第四十六話 想い 続
信介と葵が行き着いたデートの場所は、何てことない大きな自然公園だった。
天気はやや雲はあるものの日が射している時間の方が長く快晴一歩手前の良い天気と言っても良く、休日という事もあって二人が園内に足を踏み入れると多くの人達が視界に入ってくる。
「意外と公園って利用する人いるんだな」
子供などが遊んでいるイメージのあった公園だったが、どうにも子供を連れた夫婦にペットの犬と遊具で遊ぶ男の人など予想を裏切る盛況ぶり。
「あ」
「ん?」
隣にいる葵から声が上がる。信介は葵の見ていた方向を見る。そちらには芝の上にある大きな木の下で体を丸めて寝ている猫が複数匹いた。その何匹かは子猫で、どうやら親子で心地よく木の影で寝ている
らしい。
「かわいい」
「そうだな。気になるなら触ってくれば?俺はそこのベンチにでも座ってるから」
信介はそう言って近くにある誰も座っていないベンチを指さす。
「信くんも行こうよ」
しかしそれを葵が許してくれない。
「無理。俺、猫アレルギー」
「あ、そうなんだ」
信介が猫アレルギーなのは葵は知らなかった。
信介は、昔近所の野良猫に触り酷く蕁麻疹とくしゃみが止まらず母と一緒に病院に行った事がありその時自身が猫アレルギーだという事を知った。その時の思い出が信介の脳裏によぎる。物心ついてからの出来事なのでよく覚えている。
それ以降、信介は極力猫に近づかないように生きてきた。
信介の言葉を聞いた葵は間を開けることなく「じゃあいいかな」と猫に向かうのをやめた。
「いいの?」
「猫好きだけど、私が行って信くんの体調が悪くなったら帰らないといけないといけないでしょ。折角久しぶりのデートなんだからそれは避けなきゃ」
そのまま信介と葵の二人は公園の舗装された道を歩き始める。
「そうだ。猫って言えば一日の約七十パーセントを寝て過ごしてるらしいよ」
「なにそれ。めちゃくちゃ羨ましい」
葵の猫についての知識を聞いて素直に信介は猫になりたいと思ってしまった。
「でも寝てばっかりだと体が動かなくなるよ。健康に悪い」
「それ俺?それとも猫?」
「信くん」
「俺こう見えて寝てばかりじゃないよ」
「でも運動なんて学校での体育ぐらいでしょ」
殆どの生活を屋内で過ごしているので信介の身体は基本運動不足状態だ。あまり食べない事が幸いして体形は痩せているがこれが食欲旺盛だったならば今より体形は違っているだろう。
「もう少し運動しないとね」
「......そうかもね」
その後も本当に他愛のない話を続ける。しかし、やはり実際の意中の人を目の前にして話せばそんな日常的でつまらない話でもそれは至福の時間へと変わる。気づけば二人の顔には笑みがこぼれている。
園内を歩くことかなりの時間が経過した。二人はベンチに座りゆっくりとした時間を過ごす。お昼までにはまだ少し時間があった。
「お昼ご飯はどうする?」
「どこか行きたい場所とかある?久しぶりだからアオの要望には出来る限り応えたいと思ってるんだけど」
「う~~~ん。私も信くんと同じであまり食べる方じゃないからな~」
信介同様に葵もそこまで食べる方ではない。それは信介も付き合い始めてから知ったことだった。それに信介と共通するようにご飯の店を選ぶ際のこだわりなどないと言う。案外似たところがある信介と葵である。
しかしそうはいっても少し時間が経てばお昼時となり自然と自分達のお腹がすくだろうと考える二人はこの後の予定を話し合っていく。
そんな時であった。
信介のスマホが振動したのだ。それに気づいた信介はチラッとスマホを葵の座っている所とは反対側に見えないように開き内容を確認する。来たのは日葵からであり、隠してよかったと思いつつ内容を見ている。どうやら写真のようだ。座って話をしながらも目の前に広がる芝生で和気あいあいと遊ぶ子供とそのお父さんらしき男の人、広げられたレジャーシートに座ってそれを嬉しそうに見るお母さんであろう女の人の構造を葵は見詰めている。
今だなと見てみる。そして中身を開く。信介は驚きに包まれた。
そこに映っていたのは自分と葵の二人の写真を背後から撮影したであろう写真だったのだ。
(....なっ!)
思わず声が出そうなのを我慢する。
しかしそれも無駄に終わる。
「良く撮れてるでしょ?」
「ん?」
「.........」
写真を見ているとそんな危機馴染みの声が二人の座るベンチの後ろから聞こえてくる。葵は急に聞こえてきたその声に反応し、なんの警戒もないまま声のした後ろを直ぐに振り向いた。信介は無言のまま振り向く。
そこにはとっても素晴らしい(信介にとって悪魔の笑み)を浮かべている信介の従姉弟、日葵の姿があった。
ありがとうございました
この後の展開、皆さんはどのようになるのか予想出来ますか?
感想評価よろしくお願いいたします。




