第四十五話 出掛け前
日葵が、槙本家に来てから二週間が経過した。日葵がこの家に来てからと言うもの身の回りの整理がキチンとしていると信介は感じている。アメリカという何があって起こるか分からないであろう国に単身で乗り込み、ましてやそれだけに留まらず多くの国に行っていたという行動力の高さと前向きな気持ちは自分にはないものだと思い知る。一人暮らしで培ってきた家事のスキルを命一杯使ってこの槙本家、正確には信介のお世話をしている。どうせ、姉の偉大さを分からせてやる”と言った魂胆が含まれた行動だと思うが、それでもこうして美味しく日頃考えないバランスのしっかりと取れた食事を口に出来るのは日葵のお陰なので信介は文句は言えない。言える立場ではない。
「それじゃあ、行ってくる」
そして日葵が帰国してからの何度目かの休日となった今日、信介は久しく控えていた葵との予定があった。と言うのも、赤ん坊の頃からの付き合いである日葵は自分の性格などは殆ど熟知されている。そんな自分が休日に外出するとなれば、めんどくさがり屋で休日は家から出るの嫌がる事を知っている日葵からすれば大問題と言える非常事態。好奇心と行動力のある日葵が起こす行動とすればそれは尾行をすること。それを信介は容易に想像がついてしまった。信介も同様に日葵の事を知りつくているからだ。
だからこそ控えていたのだが、なんでも今日は日葵も久しぶりに友達と会うとかで外出するらしい。なので今日は久しぶりに一日葵の為に時間を使えると考えたのだ。
信介はリビングを出る際、まだ出かける準備にも入らず優雅にテーブルでコーヒーを飲んでいる日葵に一言伝える。
「もう行くの?早いね」
「日葵が遅いんだろ。もう九時だぞ」
信介と葵が待ち合わせにしている場所はここから互いに十分も掛からない場所だ。だからこそ、待ち合わせの時間は余裕を持たせて三十分にしている。
「日葵こそ準備しなくていいのか?今日出かけるんだろ?」
「私はまだ時間があるから平気だよ~。だからもう少しゴロゴロしてる~」
そう言って日葵は椅子から立ち上がりソファへとダイブした。
「あ.......そう」
本当に良くこの家に寛いでいるなと思う。しかし、まだ家にいるという事は当分日葵は家から出てこない。これは葵と付き合い始めて裕樹から言われた事の一つだ。それは本当に単純な事で”女は準備に時間が掛かる。それに文句を言うような事はするな”との事。
「鍵はちゃんと掛けてよ」
「分かってるって」
日葵には家のスペアの鍵を渡している。信介の学校だったり日葵の個人的な用事などで各自の私用でこの家を空ける回数が多かったからだ。家族同然の日葵に鍵を渡すのははっきり言って何の躊躇もなかったので別に良いのだが。
ソファの上で寛ぐ寝間着姿のままの日葵を呆れた目で見た後、ゆっくりと扉を開けリビングを後にする。その時、背後から聞こえてきた”いってらっしゃ~い”と言う声はしっかりと信介の耳に入っていた。
◇
「.......もう良いかな」
信介が家から出てから数分後、日葵はこの家に誰もいないことを確認し倒していた体を起こす。
「......さて、急いで準備しなくちゃ」
日葵はリビングから出て、この家に滞在している間使用している信介の隣の部屋に向かい寝間着から外へ出掛ける用の服へ着替える。
実は言うと日葵が信介に伝えている事には少しだけ誤りがある。それは故意的に日葵が伝えていないのだが。確かに日葵は今日高校時代の友達と会う約束をしているのはしている。しかし、問題は時間で会う約束をしているのは夜なのだ。なので日葵には全然時間に余裕がある。
そこで思いついたのは、休日に外に出る弟の尾行だ。最近判明した信介の彼女いる疑惑。それに拍車を掛けるように信介は休日”友達と”遊びに行くと姉の日葵の目から見て驚きの行動を取っている。
しかし、日葵はある日の夜信介の元に現在日葵の中で浮上している彼女の疑いのある”アオ”と登録されている人物と遊びに行くことを知っている。悪い事だとは思っているが、ついL○NEが来た際にスマホの画面に映された内容を見てしまったのだ。
「ふふふ。信ちゃんの彼女か~。どんな子なんだろ」
だけど日葵は楽しみであった。一体信介の彼女はどんな子なのだろうか。信介がその彼女にどれほど好意を寄せているのか、寄せられているのか。気になる事はありまくりだ。
そこには単純に弟の成長具合を楽しみにしている姉の優しさがあった。
最期まで読んでいただきありがとうございます。
次回は信介と葵の久しぶりのデート回になり制作中ですが、少し時間を要するかもしれません。前もって言っておきます。
それと信介の”日葵の事を内緒にするという”行為に不満を抱いている方もいると思います。実際にそのような内容の感想をいただいております。しかし、私は別に信介を完ぺきな男にしたい訳ではなく”実際にいる高校生男子の心境”にしてみたかったんです。
なので感想をいただいたときは普通に「ああ。信介が愛されるキャラではなくて少し非難してしまうような部分も持っていると分かってもらえた」と少し喜びましたね。
という事で、これからもキャラの性格や行動に不満を抱く人がいると思いますがそれは逆に人間らしさを出せていると思っていただければ幸いです。
それでは次回も、お願いいたします。




