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第三十四話 花火大会の約束


 夏休み初日を近藤と木村の二人とショッピングモールで遊んだその日の夜、信介は寝る準備が整った状態で彼女である新城葵とスマホでビデオ通話をしていた。



『そっか。楽しかったんだね』


「まあね。でも殆ど祐樹の買い物に俺と木村が付き合った形だったね。俺も今日はお金殆ど使ってないし。アオは今日何してたの?」


『私は千鶴と遥と一緒に私の家で遊んでたよ』



話の内容はお互いの夏休み初日をどう過ごしたかだ。


新城葵が彼女となってからだが、特にこれといって付き合う前より生活に変化があるとすればこれと言った事はなく付き合う以前からあった事を継続しているだけ。


ただ今日学校で起きた互いのクラスでの話などや、今何してる?だとかそんな下らない質問をぶつけそれを延々と続ける会話だったりして一日の最後を送る。


それによりお互い寝る前だとかで寝巻姿で、今話している信介は上下黒の半袖半ズボンの夏仕様の部屋着で、新城は可愛らしい薄ピンクのパジャマ姿だ。



(可愛いな)



スマホの小さい画面から見える新城の何度も通話を通して見たパジャマ姿に信介は慣れなく毎回初めて見た様な嬉しさを感じていた。



“後悔はしない様にね”



木村の悲しげな顔とその言葉が頭の中で反響した。


結局木村自身が何故あの様な表情でこの様な助言をしてくれたのは聞けずじまいに終わった。


単に相談をしたから言ってくれたのか。


それならこのまま気にならないで済むのだが、それでもあんな表情をした木村は初めてであり、言ってくれた言葉が妙に重たく感じた。



『信くん....?』


「っ.....ああ。ごめん」



心配そうな声で自分の名前を呼ぶ新城に気付き、スマホの画面に映る彼女に謝る。



『どうしたの?何か考え込んでたみたいだけど』


「.......ちょっとね」



心配を掛けた事は素直に謝ったが、それでも考え込んでしまった理由は話さないでおく。


もしかしたら自分の気のせいかもしれないと思うと、人に話して話を大きくしたくなく、木村にも悪いと思ったからだ。


その気持ちを察してくれたのか、信介の返答に新城は“そっか”と言うだけで追求はしなかった。


そして場の空気を変えるように新城は笑顔で“ねえねえ!”と言ってくる。


その顔を見るだけで先程までの木村の事を一時的ではあるが忘れられる事が出来る。



「何?」


『今度大きな花火大会があるでしょ?』



信介達の住んでいる街には、毎年夏休みの時期である七月末にかなりの規模の花火大会が開催されている。


信介達が生まれる以前からあるらしくかなり歴史のある祭りだとか。


小学校低学年ぐらいまで祭りは自分のその足で今は仕事で忙しい母と二人で行っていたのを新城との会話の中で思い出す。



「そう言えばもうそろそろか」



夏休みが始まったとはいえ時期的に七月の中旬が終わりかけている為、花火大会のある日にちまでそんなに時間が無いことに気付く。


そして話の流れからしてスマホ画面に映る新城が何を言いたいのかも自ずとハッキリとする。



「じゃあ、一緒に行こっか」


『!良いの?!』



新城は嬉しそうだった。


そんな可愛らしい反応をされると提案した甲斐があると言うものだ。


もっとも話を始めてくれたのは新城なのだが。



「丁度悩んでたから。“夏休みは彼女と過ごすものじゃないの?”って今日木村にも言われたばかりだし。それでどうする?行く?」


『行く!』



こうして新城の心からの声を聞くと出会った当初から付き合う前を比べて随分と心の距離が縮まったと思う。


学校では付き合う前と殆ど変わらずに過ごしており、校内で会っても少し自重しているのか犬の様に近付いてくるのだがそれでも二人きりの時に比べると我慢をしている様に感じていた。


“二人きりだと甘え上手なんだよなあ”と口には出さずに呟いてみる。



「花火大会か........久しぶりだな」


『去年は行ってないの?近藤くんとか木村くんと一緒に』


「アオには言ってなかったかもしれないけど祐樹と仲良くなったのは二年に上がってからで、木村の方が友達付き合いは長いんだよ」


『そうなんだ。私から見たら近藤くんの方が長そうなのに。でも、木村くんとは遊ばなかったの?』


「木村はゲームが好きだからな。花火大会だとしても行かないと思う。俺も自分からは行かないし」



木村とは、学校の放課後から遊ぶ事はあっても休日遊ぶとなると全然遊ばない。


遊ぶとしてもネット環境の整った状態で行うゲームぐらいだ。



『でも良かった〜!もしかしたら近藤くん達と行くとばっかり』


「祐樹は宮野と行くだろう。木村は祭り自体に行くかどうかも知らない」


『ばったり会場であったりしてね』


「あるかも.....とは思うけど意外と花火大会の端から端って結構長いよな?」



毎年開催されている花火大会は川沿いの土手から打ち上げられるため、射的などの遊びを目的もする店に祭りと言えばこれと言われる食べ物が売られる屋台などは土手沿いの道に一直線で開かれる。


信介の記憶では、確か屋台の始まる場所と終わる場所までは1キロ以上はあるだろうと思われる程長かった気がする。



「祐樹と宮野に当日会うかは別として、早目に花火を見れる場所を確保した方がいいかもね」



かなり大きな花火大会で当日は会場となる場所には多くの人が混雑するばっかり筈であり、花火が上がる前にゆっくり見られる場所を探すとなるとそうそう場所は見つからないだろう。



『そうだね。そうだ!明日早速遊ばない?』


「........良いけど」


『じゃあ明日信くんの家に行くね』


「了解。気をつけて」


『うん。それじゃあ、おやすみ!』


「おやすみ」



ビデオ通話を終えた信介はベットの上へ寝転ぶ。


最初から最後までテンションの高かった新城の相手は一日中近藤の買い物に付き合って疲労しきった状態では流石に彼女相手だろうと疲れる。


それでも続けてしまったのは、分かっていても一秒でも長く新城と繋がっていたかったからだろう。


付き合い以前から新城とはスマホを通じて連絡をしてきたが、もしかしたらその時からこの感情はあったかもしれないと今更な事を思ってみながら眠りにつく。







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