.................だったら新城、お願いがあるんだけど」
「え....?」
「俺の前では中条達といる時みたいに素で接してくれないか?」
「......いいの?」
「逆に何でダメなんだよ。普通に友達でいいじゃん」
変に対応されるとこっちはこっちで気まずいもんなんだ。
「本当に?学校でも話しても良いの?」
「まあ急に俺と新城が仲良くしだしたら変に勘ぐる奴が出て来ると思うけど俺は気にしないから」
そこから新城は何を恐れているのか俺に色々と聞いてきたが、それは俺が特段気にする事ではなかったので俺は新城に「大丈夫」と言い続けた。
新城は嬉しそうな顔をして、俺と新城はそこから先程まで無言が嘘のように話し始めた。
新城は今まで付けていた重りが無くなったかのように俺に話しかけてくれた。
俺もそれに応えるように会話を繰り広げていた。
その時、俺はふと視界の端にニヤついた顔で俺と新城を見てくる祐樹と宮野がうつる。
「何だよ」
「いや〜、随分仲良くなったな〜と思いまして」
「葵もすっかり乙女になって、これは近々ダブルデートをする日が近いかもしれないね〜」
「遥!?」
「いや〜トイレ混んでたよ.............って何かあったの?」
トイレから戻ってきた中条は騒ぐ俺たちの事を不思議に思ったが、俺と新城が自然に話しているところを見て安心した様子だった。
そこから1時間ほどみんなでワイワイしたのちに店の前で解散となった。
祐樹は宮野を送り届けるために2人で帰るとのことで先に帰って行った。
木村と中条も帰り、残された俺も帰ろうとする。
「槙本くん!」
「ん?」
「じゃあね」と言い新城に別れを言うと新城は俺の名前を呼ぶ。
俺は振り返る。
「なに?」
「今日、連絡しても良い?」
新城からのお誘いだった。
「良いよ。だけど明日も学校があるからなるべく早めにお願いね」
「うん!」
俺が承諾すると新城は嬉しそうになり「じゃあまた後で!」と言いそのまま自分の帰路について行った。
思わずその笑顔に見惚れた俺はその場に少し固まったが、新城の嬉しそうな顔を思い出し、俺も自分の家の道を歩む。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
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