特別編 バレンタイン
バレンタイン。
日本ではお菓子会社の陰謀により、このバレンタインと言われる2月14日に女の子が異性の男の子にチョコを渡すイベントである。この時期に近ずくと町に中でもそのイベントにあやかろうとするチョコを扱う店ではこぞって”バレンタインセール!”などのチラシや旗が多く見られる。
昔から今でも続く風習で女の子は本命の男の子にチョコを上げ自身の想いをチョコと共に伝える。
しかし昨今ではこの文化にちょっとした変化がある。
お世話になった人にあげたり、常日頃から仲良くしている友達に向けて送る友チョコなど今の時代、既にこのイベントは本命に送るものだけではなくなってきている。男が作って異性に渡す逆チョコなんてものも存在している。
そしてこのイベントに人が一番盛り上がるのは青春の一番の舞台である高校である。
「.......気持ち悪い」
そんな舞台の高校に通う一人の残念廃人ゲーマーイケメン男子高校生、木村駿は自身の机の上に大量に置かれたチョコが入っているであろう箱を見て呟いた。
「すげえな駿」
「うっわ....」
絶望した駿に近づく裕樹は置かれているチョコの多さに笑い、信介はそれとは逆に困った様子の駿を見て可哀そうに思う。
木村駿は顔で判断されれば間違いなくイケメンの分類に当てはまり女子からの人気の高さはこの山のように置かれたチョコを観れば一目瞭然であった。
しかしこのチョコを送ってきたのは駿の事を良く理解しきれていない他学年の後輩だったり先輩だったりして、同学年で駿にチョコを送ったのは本当にごく僅か。
それは駿が女子と恋愛する青春よりもゲームが好きであることをよく理解しているから。学年が同じだと嫌でもクラス合同で授業があったりするので二学年の間では”顔は良いけどゲーム優先だから”と有名でそれで女子は駿に恋心を持つ事はない。
「ご丁寧に手紙も入ってる奴もあるぜ!」
「これどうしたの?」
「......靴箱の中と机の中に入ってた」
まるで恋愛漫画のバレンタイン回の話にある事を全然嬉しそうな顔をしようともしないで言う駿。
「これでもさっきから食べて消費してるんだけど」
「これだけあれば当分の間はおやつに困る事はないな」
「他人事だと思って........口の中がチョコで気持ち悪い」
「コーヒーでも買ってこようか?」
「ブラックでお願いします!」
絶賛チョコを全力で食べる駿を教室に残して信介と裕樹の二人は廊下へ出て飲み物を買いに行く。
「やっぱ今日は男子がやけにソワソワしてんな」
廊下を男子生徒とすれ違うたびに裕樹の言った通りの様子でいるので遂に裕樹は言葉に言った。
「まあ、今日はバレンタインだし。少なくとも少しは期待してるんじゃない?」
「学校で直接相手に渡す奴なんているのか?付き合ってるならわかるけど付き合ってない片思いの場合、今の時点で貰えてないならもう望み薄じゃね?」
「それいったらダメなやつ」
しかし裕樹の言っている事は正しい。ただでさえ人の目が多くあるこの場所で、ただでさえ男子が敏感になっているこの日に堂々とチョコを渡すような勇気ある女子はその渡す相手が既に付き合っている関係性でもない限り無理であろう。
外に設置されてある自動販売機で自分達の分と教室で奮闘している駿の要望していたブラックコーヒーを買い教室に戻る。
「裕樹~~~」
「ん?」
教室に入ろうとする二人を引き留めたのは裕樹の名前を元気よく叫ぶ遥だった。そしてその後ろには葵と千鶴のいつもの三人が揃っている。
遥は手に持っている箱を裕樹に手渡した。
「はいこれ!バレンタインチョコ」
「お!ありがとう」
廊下で渡すと言う勇者な男気を見せた遥の差し出したチョコを裕樹は今日一番で見せる笑顔で受け取り。やはり付き合っていて貰える事は決定事項のようだと分かっていてもそれでも貰った時は嬉しいもののようだ。
「手作りだからちゃんと味わって食べてね」
「分かってる。ありがとな」
「うふふ!あ、これ槙本くんと木村くんにも。いつも仲良くしてくれててありがとう」
その流れで遥は隣にいた信介に裕樹とは違う色の箱を渡す。
「あれ?木村くんは?」
「あそこでチョコの消費に邁進してるよ」
教室の扉を少し開けた先にいる一生懸命甘いチョコと格闘している駿を遥達に見せる信介。
「うわあ、木村君凄いんだね」
「でも、クラスの男子から凄い目で見られてるけどな」
貰えない男子達と駿が獲得したチョコの差がそのまま女子人気を明らかにしている。それで現段階貰えてない男達の駿を見る目が凄いぎらついている。
チョンチョン
「ん?」
頑張る駿を皆で教室の外から見ている時、信介の袖が弱い力で引っ張られた。そちらを見ると、
「......」モジモジ
顔を赤くさせて堅苦しい顔で身体を揺らしている葵がいた。付き合ってからかなり経ち、付き合う以前のように緊張した様子で接する事はあまりなくなってきたが、今視界に映る葵はまるで付き合う前の段階でそこまで直接的な交流の無かったときのように信介には見えた。
「....どうしたの?」
「.....これ」
葵が信介に差し出したのは可愛らしい箱であった。
「これって」
「.........チョコです」
恥ずかしいのか、緊張しているのであろうか信介には分からない。しかし、かなり勇気がいるのは何となく察した。
「ありがとう。もしかして手作り?」
「うん。初めて作ったからちゃんと出来てないかもだけど食べて」
「.....そっか」
普通の料理は日頃から家の家事を手伝っているらしく作れるらしい。インスタントラーメンを食べた事のない葵だったがもしかしたら自分で何かしら作れるからだろう。
「じゃあ、今日家に来ない?」
「え?」
「実はさあ、今日は母さんが帰ってくるんだ。それで”葵ちゃんも誘っちゃえば”って。その時に一緒に食べようよ」
「....いいの?」
「俺は一緒に食べたほうがおいしいかなって。ダメ?」
「........ううん。行く」
「完全に二人っきりの空間になったね」
「はいこれ。私から三人分のチョコ。後で信と木村に渡しといて」
「了解。ありがとな」
「.........(二人とも遅いな~)」モグモグ
チョコ成績
信介 三個(葵(特別仕様)・千鶴・遥)
裕樹 三個(葵・千鶴・遥(特別仕様))
駿 二十六個(葵・千鶴・遥・他名前がないので識別不明23名)