第二十六話 お見舞いからの......
信介は動揺した声を出す
普段浴びない人からの視線を多く浴びたお陰で精神的な疲れから久方振りの熱を出した
そして友達の近藤にスマホで学校を休むと伝えて意識を無くした所までは辛うじて思い出せる
体調が悪いことで寝れば治ると思い心地の良い睡眠に入っていたのだがそれが自分しかいる筈のない部屋から微かに聞こえてくるゴソゴソと言う音が気になり目を覚ました
それから現在に至り、目を開けた先にいたのは普段から見慣れている制服姿の新城だった
大丈夫?と心配してくれる新城を他所に信介の心臓の鼓動は熱によるものでは無いと分かるほど煩く感じる
「だ、大丈夫。でも何で家に居るの?」
「近藤くんから『今日は信熱で学校休んでる』って聞いたからお見舞いに」
「どうやって入った?」
「インターホン鳴らしても出てくれなくて。それでもしかしたら信くん倒れてるかもって勝手に入ったの」
「ダメだろ優等生。不法侵入」
「鍵はちゃんと閉めておかないと。これじゃあ泥棒に入られても文句は言えないよ?」
「絶賛泥棒紛いの行動を取った同級生が部屋にいるけどな」
ベットから上半身を起こす
新城には驚いたが身体の気怠い感じはまだ多少なりとも残っており朝熱を測ってから近くの棚に置きっぱなしになっていた体温計を手に取る
「まだ熱っぽい?」
「朝よりは大分マシになった」
新城と会話を挟みながら熱が測り終えた体温計を脇から出し、熱が表示されている部分を見る
37.6と表示されており今朝と比べて熱は下がったもののまだまだ微熱でも高い方ではあった
しかしそれでもまだ咳がない分マシであった
「うわ、まだあるね」
体温計の表示を見て新城はまだ信介の熱が完全に治っていない事を知る
しかし今朝の8度を越える熱に比べれば今は身体の気怠さぐらいで数値で表示されている程体調が悪い訳ではない
元々体温が高い方であるので今の状態は案外普通であり、体育などで運動した後など元々の高さとプラスされるのでしょっちゅうである
なのでこれなら明日の朝には完全に治るだろうと思い体温計を棚に戻すとベットから出ようと動く
ずっと寝ていて汗もかき喉がカラカラの状態で軽い脱水症状気味だと思い一階の冷蔵庫に入っているであろう飲める物を取りに行くために
しかしそれは不法侵入をして家に上がり込んでいる新城によって止められた
「まだ寝てないと。熱だって下がってないんだから」
「何か飲みたいから一階に降りるだけ」
「だったら私が取ってくるから信くんは寝てて」
待て、と言う間も無く新城は部屋を出て行ってしまった
信介は新城が出て行った扉を少しの間呆然と見詰めるがここは大人しく行為に甘えようとベットの上で横になる
枕の側に置いておいたスマホを持ち新城が来るまでの間暇つぶしをしようと電源をつける
「ん?なんだこれ?」
信介のスマホの背景は何にも設定しておらず黒く染まり、そこに現在の時刻と今日の日付と曜日が出ている
そしてその下にメールやらの通知が表示される訳なのだが、それが尋常ではない数来ていた
近藤やら木村など日頃から連んでいる友達もあるのだが、それ以外にも普段は連絡を一切と言って良いほど取らないクラスメイト達に隣のクラス、つまり新城と同じクラスにいる友達からも連絡が来ている
その数およそ50件
特に理由もなく連絡先を入れて、アプリに登録した友達と言うカテゴリー欄にいる人達の殆どと連絡を取らない信介からしたらグループではなく個人でここまで送られてくるのは異常だった
取り敢えずそれを処理しようとパスワードを入力してアプリを開き一人一人の内容を確認していく
“羨ましいぞ信!”“詳しく教えろ!”など意味のわからないものばかりが殆どで適当に返事を返しておく
だが本当に意味が分からない
そもそも今日は学校に行っていないので何かしらやったと言う事もない
関係があるとすれば思い付くのは例の噂の件だと信介は考えるが、それでも本来なら皆んなから送られてきた内容とはまた逆の言葉を投げ掛けるだろうとも思う
非難される覚悟が何故このように逆に祝福モード全開のメールを多数の友達から送られて来たのか
皆んなから送られて来た内容を確認していると水の入ったペットボトルを一つ持って、新城が部屋へ帰って来た
「はい。水で良かったよね?」
「ありがとう」
差し出されたペットボトルを受け取る
それを飲み乾いた喉を潤す
喉が潤っていく感覚を感じながら信介はメッセの確認をする
新城は何やら難しげな顔をしてスマホを弄る信介が気になるようで首を傾げて信介を見やる
視線に気付いた信介
「何?」
「なんか難しい顔してるから気になって」
「ああ。何か学校の皆んなから変な内容ばっか送られて来てさあ。全然内容の理由が分からないんだよね。それも全部似たような内容みたいだし」
「どんな内容?」
「ん」
口で説明するより見せた方が早いと新城へスマホを渡す
もしかしたら新城が何か知っているかもしれない
制服を着ている事から学校へ行っているはずでクラスは違えど新城のクラスにいる友達からも来ているので新城には何かしら情報が入っている
そう思い新城へスマホを渡したのだが
「...........」
「アオ........?」
新城はスマホの画面を見て黙り込んでしまった
頬をほんのり赤くして何かに耐えるその顔は恥ずかしいと言った感じだろうか
「何か知ってるの?」
「えっと..........」
誰が見ても新城が事情を知っているのは疎い信介でも分かる
ここまで多くの人からメッセを送られると幾ら何でも何かあったのかは気になって仕方が無い
逃さないとばかりに信介は新城をジト目で見る
それに逃げられないと分かった新城は少し考える素振りを見せた後に「........よし」と近くにいるにも関わらずギリギリ聞き取れるぐらいの声量で呟いた
「実は...........」
「実は?」
「クラスの皆んなに話しちゃったんだよね」
「何を?」
おそるおそる話す新城だが聞いている信介からしたらそれがどうして自分にまで影響を及ぼすのか分からない
それに段々と声が小さくなっている気もする
顔も言葉を発する事に赤くなり、これではどちらが熱で体調を崩しているのか分からない程だ
「......それで信くんに伝えたい事があるの」
「俺と関係あるの?」
「ある。それに1番その件に近いのは信くんだから。お願い」
「どうぞ......」
顔を赤く俯かせ上目遣いになって新城は弱々しくも先ほどよりもハッキリとした声になる
信介はドキドキしながら新城からの言葉を待つ
「私は信くんの事が好きなの」
新城から出て来たのは告白だった
それを聞いた信介の鼓動音は増し、そして顔が熱くなるのを感じた
急展開過ぎてすみません




