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第十七話 試験終わり



1学期中間試験、最後の試験が終わるとクラスメイト達は一気に緊張感が解け、試験監視役の先生が教室を出ると試験を受けていた時間の静寂が嘘のように騒ぎ出した。


クラスメイト達が「どっか行こうぜ!」と試験期間中に我慢していた遊びの提案をするのを聞きながら、信介は教室の自分用のロッカーに入れてあったリュックを自分の机に置き帰る準備をする。


試験はどの日も午前で終わり、今日の最終日は試験週間中は停止されていた部活動が再開される。


つまり、遊びに行こうと言っているクラスメイトは帰宅部らしい。


同じ帰宅部でも信介は知らなかった。


部活がある者は午後からある部活の為に空腹を満たす為いつものグループで集まって昼食を食べようとする。


信介はこの期間中、試験が終わると提出物を出した後は直様帰宅し、帰宅途中に寄ったコンビニで昼飯を買って過ごしていた。



「やっと終わった〜〜〜〜〜〜〜」



教室内で開けられた誰かの弁当の良い匂いを微かに感じていると、これまで黙っていた木村が隣の席で試験が終わった事の喜びを噛み締めていた。


木村はこの試験期間中、大好きなゲームを我慢しており、家までどうかは知らないが、信介の知っている限り木村と一緒にいた時間に彼がゲームをしている様子はなかった。


その分禁断症状と言っても良いレベルの絶望し切った顔で勉強していた。



「早く帰ってゲームでもしろよ」

「そうするよ。祐樹も今日は橘達と遊びに行くらしいからね」



いつもいる近藤は、今日はクラスの違う奴らと一緒に遊びに行くらしい。


インドアな2人を遊びに連れ出すのはいつも近藤だが、その近藤が居ないので信介と木村の2人は遊びに行くという事もなく帰れる。



「じゃあね信。また来週」

「お疲れ〜」



木村は試験疲れのよろよろな状態で教室を出て帰って行った。


信介も帰る準備を整えてリュックを背負い帰ろうとした。


その時、教室の前側の扉が開く。


そして教室内に残っていたクラスメイト達がざわついた。


信介は開かれた前側の扉を見る。


そこに居たのは新城だった。



「おい新城さんだぞ」

「相変わらず綺麗だ!」

「........告ってこようかな」

「おい馬鹿!不用意に近付くとファンクラブの奴らが黙ってねえぞ!!」

「新城さん、2年になって何か変わったよね」

「うん。段々可愛くなってるよね」

「.............恋?」

「え〜新城さんが!?.........でも、もしかしたら?」



新城の人気は男女問わず人気だ。


男子共の新城を見る眼差しは、まるでこの世の物とも思えない美しい女神を見ているかのようで、女子達は最近の新城が何処か変わったらしくそれを恋だと考察している。


信介は、ファンクラブと言う言葉に「本当にそんなものがあるんだ」と新城の人気の有り様を改めて実感する。


信介にとってファンクラブなるものは、テレビに出ているアイドルグループやラブコメアニメぐらいでしか出てこない身近にないものだと思っていたのだが、まさか学内に存在するとは思いもしなかった。



「信くん!」



そんなファンクラブまである事が明らかとなった新城は、信介を視界に入れるや否や颯爽と信介に駆け寄る。


信介は自分に駆け寄る新城に対して特に何もないのだが、クラスメイト達は違っていた。



「...........“信くん”....だと!」

「あの新城さんが、男子を愛称で呼んでる所なんて見たことねえぞ!!」

「しかも相手はあのやる気の欠片もなさそうな信だと!?」



男子達は新城の“信くん”呼びに対して過剰とも言える反応を示す。



「おお......これは確定かな?」

「でも、何で信なの?」

「いや。そこは良く分かんないけど。だけど、信って何だかんだ優しいからね」



女子達は同じ女からして新城の反応で何となく察したが、男子達と同じようにその相手が何故信介なのか、男子よりは少ない疑問が出ていた。


信介は全部とまではいかないがクラス中から聞こえる疑問の声を耳にし、この教室内での自分の評価が何となくだが分かった気がした。



「何?」

「今から帰る?」

「うん」

「なら、途中まで一緒に帰ろ」

「良いよ」



新城の提案に特に断る理由の無かった信介は承諾し、2人は揃って教室から出た。


教室を出た直後、教室から男子の苦痛とも言える叫び声が信介と新城の耳に届くが敢えて無視した。


今日から部活再開ともあって、他の試験日より帰る人影は少ないが、それでも2人が帰る姿を、特に新城葵が男子生徒と2人っきりで歩いている所を目撃した生徒は少なからず存在し、少なくない数の視線を2人は浴びながら歩く。



「どう?試験の結果は?」



信介が慣れない視線に内心戸惑う中、新城は察してくれたのか話を切り出してくれた。


一応土日に泊まってまで勉強を教えてくれたので、試験の自分なりの手応えを報告しておいた方が良いと思った信介は口を開く。



「やっぱり数Bとかその他の苦手科目は自信が無いよ。赤点を回避してもあって40に届くか届かないの点」

「はあ、あれだけ勉強したのに。この試験中だって、夜に電話しながら教えてあげたよ」

「感謝してますよ。今度、その埋め合わせはするから。俺に出来る限りの事をするよ」



と言っても高校生が出来ることなど限られてくる。


だが、信介は普段は殆ど買い物をしない為親からの定期的な小遣いを貯めに溜まっているので良く遊びに行く近藤やゲームにお金を使う木村よりかは断然持ってはいる。


態々自らの勉強時間を減らしてまで自分の苦手な部分を教えてくれたのだ。


それに合った対価を新城にするのは信介にとって何らおかしいことではなかった。



「出来る限り.........か」



信介の言葉に少し考える動作をする新城。


そして何か思い付いたのか、少し慎重に自分の願いを口にした。



「だ、だったらこの土日のどっちか空いてる?」

「.......空いてるって予定がないか?ってことだよね。大体俺は土日ならどっちも空いてるけど」

「なら、私の買い物に付き合って欲しい」



少し頬を赤くさせて新城は言った。


買い物。


信介は異性と買い物をした回数などない。


有ってもそれは親戚やら仕事で忙しい母とたまに買い物へ行く程度だ。


そして年頃の男女2人が買い物へ行こうなど、デートと呼ぶのが1番しっくりくるであろう。


それを女、ましてや学内のアイドルである新城から言われるとなると断る異性はいない。



「そのぐらいなら別に良いけど」



勿論信介もだ。


しかし、他の男連中が引き受ける動機は全く持って違う。


ただ新城との2人っきりを過ごしたいが為に承諾する男と違い、信介は試験のお礼をしなければならないと使命感を果たそうとするこの違い。


信介にとって新城と休日に何処かへ出かける行為そのものには、ただの御礼でしかなくそこに下心など全くない。


しかしそれでも承諾の言葉を聞いた新城は嬉しそうに「本当に!?」と再度信介に問い掛ける。



「赤点があっても無くてもアオが俺に勉強を教えてくれた事には変わりないからねー」



2人はそこで分かれ道に辿り着く。


ここから先は2人の家は逆方向だ。



「じゃあ、明日か明後日かは連絡して決めようね!」

「分かった。寝ないように待ってる」










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