第十九話 お出掛け 1
中間試験明けの土曜日。
信介は、現在新城との待ち合わせ場所になっている駅前近くにある公園のベンチで待ち合わせ相手の新城葵が来るのをスマホで小説投稿サイトを見ながら待っていた。
5月後半になり春は過ぎ少し暑くなり、日差しが眩しい。
しかし流石は土曜日。
公園には信介の様にベンチに座って寛ぐ年配のご老人、公園内を自転車で走る男子小学生らしき軍団など多くの人達が公園を利用している。
待ち合わせのこの公園は、近くに駅がありその反対側には道路を挟んで信介と新城の行く大型ショッピングモールがあり、休日の今日は多くの家族連れやらが想像される。
世間一般で引きこもり扱いされる信介にとって大人数な場所は得意ではないが、そこは気合いで乗り切る事にする。
弱くない日差しを受けながら信介は新城が来るまでの間ひたすら待つ。
「..........ん?あれか」
そこから数分後、待ち合わせ時間丁度に信介は遠くからこちらに向かってくる新城の姿を視界の端に捉えた。
信介はベンチから立ち上がり向かってくる新城に向かって足を動かす。
信介は歩いているが新城は信介の姿を確認すると走りだした。
そのお陰で2人は直ぐに会えた。
「おはよう!ごめん、遅くなっちゃって!」
「大丈夫。時間ぴったりだから」
信介は新城の服装を見る。
普段見慣れている制服姿や試験前に泊まりに来た服装とは違い今回新城が着て来た服装は信介の目から見ても華やかだった。
薄ピンク色の生地はこれまた厚そうではなく、下は白のロングスカートとシンプルな服装ではある。
しかし着ている人物がその服装を更に華やかにさせる。
「............どうしたの?」
新城は信介が無言で自分の着ている服を見て固まっている事に不安の声をもらす。
信介はそんな不安そうな新城を他所に周りを確認する。
公園にはまだ多くの人達がおり、そこには信介と同年代の男女が多くいる。
そして新城は気付いていないが信介は気付いている。
周りの男連中が私服姿で現れた新城を目で追っていると言う事に。
だが、自分も周りの男連中同様に新城に見惚れている事にはまだ気付いていなかった。
「信くん?」
「っああ、ごめん」
新城の自分を呼ぶ声で信介は我を取り戻す。
「変、だったかな?」
「え?」
「この服」
自信の無いように新城は着ている服を見たのちにチラッと信介を見る。
「いや、逆逆。似合ってるよ」
「......どのくらい?」
「どのくらい?えっと......そうだな。正直に言うとそこまで女子に対して緊張とかしないんだけど、今は凄い緊張してるぐらいに」
「答えになってない気がする」
どうやら新城の満足のいく解答ではなかったようで、信介に向けて拗ねるような顔をする。
それが更に新城の魅力を掻き立てているのだが、本人にはその自覚はないらしい。
だがこのまま新城の機嫌の悪い状態でモールに行くになると後々のご機嫌取りの労力を考え、信介はここで解決する方が良いと考えた。
しかし正直に答えた先程の感想は新城に対して答えになっていないと返されてしまった。
なのでここは少しオーバー気味に感想を述べる事にした。
「可愛いよ普通に。それに新城は元々美人だけどそれがその服によって更に可愛くなってるよ」
「えっ!?」
「ほら、良く漫画とかアニメとか、兎に角恋愛系のモノとかで“見惚れる”って奴があるでしょ?俺、あんなの現実ではあり得ないって思ってたけど新城見て固まっちゃったよ。初めての経験だよ、ここまで人を見て綺麗だって思うの」
信介は自分で言っておいて『俺何言ってんだ?』と思う。
しかし、ここまで言わないと新城の機嫌は良くならないだろうと思ったのだ。
言い終えた信介は対面の新城を見る。
「っ.................」///////
新城は顔を赤くさせていた。
信介はそれを感想が気持ち悪くて怒ったと勘違いする。
「いや、待って!ごめん、キモいよな。忘れて」
「.......ごめん。それは出来ないかも」
どうやら新城の中で過去見ない程のキモい発言をしたと信介は思う。
信介は言ってしまった事に後悔する。
しかし言ってしまった事はどうしようもないので、話題を変えた。
「えっと、じゃあ行くか。いつまでも此処で居るのもアレだし」
「う、うん。そうだね」
そろそろ周りの新城への視線が一緒にいる自分にまで向けられそうで直様公園を出て目的のモールへ行こうと誘う。
ぎこちない新城もこれに賛同してくれたので取り敢えず信介はほっと落ち着く。
2人は歩きながらモール内でどうするのかを話す。
スマホを使っての話し合いは、待ち合わせ時間と場所だけだったので誘われた信介は何をするのか知らないのだ。
モールと言う事でお金は使いそうだなと財布の中に念の為3万円は入れてある。
「買い物。特に服かな。そろそろ夏物の服が出てると思うから今のうちに買っておこうと思ったの」
「へ〜、もう夏物出てんだ。まだ6月前なのに」
「基本的にどの店もこの時期から出てると思うよ?」
「俺、あんまり自分の服とか買わないから知らないんだよなぁ。着れなくなったら買うから、その服がずっと着れるって判断出来る奴はずっと着てるし。この服だって俺が中2の頃に買った奴だし」
そう言って新城に白いTシャツの上に着ている黒の緩めのシャツの一部を引っ張る。
信介自身服などの好みは、色が黒と白の落ち着いた色で無地な奴が好みでそれ以外の色の服は基本的に着ないのだ。
それに一々服の固有名称を言われても良く分からない。
すると突然ーーー
「だったら、私が信くんの服を選んであげるよ」
新城はそのような提案を出した。
これには流石の信介も「え?」と戸惑いの声が出てしまった。
「その代わりに信くんは、今日私に似合いそうな服を1着選んで欲しいの」
「......自分のもろくに考えもせずに買うのに他の人が着る服を選ぶのは流石にハードルが高いんだけど」
「大丈夫!モール内には沢山お店があるから!」
車が来ていないのを確認し2人並んで速やかに道路を横断した。
そして目の前には巨大な大型ショッピングモール。
入り口には2人以外にも多くの人達がモール内に入り、その波に逆らわないようにモール内へ入る。