第十九話 お出掛け 2
モール内に入ると一気に2人に冷気が襲った。
少し暑くなった体温には丁度良く感じ、寒くは感じなかった。
モール内は本当に多くの人達がおり、流石だなと滅多に来ない信介はモールの集客率の高さを思う。
駅前と言う人が集まる場所の目の鼻の先にあるこの大型ショッピングモールは、4階建で1番上の屋上は駐車場と映画館がある。
フードコートは1階と3階に1つずつあり、それぞれ店の料理は違う。
1番多いのは衣服などを取り扱う店で、どの店もその店の内装などと似たような服を取り扱っている印象が信介にはある。
明るい店などそれに似合った明るい服が多く、逆に少し照明の落とした店では色は落ち着いた色が多く置かれているように。
「それで、何処に行く?俺は一応勉強のお礼で付いてきたからアオが行きたい店に付いていくつもりだけど」
「私も特にこの店!って決めてる訳じゃないよ。ただぶらぶら歩いてみて良さそうな服があればその店に入るって感じ」
「なら、適当に店の前を通ってみるか」
そこから2人は1階から3階までの店の前を通りながら時間を過ごした。
時折新城の目に入った服を店の前で見るとその店に入ったりとした。
だが、それでも欲しい服とまではいかず、そんな感じで店内に入る事計6回目にして信介の表情には疲れの表情が見え始めていた。
ここまで服選びで時間の掛かる事が過去無かった信介にとって、1着選ぶのにここまで時間の掛かる女子という生き物が恐ろしくなる。
気に入ったのならば、買えば良いのにと思うが高校生の経済力では気に入った服を全て買える訳がないと理解する。
しかし昼前になっても新城は1着も服を買う事はなかった。
「う〜〜ん、中々良さそうなのがないな」
「俺としてはどれもアオに似合いそうだけど」
疲れでこれまで新城が気になった服を新城本人が着たとしての想像をして適当にそう言っておくが、それでも「う〜〜ん」と納得はしていない様子だ。
(.............普通なんだよな)
買い物を共にして信介は新城に対してそう思った。
新城とまだスマホを通しての仲だった頃は、校内では関わる事なんて無く友人の近藤や周りの男友達や女の子友達から聞いた印象では『勉強も運動も出来る。それに誰にでも優しく接せられる完璧女子。容姿も全てがパーフェクト』と信介は思っていた。
信介は入学式の日とその次の日の放課後に会っているので、新城の周りへの容姿への評価は妥当だと信介自身も思った。
しかし、今こうして一緒に買い物を共にする程仲良くなった今では前までの完璧女子と言う印象は少し信介の中で崩れていた。
新城だって忘れ物はするし、数は少ないがわがままだって言う。
周りが過大評価をし過ぎて別次元の存在と成り果てていた新城だが、信介の目には何処にでもいる普通の年齢にあった女の子になっていた。
(もしかしたら、周りの自分への対応のせいで無理してるのかもな)
考えられない話ではなかった。
新城は優しい。
迷惑がっている同じクラスの田中でさえ、無理に追い払おうとせず穏便に事を終わらせようとする。
自分だったらお得意の口の悪さで田中と言い合いになっていただろうと思う。
最近では、田中は前までの積極性はどうしたのかという程静かで信介と廊下ですれ違う際も特に絡んでくる事も無くなった。
信介的に逆にそんな田中が気味悪いがこれ以上面倒な事が起きなければ良いので信介からも行動は起こしていない。
「そろそろ良い時間だし、他の人で混み合う前にフードコートで何か食べない?」
信介の前を歩いていた新城は身体を信介の方へ向かせて言った。
時間は11時半で確かに今の時間ならお昼時に混み合うことが予想出来るフードコートの席が確保出来るだろう。
「なら行くか。ここからだと1階が近い」
今2人がいるのは2階の端で、信介の記憶では丁度この真下の1階の端にフードコートがあった。
2人は近くにある下り用エスカレーターに乗り2階から1階へ。
降りた先には御目当てのフードコートがあった。
昼前でもフードコートには多くの人達がいた。
それでもまだ何とか席を2人分確保する事は出来た。
「俺が最初は荷物を見ておくから食べたいものを選んで来なよ」
「分かった。じゃあ行ってくるね」
新城は信介に自分の荷物を任せると財布とスマホだけを持って席を立ち店のある方へ向かって行った。
荷物番だが、新城が持っている荷物は小さなバックで信介も肩から掛ける鞄でそこまで多い訳ではなく、1箇所にまとめれば何が無くなったかなど直ぐに分かる程だった。
新城のバックと自分の鞄をテーブルの真ん中に置いて視界に入るようにし、スマホを取り出して適当にネットの小説サイトを開いて時間を潰す。
各ジャンルのランキングを確認しながら、適当に目に入ったおもしそうなタイトルの話を1話から読み上げていく。
新城が自分の食べる料理を持って戻ってくる時には、読んでいた話の3話分の途中であった。
新城が頼んだのは6個入りの普通のソース味のたこ焼きだった。
「それだけで足りる?」
「私そこまで食べる方じゃないから。これだけで足りるよ」
「そうなんだ」と納得して見るものの、改めてたこ焼きと新城のセットは何とも面白い組み合わせだと思う信介。
荷物を新城に任せ、信介もスマホと財布だけを持って席を立つ。
あまりフードコートという人が多く利用している場所に滅多に来ない信介は滅多に来ないという事で色々と見て回った。
そして見た中で美味しそうなラーメンを選んだ。
店の前の看板で予めどの味のラーメンを頼むか決めて見せての店員に決めた味のラーメンを頼んだ。
「多い........」
出来上がったら音が鳴る機械を持たされるが、昼前で皆同じ考えなのかフードコート内の人は信介と新城の2人が入って来た時よりもずっと多い。
1度新城のいる席に戻り、音が鳴ってまたこの店の前まで来るのは些か面倒だと判断した信介は席には戻らず、店の前で注文したラーメンが出来上がるのを読み掛けの小説を立ち読みしながら待つ事にした。
ブ〜ブ〜!!
片手にスマホを持ち、もう片方の手で持っていた機械が鳴った。
音を止めて店員にその機械と注文していたラーメンとを交換すると形で受け取る。
そして慎重に、尚且つ人と当たらないようにゆっくりと前進する。
本当に人が多い。
流石休みの日のショッピングモールと感心する。
人混みを潜り抜け何とか新城のいる席まで辿り着く事が出来た。
「遅かったね。ラーメンにしたんだ」
「この人の多さだし、戻るのは諦めて店の前でこいつが出来るのを待ってたんだ」
「確かに多いね。座れない人だって多い」
「だったらさっさと食べるか」
新城のたこ焼きは半分の3つまで減っていた。
信介の頼んだラーメンは普通のしょうゆ味だ。
まずスープを飲むのだが、飲んだ瞬間口の中で上質な味が広がり、中途半端に減っていたお腹が急に空腹になったのを感じる。
一応目の前の新城に掛からないようにいつもよりゆっくりと麺をすする。
やはりコンビニのラーメンと店で食べるラーメンは違うなと改めてコンビニと店の差を思う。
「美味しい?」
「美味い。久し振りにコンビニ以外のラーメン食べるけど、ここまで上手いならラーメン食べる時は店に行こうかな」
「あんまりコンビニ頼りって言うのはやめた方がいいよ。毎日は流石にね」
「うっ......」
以前皆んなが家に泊まって来た時にも近藤と似た様な事を言われたのを思い出し信介は言葉に詰まった。
「近藤くんから聞いたよ。『信はいっつもコンビニ弁当かパンしか食ってない』って」
「別に毎日コンビニで済ましてる訳ではないから」
「なら昨日の夜に何食べた?」
「......................とんかつ弁当」
「何処の?」
「........コンビニです」
信介は目の前にいる「逃さないぞ」と言わんばかりの目で自分を見てくる新城に昨日の夕飯を正直に嘘偽りなく話した。
新城はそんな信介の答えに「はあ」と溜息をつく。
「いい?コンビニ弁当は確かに美味しいよ。でもね、毎日コンビニだと流石に栄養の偏りが凄いの。そんなんばかり食べてると身体壊しちゃうよ?」
「.....はい」
信介は「何故今俺はショッピングモールのフードコートの一角で同級生の女の子から日頃の食生活について説教を食らっているんだ?」と不満に思うが、新城から出て来た言葉は全て自分を気遣っての言葉なので文句は言えるはずもなくただただ「はい」という2つ返事しか出来なかった。
「まあ。この話は今は置いておいて」
「いや、もう2度としなくて良いです」
「早く食べ終わって買い物の続きに行こ」
見ると新城の食べていたたこ焼きは無く空の入れ物がそこにはあった。
信介は急いでラーメンを食べ終え2人で席を立ち、トレーを各店に戻してフードコートを出た。
そして出て気付いた。
(あっ、祐樹から教えられた店の事忘れてた)
前日に近藤がお勧めしてくれていた店に昼飯を食いに行くということを。