第四十二話 日葵
今回から新キャラが出てきます。
そのキャラの詳しい説明などは物語の中で少しずつ出していきます。
どうぞお楽しみに
ちなみに信介視点です。
夏休みが明けて、新学期を迎えたある日の夜。
時刻は午後八時とまだ寝るには早い時間。風呂から上がり二階の自室へと入る。
ピロん♪
「ん?」
タイミングを見計らったように机に置いていたスマホからL○NEの通知音が鳴った。アオか裕樹のどちらかだと思いながらスマホを手に取り画面を見る。
日葵:電話しよ~!
「げっ!」
相手はまさかの人物であった。
しかし、この後の展開はどうすれば良いのだろう。俺はこの人の事を良く知っているためこの提案を無視したり断わったりすれば後々面倒な事になるのは分かり切っている。
なにしろ生まれた頃の付き合いなんだから。
相手も俺の事を理解しているので畳み掛けるようにL○NEを送ってくる。
日葵:ちょっと~無視しないでよ~!
日葵:信ちゃん?
日葵:今ならまだ間に合うよ
日葵:信介?
マズい。
俺は送られてくる自分の名前が愛称から正式な名前に変わったことに危機感を感じ、俺から相手に電話を掛ける。そしてそれに相手はワンコールで出た。
「.......もしもし」
「信ちゃ~ん?私の事無視しようと思ってたでしょ」
スマホ越しから聞こえる声に懐かしさを感じる前に、若干の恐怖を感じる。そして俺の事を良く理解してらっしゃる。
「はあ....したよ。するだろ」
「なんでよ!?久しぶりに話す姉に対してその態度は!?お姉ちゃん悲しい!」
(めんどくせ~!!!)
本当にめんどくさい。昔からこんな性格であったが、幼い時はそこまで気にしなかった。だが流石に心の成長と共にこの人のこの人の相手がもの凄い疲れるようになった。
それにしても本当に久しぶりだな。
「それで態々連絡をよこした理由は?」
「え、特にないよ?」
「は?」
「しいて言うなら久しぶりに信ちゃんの声が聞きたくなったぐらいかな~」
「そんなことでアメリカから連絡してくるなよ!」
そう。この電話相手がいるのはアメリカなのだ。L○NEでの国際電話が出来るから便利である。
「え~いいじゃん!私だって常日頃から英語ばかりの生活に飽き飽きしてるんだよ。たまには日本語を話さないと忘れちゃうよ~」
海外に言った事がないからイマイチその感覚が分からないが、実体験をしている本人が言うのならそういうものなのだろう。
「だったら帰ってくれば?」
変に話を長くしたくなくて、愚痴をぶつけられると思って俺はそんな事を言った。
しかし、それが良くなかった。
「.......帰る」
「え」
「私帰るよ!信ちゃんがそう言うなら私今すぐにでも日本に帰る!」
という事で、急遽日葵の日本の帰国が決定した。
◇
「............」
「おい、どうしたんだよ」
「信、どうしたの?」
帰りのHRが終わると裕樹と木村の二人は俺を心配するようなそんな声を掛けてくる。
俺のいらない発言により数日前急遽決まった日葵の帰国。俺はそれが冗談であると思いたい。だが、電話の向こうにいた日葵の声からして帰国を冗談でなく事実にしようとする本気さがあった。いや、日葵ならまず間違いなく実行に移すだろう。
別に日葵が嫌いなわけではない。ただ、年上の癖に幼い子供の心を持っているので元気過ぎるのだ。その相手が疲れる。
「いや、別に」
だから俺はまだ分からないが本当に日葵が帰ってくると思うと、その相手をすることを考えてしまうと気が重たくなるのだ。
裕樹と木村の二人には、完全に俺個人の愚痴になってしまうので言わない。
学校の校門前で二人と別れ、後からやってきたアオと途中まで一緒に帰る。しかし、アオに対して失礼だと思うがそれでも頭の中では日葵の事しか考えられない。
「信くん?」
「ん?」
「どうしたの?さっきからずっと上の空だけど」
心配しているアオに申し訳ないが、俺の今考えている事は物凄くどうでも良い事なんだよ。
「ちょっとね。考え事を」
「何を?」
「え?.....今日のコンビニ弁当なに弁にしようかなって」
俺は日葵の事をアオに伝えていない。だから上手い言い訳が出来たか不安であった。だがその心配は不要であった。俺の適当についた内容にアオは”もう。少しは栄養のあるものを食べないといけないよ”と呆れたように、そして楽しそうに言ってくれた。
どうやら納得してくれたようだ。
ピロン♪
そんな時通知音が鳴った。
「ん、信くんじゃない?」
「俺?」
アオに言われ俺はスマホを取り出す。そして画面にある名前を見て俺はギョッとする。
日葵であった。
俺はアオからは見えないように日葵から送られてきた内容を見る。
日葵:早く帰ってきて~!
日葵:【槙本家玄関前写真】
俺はその写真を見て驚きと共に、日葵の相変わらずと言っていい昔から変わらない行動力の高さに若干引いてしまうのだった。
「どうしたの?」
「....」
「え」
アオはスマホの画面を見て固まる俺を気にしてか、俺のスマホの画面を除こうとする。それに俺は普段は見せない俊敏性を発揮しアオにスマホの画面を見られまいと体を動かす。
そうするとアオは動揺の声をもらした。
ヤバい
俺は何をしているんだ。これではまるで浮気がばれそうな男みたいではないか。
「ご、ごめん....!」
「ううん!大丈夫だよ。そうだよね。いくら信くんの彼女でも、スマホを勝手に見るのは失礼だよね」
俺の謝罪にアオは優しい笑みを浮かべて言った。どう見ても、少し疑っている感じがする。
これが浮気がばれそうになる世の男の精神状態なのかと、一生味うことのないと思っていた感覚を浮気すらしていないのに味わってしまった。
それにしてもだ。こんなに早く帰ってくるなんて思っていなかった。帰ってきても来週ぐらいだと思っていたのだが、日葵の行動力は俺の知らない所で上昇しているのかもしれない。
兎に角、早く帰らなければ。また早く帰ってこいと催促が来るかもしれない。
「ごめん。知り合いから早く帰ってこいって言われたから今日はここまでで」
「.....うん。分かった」
「本当にごめん!じゃあ、また明日!気を付けて」
「ううん気にしないで」
俺は途中でアオと別れ家まで駆け足で向う。
ありがとうございました。