第十九話 お出掛け 3
フードコートを出て2人はモール内を適当に見て回る。
フードコートで昼食兼休憩を挟み体力回復したのだが、それでも信介は「はあ」と溜息を歩きながらつく。
疲れているのだが、それは肉体的にではなく精神的になのだ。
その理由はーー
「〜〜〜〜〜♪」
自分の半歩前を鼻歌交じりに歩く新城だ。
それだけで絵になる新城は校内でも人気なのだが、モール内を歩いていると当然の様に男の人達が新城に目がいっているのだ。
「おい、凄え可愛い子がいるぞ」
「モデルさん?凄い可愛い!!」
「1人かな?俺誘ってこようかな」
「でも後ろに男がいるぞ」
「なんか女の子と釣り合ってないね。ブサイクって訳じゃないんだけど、女の子があんだけ可愛いのに......」
その美貌は男の子だけではなく女の人にも魅了するのだが、その後に後ろを歩く信介を見ると「何故?」と言う目で見られるのだ。
それが信介には少し疲れるのだ。
別に新城と自分が一緒に居て釣り合いが取れていない事など出会った当初から分かっていたのだが、普段からこのような目で注目を集めた事なんて無く、それが信介に精神的疲労を与えていた。
(あああ.........帰りたい)
口には出さないがそう思うしかない。
午前中もあったがその時よりもモールに来ている人達が多く、浴びる視線の数もそれに習うかのように多くなっている。
チラッと信介は視界に入る新城を見るがーーー
「わあ、この服可愛い............」
服屋の見えやすい位置に置いてあるレディース物の服を手に持ち、自分に向かれている視線など気にしていない。
学校でも1年の頃から注目を集めているのでその影響で他者から見られている事に慣れてしまったのか一切自分に注目が集まっている事に気付いていない。
慣れと言うのも考え物だと信介は深く思いながら新城の後に続く形で店に入る。
オシャレな内装の店内は男の信介がまず入らないレディース物の服しか置いていない店だった。
新城の手に取った服は両腕の布がない黒のノースリーブとそれとセットにしてあるプリーツスカートの組み合わせだった。
「買う?」
「う〜ん、どうしようかな」
「悩むならまず試着してきなよ。待ってるから」
「じゃあそうするね」
新城は服とスカートを持って店の奥にある試着室に歩いて行った。
信介は新城の入った試着室の前にスマホをいじりながら待つ。
試着室と言ってもドアで仕切られているのではなくカーテンのような布一枚で区切られているだけだ。
直ぐそこで新城が身に付けている衣服を脱いでいるのだが、信介はそこら辺の事を考えても全く気にならずそれよりも早く帰りたいとしか思わないでいた。
待つ事数秒、信介と新城の区切っていたカーテンが無くなり、信介はスマホから顔を上げる。
「おお!」
「...............どうかな?」
新城が服の感想を恥じらいながら言う前に信介は感嘆の声を上げた。
セットで売られていた事もあり、ある程度新城が来た場合の感じは想像出来ていたのだが、今目の前にいる新城はその想像を超えていた。
変わらないその美貌とさらけ出されたシミのない綺麗な両腕、服により強調された丁度良い大きさの膨らみ2つにモデル並みのウエストの細さ、そしてプリーツスカートによって分かる脚の長さ。
学校にいる女子達には悪いが、自分の通っている校内で彼女に敵う女子は居ないと断言出来る程信介の目には新城が写っている。
「お客様!大変お似合いですよ!」
「そ、そうですか?」
若い女性の店員が横から新城をベタ褒めする。
新城も悪い感じはしないらしく、分かりやすく店員の感想を受け取った。
「俺もその服良いと思うよ」
信介もその流れに乗って褒め言葉を言う。
信介のこの言葉が最後に新城の中の壁を壊したのか「なら、この服とスカート買います」と褒めてくれた店員に笑顔で新城は服とスカートのセットをお買い上げした。
「分かりました!」と笑顔で答える女性店員。
新城は再度もとの服に着替え直す為カーテンをしめた。
「可愛らしい彼女さんですね」
「え?」
すると女子店員は勘違いで信介に言った。
「え?」と声を漏らしたが、今の状況を考えれば目の前にいる女性店員が信介を彼氏で新城が彼女、2人で買い物をしに来たと勘違いしてもおかしくない事に気付く。
「そうですね」と苦笑いで返す。
そして信介の中である事を思い付き一緒に新城の着替え終わりを待つ女子店員に声を掛ける。
「あのすいません」
「ごめん!待たせちゃって..........あれ?」
買うと決めた服とスカートから元の服に着替え終わり、待たせた信介に謝罪を込めた言葉を掛けながら試着室を出ようとカーテンを開ける。
しかしらそこには待たせているはずの信介は居なかった。
「信くん?先に出ちゃったのかな」
靴を履き買うと決めた服とスカートを持って信介を探す為目を動かしながら取り敢えず会計を済ませようと店のレジへと向かう。
そしてレジに商品を置き新城は店員を呼ぶ。
そしてやって来たのは先程新城を誉めくれた女子店員だった。
笑顔で対応され軽く会釈する。
そして代金を払おうと財布を取り出すが、女性店員は何故か新城に服のお金を要求せず店の袋に商品を入れ出した。
袋に入れてから代金を払うと思った新城だが、その女性店員は「お待たせしました」と商品の入った袋を笑顔で新城に差し出す。
これに新城は戸惑う。
「あの、まだこの服のお金を払ってないんですけど」
躊躇しながら女性店員に言う。
すると女性店員は
「代金でしたら既に払い終えてますよ」
と言った。
「え?」
「一緒にいらした男の子が既にこの服の代金を払い終えてます。それと伝言で『男には少し居ずらい場所だから店の前で待っている』と」
「そ、そうですか」
困惑した様子で新城は女性店員が渡してくれた袋を受け取る。
「素敵な彼氏さんですね」
「えっ!あ、ああ..........はい」
勘違いが続く店員だが、新城は驚くが自分と信介がその様な関係に見えたのでそこまで深く追求はしなかった。
「またのお越しを」
「はい」
店員からの言葉を貰い袋を持って店を出る。
店の前には柱にもたれ掛かる信介がいた。
「信くん!」
信介は呼び声に反応して壁から背を離した。
新城は信介に詰め寄る。
「これどういうこと!?」
あまりの新城の勢いに「落ち着けって」と言いながら信介は訳を話す。
「いや、今日は元々新城に勉強を教えてくれたって事でお礼を込めて買い物に来ただろ?俺としては何か形に残るお礼をしたかったし、新城が「私に似合う服を買って」って言っただろ?それならその服は俺からのプレゼントって思ったんだけど........ダメか?」
「ううん!ありがとう!嬉しいよ!!大事にするね!!!!」
「喜んでくれたなら買った甲斐があるわ」
新城は宝物の様に信介からのプレゼントである服の入った袋を大事そうに持つ。
その後は新城が信介に似合いそうな服を求めてメンズ服を手に取り信介を着せ替え人形扱いをしたり、デザートを食べに1階のフードコート横にあるアイスクリーム屋でソフトクリームを2人で食べたりと、充実した時間を送った。