第二十三話 電話越し
謎の手紙に突然の先輩訪問、そして学校のアイドル的存在新城葵と恋仲疑惑の浮上した日の夜。
いつもの通り学校帰りにコンビニ弁当を買い、家へ帰りシャワーを浴びて、レンジで温めた弁当を食べて2階にある自分の部屋へ戻る。
信介がいつものルーティーンを終えて部屋へ戻った時間は午後8時になったばかりだった。
しばらく開けていないカーテンを完全に閉じている為家の外にある街灯の明かりは部屋に入る前に閉ざされたカーテンで遮られ、部屋の扉を開けても信介の目に映るのは真っ暗な自分の部屋。
どの位置にテーブルやベッドがあるのかハッキリとしない程部屋は真っ暗で堪らず信介は部屋の明かりのスイッチをつけた。
明かりのつけ始めは目が慣れず一瞬視界を狭め徐々に元に戻す。
相変わらず物が少ない自分の部屋を見て、倒れ込むようにベッドの上で横になる。
「あ〜〜〜、今日はどっと疲れた.................」
弱々しい声で呟く。
別に誰かに返事に求めている訳ではない。
しかしそれら独り言にしては大きいものだった。
新城と自分の関係が学校中で噂となりいつも以上に人と接する機会が多かった。
基本的仲の良いクラスメイトからの質問に、移動教室で廊下を歩いている時や休み時間にトイレへ行く為廊下を歩いている時など色々な人からジロジロと見られた。
その中でかなり信介が精神をすり減らしたのは、ジロジロと見られる中でその後から始まるコソコソ話だ。
どうせ噂になっている新城と比べてパッとしない奴だとでも言われているのだろう。
自分で自覚している分他人からの評価はかなり心にくるものがある。
例え聞こえていないとしても大体話の内容は分かってしまうので、傷付いた心を何度近藤と木村の2人に支えられたことか。
肝心の新城とは昼休みに1度新城の状況を知りたくて連絡したぐらいでそれ以降は何もない。
流石にこんなに騒ぎになっているので信介は極力新城と会わないように努めたのだ。
その努力のお陰で隣のクラスにも関わらず、信介は今日1度も新城と会っていないし声も聞いていない。
信介はスマホを操作して無料連絡アプリを開く。
そこから最後にこのアプリを通じて話した人物にメッセージをうつ。
今大丈夫?少し話さない?
返信は直ぐに返ってきた。
私も話したい
信介はその画面右上にある通話ボタンを押した。
数コールしないで相手側は出てくれた。
『もしもし』
「ごめん急に。本当に今大丈夫?」
『大丈夫だよ。私も信くんに連絡しようか迷ってたから』
電話相手ーーー新城も信介と同じであった。
話は互いに同じ要件で学校中で噂となっていること。
「俺の方ではほとんどのクラスメイトから質問されたよ。男子は噂を否定してくれ!って感じで女子は完全にこれを機に俺から恋愛話を聞き出したいって感じだったよ」
『私はそこまで質問攻めをされたりとかはなかったかな。千鶴と遥が守ってくれてたから』
「案外そういう事に関しては女子の方が強いんだよなあ。祐樹と木村は途中までは助けてくれたけどちょいちょい諦めてたし」
このような助け合いでは男子よりも女子の方が連携力は強い。
個々の力が無い分、まとまって動けばその勢いは戦車並みだ。
簡単には止められない。
『でも、ちょっと嬉しかったかな』
「え......?」
質問をしてきた女子の勢いを思い出していると、突然新城はこの事態に合わない発言をした。
『噂になるって事は、皆んなからして私と信くんは........その........こ、恋人同士に.......見えたってことでしょ?』
「......っ!!」
まさかの発言に信介は息を飲む。
学校で男女の恋愛の噂など本当にその本人達が付き合っているのであれば対して問題はない。
だが、その噂がただの噂であった場合その噂になっている2人からしたら迷惑でしかない。
いつも話している友達からも普段は話さないが話が早い人からもその噂に関して聞き出される。
そしてそこからの流れはその噂になっている2人が徐々に距離を開け始め、卒業する頃にはスマホを使っての連絡もしなくなるという最悪な状況に陥る。
中学の時も友達が被害にあっているのを信介は直で見ている。
そのように学校で起こる男女の色恋沙汰の噂に対して信介は良いイメージを持っておらず、当然噂相手である新城も自分と同じ様に噂にイライラしていると思っていた。
だが、聞こえてきた新城の声は緊張感の分かる声で更には噂になって嬉しいと思っていると信介は感じた。
「..........ま、まあ仲が良いと思われてんなら悪い気はしないな」
『................もう』
拗ねる声が少し聞こえた気がしたが信介は敢えてそれをスルーする。
「話を戻すけど、この噂どれぐらい続くと思う?」
『ん〜どうだろ?私は直ぐに収まると思うよ』
「直ぐ..............か」
有り得ない。
噂は収縮していくと思うが噂事態が消える事はないであろう。
噂を大きくしている本人は直ぐに無くなると言うが、なにぶん自分の影響力と言うものをまるで分かってなどいない。
「なあアオ」
『ん?なに?』
「噂が今より落ち着くまで直で会うのは辞めよう」
噂の中心にいる自分達が校内で会っているところを見られでもしたらそれこそ噂の信憑性を高めるだけだ。
それを話せば信じてくれる人達もいると思うが信じない人達だって当然のように出てくる筈。
都合の良い事に新城とは学年は同じでもクラスは違う。
教室は隣だが会わないように努力した今日の事を考えれば十分校内で会わないようには出来る。
2クラス合同の授業になると1つの教室に密集して視界に入るようにはなるだろうが、それでも離れた位置にいれば良いだけのこと。
今は何より学校での平穏を追求すべきである。
『え......』
「出来れば学校で会うのはやめようって話。俺達の事を知ってる祐樹達なら兎も角他の人達の前ではな。なにか会ったらスマホで連絡しても良いから。なんだったら会わない分休憩時間に連絡してくれても良いから」
『..............私の事が嫌い.........?』
「え、何でそうなった?違うから嫌ってないから。ちゃんと(友達として)好意は持ってるから」
『っ!.......そっか!』
「そもそも嫌いになった相手にこうして連絡なんか取らないよ」
『私も。それに男の人でこうして通話するなんてお父さんぐらいだもん』
「俺もそう考えたらそうかも」
2人の会話はまるで付き合いたての恋人同士の会話であり、噂もあながち間違いではない。
そんな会話を続けながらどんどん時間は過ぎていく。
明日もまた学校で同じように噂されるだろう。
当作品を最後まで読んで頂きありがとうございます!
これから主人公槙本信介とヒロイン新城葵の仲が本格的に近付くと思われるでしょう。
しかし、事情によりこの第三十話を区切りに投稿するペースがこれまで以上に遅くなると考えられます。
この作品を読んで頂き面白いと感じてくれブックマークをしてくれている方々などは申し訳ありません。
次の投稿がいつになるかは分かりません。
しかしそんな事でもこの作品を待ってくれていたら幸いです。
それでは次回も宜しくお願いします!!!