第二十九話 報告
走った結果何とか朝のホームルームが始まる約十分前に校門前に辿り着く事が出来た。
病み上がりであり元々運動が得意でなく常日頃から家にいるよな引きこもりにはここまでのダッシュはしんどかった。
尚且つここまで手を引っ張られていたので自分の走るべきペースと言うものが全く配慮されていなかった。
そんな手を引っ張っていた新城はと言うと、息は乱れているものの体力の無い自分とは違いあまり疲れている様子はない。
男の意地などと告白を自分からやり直したが、本来ならこういった状況なら男の方が率先して手を引くべきではないのかと軽い運動をプライベートで始めようかと考えてしまう。
「..............」
肩を上下に揺らし手に膝をついて息を整えているとあちこちからざわざわとした声がうっすると聞こえ周囲を軽く見てみる。
心の中で覚悟していたのだがやはり噂の2人がこうして肩を並べて生徒が多く通る校門前にいると学年を問わず注目を浴びる。
しかもこうして息を整えているが、膝に手をついているのは右手だけで左の手は今も新城と繋いだままだ。
走って手汗が多少かいているのだが握っている新城は離そうとせずこうして校門前で多くの生徒に見られている今も握る手の力を弱めていない。
そんなんで見るなと言う方が無理かと思うが例え手を繋いでいようと注目はされていただろうと悟る。
しかし付き合ったと言ってこうも人前で大胆にするにはまだ早いかなとさりげなく握られた手をくねくねと動かしながら抜き取る。
「あっ...........」
「流石にね」
するりと抜き取ると新城は残念そうな声をもらす。
信介は言葉を並べて“回りを見てみろ”と視線を新城から回りへ移す。
それに習いは回りを見てみると漸く自分が人前で異性と手を繋いでいると言う実感が湧いたのか頬を赤くさせて少し俯いた。
「そんなに恥ずかしいなら握らなきゃ良いのに」
「だって漸く付き合えたって思ったら.........ね?」
「ね?って同意を求められても。まあ手を握られて嬉しかったけど。人前では控えよう」
「........」
そこで頬を膨らませ拗ねる新城。
その姿は非常に可愛いがまだ付き合い始めて数分でまだ恥ずかしい気持ちがあるので譲れない
たまになら、と言うと渋々「分かった」と納得してくれた。
走って乱れた息も整い新城と肩を並べて校門を通って校内へ入る。
その時も視線は絶えなかったのだが噂から事実へと変わった事で何のストレスも感じなくなった。
それに校内へ入って尚隣を歩く新城の今すぐにでも鼻歌を歌いそうな気分の良さそうな顔を見ているだけでストレス予め得を得ている気分になれる。
階段を上がり教室の階の廊下を歩く。
朝の廊下は生徒の姿は見えないので視線を感じることはない。
しかし歩いている方向により一度新城のクラスの教室を通らないといけないのだが、新城は前の扉の方からは入らず態々後ろの方までついて来てくれた。
ん?と疑問に思ったが窓からこちらを覗く新城のクラスメイト達の視線から内心で納得して敢えて口を出さなかった。
「じゃあここで」
「うん。またね!」
軽く手を振って新城は自分のクラスの教室へ入っていった。
それを見届けた後に自分も気持ちを切り替えて教室の扉を開けようとする。
その際、新城のクラスの方から“進展したの!?”“実ったのか!?遂に我らがアイドルの恋が実ったのか!?”などと騒がしい声を聞き苦笑いする。
信介は自分の教室へと入る。
入った途端クラスメイトから視線を浴びるが、それはすぐに消えて自分が入ってくる前の状態に戻り談笑を始めた。
俺は何も感じないまま自分の席につく。
「信おは〜」
「おはよう」
木村は相変わらずのテンションで朝の挨拶をしてくるのでそれをいつもの調子で返す。
そして後ろから近藤も元気良く合流していつもの3人組が揃った。
熱で休んだ日、特に変わった事が無かったかを聞きながら残り少ない朝のホームルームまでの時間を過ごす。
「そうそう。昨日大変だったんだぞ!実はな」
「知ってる。アオから直接聞いた」
「本人からかよ」
残念そうな近藤。
どうやら昨日アオの行った行動はそれなりに話題になっているようだ。
そこで信介は今朝の通学途中で新城と交際をスタートした事を言おうと思い至った。
「それと2人に言いたい事がある」
「何?」
「ん?」
「ちょっと近くに来い」
新城葵と両想いで付き合った事事態この学校では十分に自慢出来る事なのだが、信介はあまり男女の関係を周りに言いふらすような真似をしたくはなかった。
それに自分で言ったら言ったでそれこそ自慢話と第三者から取られるので広まるとしても直接本人達から聞いた信用が出来ると判断された友達の口からの方がいいと思った。
なので2人を近づけ小声で辺りにはなるべく聞こえない声で言った。
「アオと正式に付き合う事になりました」
「...............」
「...............」
それを聞いた近藤と木村は少し驚いた様子だった。
しかしその後案外あっさりと両者から「おめでとう」と祝福の言葉を貰った。
そのあっさり加減に驚いたのは信介だった。
木村は予想がつくのだがこう言う話にめっぽう食いつく近藤が落ち着いた様子で祝福をしてくれた事に。
「あれ?驚かないの?」
「いや、どうせ付き合うとは前々から思ってたし」
「逆に今まで何で付き合ってなかったのか疑問になるレベルだったし」
「そんなに分かり易かった?」
「信は無意識だったみたいだけど新城さんの信へのアプローチを直で見てたからね」
どうやら新城は相当前からかなり自分にアタックを仕掛けていたようだが、まだ自覚する以前の自分はその事に気付かなかったとここで知る。
なによりそれが親しい友達2人にバレバレだったのがアタックを仕掛けられた側なのに何処か恥ずかしくなる。
そんな気持ちでいると丁度担任が入ってきた。
「それじゃあこの話は昼に」
「やんのかよ」
「付き合うとは分かっててもどう言った経緯なのかを尋問......質問します」
「尋問ね。了解しました」