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第三十九話 木村の過去


俺には二年前まで幼馴染が居た。

名前は草加(くさか)(しずく)。俺より歳は二つ上の当時俺は中学三年生で、雫は高校二年生。生まれた時から家が近所で、歳も近く近所付き合いがあった両親の影響で自然と雫とは仲良くなっていった。


雫は、とても元気で陽気な女の子であった。それは初めて会った時から変わらない。

俺が五歳で、雫が七歳の時に俺達は近所の子供達や子連れ親子の集まる公園で出会った。


『私、雫!』


初対面で、その当時少し人見知りが激しかった俺に雫は積極的に接してきた。俺はそんなガツガツとしてきた雫に、初対面であり当時五歳でありながら若干の苦手意識を覚えた。これは出会いが印象深いので、高校二年で出会った時から十二年経過した今でも鮮明に頭にひっついている。


そして勿論この後の展開も覚えている。


当然人見知りが激しい子供がとる行動など分かり切っている。泣くか無視のどちらかだ。

俺は無視を選んだ。


しかしそこで終わる雫ではなかった。


始めて出会った日から


『駿く~ん!』

『一緒に遊ぼ!!」

『ゲームしてるの?二人でやろうよ!』

『学校行くよ~!』


雫は、俺がうんざりとするレベルで関わってきた。互いの両親は、子供同士が仲良くなる事を望んでいるのだろうか。雫が俺に突っ込んでくるのを止めようとしない。寧ろ相手にされずにいじけてしまう雫を励まし、俺をどう攻略するかを面白そうに考えていた。


それがありゲームをしている俺と同じゲームまで始め、学校では歳が上で先輩であるから物凄いお姉さん感を出して来るし。俺の日常には、初めて会ったあの日から雫が入り込んできてしまった。


なによりその日常を自分自身が受け入れていっている自分がいたのが驚いた。


雫への想いを認識したのは、俺が中学に入学したての時で雫が三年生の時だ。


最初の頃の雫に対する毛嫌いさは無くなり、普通に雫に接することが出来ている。入学式では、周りに友達がいるにも関わらず俺を見付けて駆け寄って雫と写真を撮ったりと距離は幼馴染特有の近さがあった。

校内で見つければ話すし、登下校は時々一緒にしたりと小学校の時と変わらない生活を続けていた。


そんな時かな。

学生あるあるの生徒間の恋愛に対しての噂が校内で広まったのは。信と新城さんの場合と同じだ。

俺と雫が付き合っているという噂が校内で広まった。

元々校内で会えば話すし、先輩後輩でありながら俺がとても砕けた口調で雫と話すことから周りでは既に俺と雫の仲の良さは周知していたはずだ。


『なあなあ、お前と草加先輩が付き合ってるってマジ?』


しかし俺は自分から周りには雫と幼馴染の間柄であるという事を公言してはいない。だからこそ、こうやって噂を聞きつけた興味本位のある奴が質問してくるようになる。まあ、幼馴染という関係性を言っていなかったのも原因の一つなのだが。


『付き合ってないよ。ただの幼馴染なだけ』


俺はその噂を消すのではなく、その噂の上に違う話を上書きする。態々消すなんて面倒なことなどしても生徒間の情報の行き来を止める程の発言力も、影響力ある人間と強い繋がりがあるわけでもない。


結果は俺の予想通り。俺と雫の付き合っているという噂は俺の言葉を聞いた奴が勝手に違う人に拡散し、見事幼馴染という関係が知れ渡った。 


『私は別に気にしてなかったんだけどな~』


雫は案外噂に対して気にしてはいなかった。


噂は段々と消え、雫が中学を卒業し高校に上がった頃には噂を口にしていた人は皆「そんな話あったな」という薄い認識へ変わっていた。


雫が高校に上がっても俺との関係は変わらない。流石に同じ学校に通っていないため、雫と顔を合わせる回数は格段に減ったがそれでも昔からある交流は無くならない。


スマホでもしょっちゅう連絡を取り、家族間の繋がりで俺が草加家にお世話になる事もある。その時顔を合わせるのだが、雫は高校に上がっても俺の知る雫だった。


それを変えたのは俺が中学三年のある夏休みの日だった。



その日は本当になんでもない夏休みの一日でしかなかった。

夏休み、新作のゲームでもないかと家を出ていた時の帰り道だ。結局店に寄り、何種類かのゲームを物色するだけで何も買わずに店を出た。店内の空調ガンガンで冷え切った心地の良い空間から夏の纏わりつくような熱気を肌で感じた。


その時だった。


ガッシャ―----------ン!!!!!!!


『うおっ!』


辺りにそんな轟音が鳴り響いた。そのあまりの音に店を出た直後の俺は人の目なんて気にせず何とも情けない声をもらした。

しかし、辺りに人もそんな俺と同様のリアクションをしていたので俺の声はかき消されていた。俺は人の目が集中する場所を見る。そこには一般車両が道路を超え歩道に侵入し、そしてその先の壁に激突している場面だった。


車のバンパーは、当たった部分がへこみ内部の構造が見えている状態だ。ボンネットも同様に酷い有様でフロントガラスは壁に激突した勢いで枝分かれのように亀裂が入り、割れている部分もある。


始めてこんな現場に立ち会えたと、少し興奮気味にその車を見ていると徐々に事故直前を目撃したであろう人の声が耳に入ってくる。


ーーおい、大丈夫かよ

ーー飲酒運転か?

ーーあそこさっき女の子通ってたぞ


そんな声を聞きながら、俺は人の集まる事故現場を興味本位で見に行く。事故現場ではこのように人の優しさが出る。


危ない現場ではあるが、それでも事故にあった人を助けようと動いている。


ーー早く運転手を出すんだ!!

ーー下敷きになってる彼女もだ!!

ーーやばいよ!


俺は人の集まる事故現場につき、人と人との隙間を除いて事故を見てみる。そこには運転手らしき人を助けている人に巻き込まれた人?を助け出そうとすると男の人数人が見える。


先に助け出されたのは巻き込まれた女の人だった。

外傷は遠くから見える俺ですら言葉を失うほどだった。まさに重症だ。両足は動かず、服はボロボロで所々見るのでさえ躊躇する肉が見えそこは多量の血が出ている。



そこで俺は見たくないものが目に映った。



それは巻き込まれた女の人が持っていたであろうボロボロの鞄から出てきたメモ帳だった。


俺はそれに見おぼえがった。それを目撃した俺の動悸は早くなった。俺はそのメモ帳を知っている。


何故ならそれは俺が誕生日プレゼントにと雫に二日前に贈ったばかりだからだ。

誕生日が近いという事で雫に欲しものを聞くと、予定を書いておけるメモ帳が欲しいとのことで雫にプレゼントしたばかりの。


『雫』

『ん~、何?』

『これ、誕生日プレゼント』

『.....ありがとう!』


まさか俺がプレゼントをくれるとは思っていなかったのだろう。最初は驚いた顔をしたが最後には満面の笑みでお礼を言った。

そしてその時贈ったのが、今意識のない頭から血を流した女の人が落としたメモ帳なのだ。


俺はまさか雫かと思ったが、もしかしたら違う人かも知れないと考えを切り替える。あんなメモ帳、プレゼントした自分が言うのもなんだが安物で別に限定品でもなんでもない。持っている人だってこの地域だけでもかなりの数がいる。


違う違う違う違う違う違う違う


否定した気持ちとは違い、俺の身体は人の垣根を縫ってどんどん前に進む。


安心したい。この人が雫ではないことを。


そして人を押しのけ俺は倒れ横わたる女の人の顔が見えた。額から血を流し倒れている。

雫だった。


『雫』


俺は名前を呼んで雫に駆け寄った。だが俺の呼びかけに雫は答えてくれないまま倒れているだけ。笑顔が似合う雫は本当に眠っているように綺麗な顔立ちをしている。事故にあった被害者とは思えないほどに。


『あ...ああ.....っ!!』


倒れる雫からは大量の血が地面に流れ血だまりを作っている。死んでしまう。

雫が死んでしまう。俺は流れる涙を必死にこらえ、少しでも雫の血液が体外に出るのを防ごうと傷をふさぐ。だけど止まらない。


止まれ!


ふさぐ手の力を強める。


止まれ!



































雫は死んだ。肋骨が折れ、内部の臓器に刺さっていてそれに加え出血量も多量だったこともあって処置は間に合うものではなかった。


俺は幼馴染の初恋相手を目の前で亡くした。

最後までありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 重いンゴ
[一言] まじか…… 雫ちゃんも木村くんも悲し過ぎる…… 死ぬとかじゃなくて植物状態とかで可能性ぐらいは残して欲しかった。
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