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第三話 キッカケ



『まだ起きてるかな?』



信介は直ぐ様これに返事を返す。



『起きてるけど今から寝るとこ』



ハッキリ言うと、「今から寝るので邪魔しないで下さい」だ。



『だったら寝るまででいいから話相手になってくれないかな?』

「はあ〜」


この彼女の要件に信介は溜息をつく。


信介が今メールのやり取りをしている彼女、新城(しんじょう)(あおい)は信介と同級生の女子だ。


新城葵

この名前を聞いて高校内では知らない者はいない程の有名人。


さらりと伸びた艶のある髪に、ぱっちりとあいた目、透き通った鼻筋。


彼女を構成するパーツの一つ一つが世の女性陣なら憧れるであろう高レベルなまでの容姿をして、モデルにいてもおかしくない程の美少女。


校内の男子の大半を虜にする彼女は誰にでも優しい。


成績は入学当時から上位キープ、運動神経は抜群と完璧、更には誰にでも分け隔てる事なく優しい。


そんな校内の人気者と何故こうしてメールのやり取りをしているのが、この自己評価の低い信介なのか。


信介と葵は、入学当時からクラスは別れ2年に進級しても同じクラスにはなっていない。


しかし今はこうして何故かお互いにメールのやり取りをする仲にまで発展していた。



『良いんだけど、毎回日付超えて学校では眠たくないの?』



自分は物凄く眠たかった。



『眠たいけど、こうして夜遅くまで起きてるのは慣れてるから』

『勉強でもしてるの?』



新城は成績優秀で、毎回定期テストで赤点ギリギリを取っている信介からしたら「夜遅くまで勉強をしている」のイメージが勝手についていた。



『そんなところだよ』



どうやら本当に夜遅くまで勉強しているようだった。


テスト1週間前でないと自宅で勉強をしない信介からしたら本当にすごいなと感心する。


しかし今はそんな事よりも寝不足により眠気が物凄いことになっているのだ。


昨夜も新城とメールのやり取りをしていたのだが、終わったのが夜中の3時。


今までメールのやり取りをしていた最高時間を大幅に更新した。


終わったのが3時で寝付いたのがそこから数分、それで起きたのが7時と、4時間程しか寝れていないのだ。



『もしかしてだけど結構長くなる?昨日みたいに』



昨夜のように長くなるなら正直時間制限を設けた方が良い。



『迷惑だった!?ごめんね!』



まあ、新城がこのようにして返すのはこの現状において当然の反応だった。


メールは、相手と顔を見て話さない分こうして文章で表すだけでは相手の気持ちを勝手に連想してしまい、相手の本来の気持ちと違った受け取り方をする。


今の信介の感情は兎に角眠たく時間制限を設けてくれさえすれば良いのだが、学校のマドンナ新城はこれを迷惑と受け取ったらしくこうして謝罪のメールを送ってきた。


信介はそこである提案をする。



『別に良いんだけど、メールでうつの結構つらいから長くなるなら通話にしない?』



眠いとかなりフリック操作を間違えて文字が所々おかしくなる。


それが気になってしまい一々文字を訂正するのが信介はめんどくさくなるのだ。


それにくわえ通話なら話は全部口で伝えれるだけでなく、メールと違って変に長くもならなく相手の感情も声のトーンなどで分かったりもする。


変にやましい気持ちなどなく信介は新城に【通話】の提案した。


しかし、今までなら直ぐに返って来た返事が途絶えた。


あれ?


もしかして寝たのか?


信介は新城が寝てしまったと思ったが、自分のメールの横にはハッキリと【既読】の2文字が表示されている。


この場合考えれるのは、信介の提案が新城にとって嫌だった、もしくは画面を開いたまま寝落ちしたかの2つだ。















「え!?」



新城葵は時間に合わない声で思わず口に出す。



『別に良いんだけど、メールでうつの結構つらいから長くなるなら通話にしない?』

「通話...........で、電話..って事......だよね..............〜〜〜!!!」



新城葵は携帯を持ってベッドの上で足をジタバタさせる。


その顔は頬が少し赤くなっていた。


新城葵は誰にでも優しく学校の男女問わず人気だ。


告白された数だって自慢ではないが、いつもいる友達よりかは上だと思っているし実際そうなのである。


つい先日も同じクラスの若村と言う男子生徒から告白を受けた。


その告白は断ったが、持ち前のスキルで何とかクラスが気まずい雰囲気に包まれる事もない。


新城葵には、好意に思っている人物がいる。


それが今メールのやりとりをしている槙本信介だ。


何故同じクラスにもなった事がなく、挨拶程度にしか関わらない信介の事を学校のマドンナが好きになったのか。


きっかけは本当に些細な事。


高校の入学式の日、葵はあまり体調が優れていなかった。


熱はなかったものの妙に身体が怠くて足取りもおぼつかないフラフラの状態で高校までの道のりを歩いていた。


マスクをして、更に状態が悪化したのか高校までもう少しと言う所で葵は地に蹲み込んだ。


呼吸も荒く、胸の動悸も凄い速さだった。


道ゆく人々に助けを呼ぼうと思ったが、そんな勇気は今の葵には持ち合わせていなかった。


家を出る前に母に言われた通り休んでおけば良かったと後悔する。


しかし、入学式が終わり新しい顔ぶれとなるクラスで孤立するのは嫌だった。


だからこうして無理してでも来たのだが、このままだと入学式には遅刻してしまう。



「何やってんの?そんな所で」



悲しい気持ちになって下を見ていると突如後ろからそんな声が聴こえてきた。


葵は振り返ると、そこに居たのは少し前髪が長く、背も自分より少し高いぐらいの男の子だった。


そして自分と同じ高校の男子制服を着ていた。


葵はしんどい気持ちを耐えながら途切れ途切れで言葉を出していく。



「実は....体調が良くなくて....でも今日.....は入学式.....だから」

「それで来たんだ。俺だったら休むけど。でもここに居たら入学式遅れるぞ」

「うん.........どうしようか迷ってて」



最初は急に話しかけて来た男の子と言う認識だった。


その男の子はやる気のない感じで少し考え込むような顔つきになる。


そして沈黙した空間が葵を気まずくさせていると......



「どうする?俺がおぶって行こうか?」

「......え?」



思いもしなかった男の子の思い付きに葵は固まった。


初対面の、しかも男の子にそんな提案を持ちかけられたら誰だってこんな反応を示すだろう。


固まっている葵を他所に男の子は段々と訳を話し出した。



「いや、ここで止まってたら俺も入学式遅れるし、そっちもだろ?それなら俺がお前を背中に乗せていけば間に合うぞ」

「............いいの?」



初対面の女の子をおんぶするなんて、初対面でなくても嫌なはずだと葵は思う。


ましては自分は病人で、本来なら自宅のベッドで寝ていた方が良いレベルで体調が宜しくない。


そんな人をおぶれば風邪が移ってしまうかもしれない。



「別に移ったって学校休めるからいいよ。それでどうする?」



男の子は一切躊躇などしなかった。


葵はそんな男の子を不思議に思いながらその提案にのった。


今思えば風邪で正常な判断ができていなかった。


そんな感じで学校まで男の子におんぶされた。


男の子は葵が辛くないように「大丈夫?」「少し揺れるけど我慢してね」など時々声を掛けてくれ、そのおかげで道中は何とか意識が保った。


学校に着くと既に入学式15分前。


学校の正門の前には数人の先生がいて、男の子と葵を見て慌てて駆け寄る。


この時の事を良く覚えていない葵だが、男の子が先生達に訳を話していたような気がした。


後から聞いた話では男の子と葵が入学式の前になっても学校に到着していないと知った先生達が校門前で待っていたらしい。


入学式は体調を考えて式だけ出てそのまま式に来ていた両親と一緒に帰宅した。


入学式の後、家に帰り部屋着に着替えベッドで横になる葵。


朦朧とする意識の中、葵は助けてくれた男の子に感謝していないのを悔やんだ。


高校から近い場所で助けてくれたとは言え、人々一人おぶって行くのは中々の重労働だ。


事情を説明した後、保健室の先生に連れて行かれ男の子とはそこで別れた。


入学式でも意識を保つのに精一杯で同じクラスなのかも分からなかった。


翌日は前日の風邪が嘘だったかのように治り、無事に学校に行く事が出来た。


新しいクラスはまだグループなど出来ていなく葵はほっとした。


葵はその持ち前の明るさと人当たりの良い接し方で僅か1日で友達と言える者も出来た。


しかし、葵は前日自分を助けてくれた男の子に会う事が出来なかった。


せめて名前だけでもと思い、葵は帰りに職員室に寄って担任に助けてくれた男の子の名前を聞きに行った。


担任の女性教師、倉田先生に聞くと



「ああ。槙本くんね」



槙本


それが私を救ってくれた人だと葵はその名前を脳内に刻む。



「今日学校に来てましたか?」

「私は分からないかな........武田先生!」

「はい?」



倉田先生は少し離れた机で何やら作業していた男の若い教師、武田先生に声をかける。


声をかけられた武田先生はパソコンから目線を変えて、倉田と葵の方を向く。



「武田先生のクラスの槙本くん、今日学校に来てましたか?」

「槙本?ちょっと待ってて下さい」



武田先生は机の側にある1Bと書かれた名簿を持ち中身を確認して行く。



「槙本槙本...........ああ。いますよ。そういえばマスクしてましたね」

「そう.....ですか」



武田先生の言葉に葵は直ぐ様自分が風邪を移してしまったと思った。


なんせかなり密着していたのだ。


移って当然だった。



「どうして槙本くんを?」

「昨日助けてくれたのでお礼を言おうと思いまして」

「成る程ね。じゃあちょっと待ってて、もしかしたらまだ校舎にいるかもしれないわ」



そう言って倉田先生は机に置いてある受話器を取り『1年B組槙本くん、1年B組槙本くん、校内に残っているのなら至急職員室倉田の所に来て下さい』と校内放送で呼び掛けた。


その放送後直ぐに職員室を訪れる1人の男子生徒がいた。



「失礼します、1年B組槙本です。倉田先生に呼ばれて来ました」

「槙本くんこっちに来て!」



教室を訪れた男の子を倉田先生が呼ぶ。


どうやらまだ帰っていなかったようだ。


葵は昨日の記憶を元にその人物を思い出す。


見つけた.......!


葵は昨日の記憶で信介の顔は良く覚えていないが声は良く覚えていた。



「倉田先生、俺何かしましたか?」

「こちらの新城さんが槙本くんに昨日の件でお礼を言いたいそうよ」

「俺に....?」



そう言って信介は倉田先生の近くに立つ葵を見る。


葵は信介と面と向かい少し固まったが本来の目的を思い出し信介に頭を下げる。



「あの、昨日助けてくれてありがとうございました!!」



職員室に響く程大きな声でお礼を述べる。


信介はそんな葵の行動に最初は驚くが、昨日と言う単語に思い出した様な顔になる。



「ああ。もう体調は大丈夫なの?」

「は、はい!」

「.............別に敬語じゃなくても良いよ。同じ1年なんだし」

「..........うん。分かった」



お礼も言えたと言う事で2人は揃って職員室を出た。


校内には部活の声が所々聞こえて来た。


2人はちょうど帰る途中で職員室に行ったので帰り道の途中まで一緒に歩いていた。



「.....ごめんね」

「ん?何が?」

「マスクしてるのって私の風邪が移ったからだよね?」



信介は口元を隠す様にマスクをしている。


それを見る度葵は信介に風邪を移してしまったと罪悪感が芽生える。



「でも昨日の新城よりは大分マシだよ。歩けない程じゃないし」



優しいんだなと思った。


普通なら体調を悪化させた原因である葵を少し非難してもおかしくない。


それに葵は、どこか信介が他の男子と違うような気がした。


葵に近づいて来る男子は、そのほとんどが下心ありきだ。


まるで顔を窺う様な話し方に話の内容、どれも葵のご機嫌取りをしている。


しかし、信介からはそんな感じは伝わってこなかった。


普段のありのままを出している様な、そんな気がした。



「じゃあ俺こっちだから」



そう言って信介が進もうとした道は葵の家のある道とは逆の道だった。


葵はどんどん帰り道を歩く信介を止める。



「槙本くん!」

「ん?」



信介は葵の言葉に振り返る。



「.......連絡先教えてくれない?」



勇気を振り絞って出た言葉がそれだった。


そして気がついた。


私は何を言っているのだろうかと。


昨日今日会ったばかりの男子に連絡先を聞くなんて、と。


内心動揺している葵。


それとは逆に信介は制服のポケットからスマホを取り出しす。



「いいよ」

「え、いいの?」

「だって別に困る事はないでしょ?」



葵と信介はそこで互いのIDを交換した。


そして信介からは全くと言っていいほど無いが、ちょくちょくこうしてメールのやり取りをするような仲となり、今日まで続いている。


学校では関わらないがその分、こうして今日あった学校での出来事などを話す。


話しすぎて夜遅くになり寝不足気味ではあるがそれでも葵にとっていつの間にかこうして信介との会話はかけがえの無い時間へと変わっていた。



「........よし!」



出会ったきっかけを思い出して勇気を出して信介に電話をかけた。


数コールした後にスマホの画面から信介の声が聞こえて来る。


どうやら今日も簡単には寝れそうにないかな。






読んで下さりありがとうございます!!!

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