第四話 昼休み 葵side
ーーー新城葵ーーー
私は今同じクラスの友達、中条千鶴と宮野遥の3人で一緒に教室で昼食を取っていた。
千鶴は髪が短くて頼れる姉貴って感じで、遥はそんな千鶴とは対照的な大人しいタイプ。
2人とはいつも一緒に居て、2人とも親友と呼ばれる仲だ。
女子トークをしながら話は女子特有の恋話へと発展していった。
「それで遥はどうなの?」
「え、どうって何が?」
「何がって近藤とは仲良くしてんの?」
千鶴の言った近藤と言うのは隣のクラスにいる同級生近藤祐樹君の事だ。
つい2週間程前、遥の方から告白して見事に成功し現在近藤君とお付き合いをしている。
遥は千鶴のそんな急な質問に少し警戒心を出すが、近藤君の名前が出るとほんのり顔を赤くさせて照れる動作を取る。
その様子が私にはとても可愛く見える。
「じゅ、順調だよ....!この前だって学校帰りに一緒にご飯食べたし、昨日も私が寝付けないのを心配して寝るまで電話しててくれたし」
「こいつめ、何さらっと惚気てんの。彼氏が居ない私と葵に対する嫌味か〜」
そんな事を言っている千鶴だが、その表情は嬉しそうだった。
友達が幸せそうに話すのは聞いている側からしてもやっぱり嬉しい。
「葵は、誰か居ないの?」
「え?」
すると突然方向転換で千鶴が私にそんな事を聞いてきた。
これは即ち“今気になっている異性はいるのか?”と受け取って良いのかな。
「葵って、告白はされるけど全部断ってるよね」
「そうそう。それにいつもは静かに聞いてるけど葵のそう言う話聞いた事ないし」
私は今まで誰かに自分の恋について語った事はない。
「あ、やっぱり隣のクラスの槙本君がいいの?」
遥はそんな私を見て不意に思い出したようにそんな事を言う。
槙本くん。
確かに現在気になっている異性であるなら槙本くんと答える。
「槙本って信の事?」
だけどまさか先に遥の口から出るとは思っていなかった。
顔が赤くなるのをじわじわと感じ、私はその顔を見せないような俯く。
「うわぁ〜、葵本気じゃん」
見られないように下を向いていたが、どうやらその態度で判ったらしく千鶴は驚いた様子だった。
だけど私が1番気になっているのはそんな事ではなく
「な、なんで........遥は知ってるの?」
何故遥がその事を知っているのかだ。
私は2人に槙本くんとの関係を話した事なんてない。
「え、だって葵、前スマホ見てた時槙本くんとのトーク見返してたよね?後ろから見えてたけど」
「〜〜〜!」
あの時か。
ついつい嬉しくなってスマホで槙本くんとのトーク履歴を遡っていたのだ。
それをまさか見られているとは思っていなかった。
気になっている人を知られた挙句その人とのトークを見ていた事を知られていた事にどうしようもない恥ずかしさが私を襲う。
「へ〜、ちょっと意外。信と葵って接点無いように思えるけど」
「私もあれ?って思ったね」
「う〜〜〜〜〜!!もういいでしょ!私が誰を好きになっても!!」
ハッ!
予想以上に大きな声が出てしまったと気付き慌てて周りを見渡す。
昼休憩が始まったばかりで教室に残っているのはごく僅かの生徒でクラスメイトの殆どは購買部に行っていた。
もし仮にこの場に多くのクラスメイトがいたとして、今の会話を聞かれていたとしたら私は恥ずかしくてこの教室には居られなくなるだろう。
教室内を確認し、教室内に残っているクラスメイトも今の会話を聴いていた様子が無いことに安堵するが、前を向くとニヤニヤ顔を浮かべた千鶴と遥がいた。
「な、なによ..........」
「いや〜、今見事に認めたな〜って」
「「もういいでしょ!私が誰を好きになっても!!」って。もう認めてたね」
もうこの2人に何を言ったって無駄だと察した私は開き直る事にした。
だが開き直っても羞恥心は消えない。
「ねえねえ何で槙本くんの事が好きになったの!?」
「それよりいつから!?」
千鶴と遥の2人は物凄い食い気味に私に聞いてくる。
「ちょ、ちょっと待って!答えるから順番にして」
「じゃあ私から!いつから信の事が好きになったの!?」
「いつから...................................入学式の次の日の放課後」
「え、はや」
私だってそう思うよ!
でも、助けてくれたし、何より今まで会った同級生の男子と全然違ったんだから気になっちゃったんだよ。
私は千鶴と遥の2人に槙本くんに助けられた事を話した。
入学式の日、朝から体調が悪くて登校中にしんどくなって道の端でしゃがんでいると、同じく登校中だった槙本くんにおぶわれて学校まで連れてきてもらった事。
理由を話すと2人は納得したようだった。
「イケメンだね槙本くん」
「いつものやる気のない信からは考えられないけどね」
「でも葵の気持ちも分かる!私も同じ状況だったら槙本くん好きになってたかも!!」
「なに遥、素敵な彼氏が出来たばかりなのにもう浮気?」
「ち、違うよ!もしそうだったらって話!」
元気そうだね2人とも。
私は恥ずかしくて顔が熱いよ。
「ねえ葵、スマホ貸して。あ、ロックは解除してね」
「え....いいけど」
遥に言われ、私は素直に制服のポケットに入れていたスマホを取り出し、暗証番号を打ち込んでロックを解除させた状態で遥に手渡した。
遥の手に持つと千鶴もそれに加わる形で2人で私のスマホの画面を覗く。
「........なに見てるの?」
「ん?葵と槙本くんのトーク画面」
「え、ちょっと!?」
「ダメだよ葵、アプリ自体にもロックかけてなきゃ」
「昨日も一昨日も話してるね。昨日に関しては通話してるし」
「でも、こうして見ると全部葵から話しかけてるね」
「中々積極的ですな葵さん」
「もうやだ、この2人」
既に暴走している2人を私は止める事が出来ず、2人は私と槙本くんとのやり取りを見られていく。
「...................葵さあ」
「.....なに?」
私は諦めて弁当を食べていると、スマホを見ていた千鶴に話しかけられた。
「今日確か現国の教科書忘れたとか言ってなかった?」
「言ったよ?」
私は日頃から勉強するように習慣付けていて、その日あった授業の復習が出来る様に教科書類を全て持って帰っている。
そして私は今日、勉強の為にと持って帰った現代国語の教科書を鞄の中に入れるのを忘れてしまい、それを今朝千鶴と遥に報告していたのだ。
「隣の人に見せてもらうよ」
「..................」
「..................」
2人は私の答えを聞くと無言で見つめ合うと同時に頷き、遥は私のスマホを操作し出した。
「遥、変な事しないでよ」
「してないよ。ただ教科書貸してくれないか?って槙本くんにメッセ送っただけだから」
私はその言葉を聞いて直ぐ様自分のスマホを遥の手から奪い取り画面を見る。
そこには今日の日付の下に私が送った事の無い内容が槙本くんに向けて送られていた。
現代国語の教科書を貸して下さい!
「遥!?」
「いや、なんか2人のトーク見てたら焦れったくて..........つい?」
「つい?じゃないよ!千鶴も見てたなら止めてよ!」
「面白そうだしいいじゃん!」
「私学校ではあんまり槙本くんと関わった事ないよ!どんな顔して会えばいいの!?」
本人を前にすると何処か緊張してしまう。
そんな姿を槙本くんに見せたくなくて私はいつも学校では彼に関わらないようにしていて、その分スマホでの連絡を楽しんでいる。
「どんなって別にいつも通りで良いんだって。それに変な態度取られると返って「何かあるんじゃないか?」って疑うよ。信は特にだね」
「わ、分かってるけど..........」
ピロン♪
その時スマホから音がなり、私は見る。
【槙本】:了解、後で持っていく
槙本くんからの返事だった。
「なんて?」
「後で持って来てくれるって、どうしよう!」
「良かったじゃん葵。そのまま告白でもしちゃえ!!」
「無茶言わないでよ!た、ただでさえ日常会話でも緊張するのに.........」
「.........信相手に緊張ってよっぽどだね」
ああああああ!!!
どんな顔して会えばいいの!!??
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