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第十五話 勉強会 密会


2階の廊下で合流した信介と新城は、それぞれの部屋で寝ている人達を起こさない様慎重に廊下を歩き、階段を降りて先程まで皆んなでワイワイしていたリビングへとやって来た。


2人並んでソファへと座る。



「.................」

「.................」



2人は体育祭前に一度一緒に帰った時の様に黙り込む。


信介はチラチラと目だけ横に動かして視界ギリギリに見える新城を横目で見ながら話をきりだす。



「寝れないの?」

「うん。いつもと環境が違うからかな?千鶴と遥が寝ても全然寝付けなくて...........」

「.....................」

「.....................」

(気まずいな..............)



信介は現在自分が置かれている状況が嫌になる。


これまで1年の時からスマホを通してではあるが新城と連絡を取り続け、今の2年生になってからは少しずつ直接的に関わる機会も増えた。


スマホの連絡もメッセージのやり取りだけだったが、今では通話までこなしている。


それに新城も不満など無いと思い、信介自身も「少なからず自分は新城に嫌われてはいないだろう」と考えるようになって来ていた。


会えば話すし、連絡が来れば応える。


良い異性の友人として信介の中で新城は間違いなく大きい存在になって来ている。


しかし、それでも信介はこれまでこのような状況に陥った事が無かった。


深夜1時近い真夜中に自分の家のリビングで、同級生の仲の良い友達と肩を並べてソファに座っていると言うこの状況は、信介にとって未知の領域だ。


それも相手はあの新城葵。


校内で知らない者はいない、超が付くほどの有名人。


ぱっちりとした目にすっとした鼻筋、ふっくらとした唇。


一切シミのない肌に手入れが行き届いた綺麗な黒髪。


信介が見てきた異性の存在で最も存在感のある新城葵が今、自分の家にしかも隣に座っている。


しかも今は持参した可愛らしい水色の寝巻きを着ている。


これが自分ではなく、学校の彼女のファンが見たらとんでもない騒ぎになるのだろうと信介は思う。



「ごめんね。急に泊まる事になっちゃって」

「いや良いよ。俺もなんだかんだ楽しかったし。........でも」

「..........でも?」

「..........祐樹達にも言ったけど新城が思いの外直ぐに中条の意見に賛成したから」

「.....................チャンスかと思って」



新城は少し溜め込んで話した。


チャンス。


これには信介も疑問に思う。



「チャンスって............何が?」

「槙本くんともっと仲良くなるチャンス......」



新城は隣にいる信介に向かい、イタズラがバレた子供のような笑顔を浮かべる。



「ほら、私達、1年生も2年生の時もクラスが違ったでしょ?今まで連絡は取ってたけど..............私はもっと槙本くんと仲良くしたいの」

「.......................」

「.........変だよね。分かってる。自分がどれだけ思い切った行動に出てるかは。でも、こうでもしないと槙本くんと壁が有り続けると思ったの」

「壁........俺、そんなによそよそしい?」



信介は少し動揺しながら新城にきく。


自分としてはそこまで新城に対して壁を作っているつもりはなかった。



「うん。千鶴と比べちゃうとね」

「中条..........」



信介は中条とは高校入学で1年の時からの仲だ。


それにより、まともに話し始めたのが2年生になってからの新城とは仲の良いレベルと言うのが違う。



「出来れば、私と話す時も......その、千鶴みたいにもう少しラフに話してくれない?」

「............」



信介はデジャブを感じた。


何故なら似たような事を信介自身が新城に言った事だからだ。


ファストフード店で、信介は新城に向けて、『素でいてくれ』と言った。


まさか自分が逆の立場になるとは思わなかった。



「う〜ん。でも、俺自身普通に接してんだけどな」



しかしそう言う人に対しての態度の違いなど、自分で意識しない限り分からないと思う。


信介自身、中条と新城に接する際は差など無いようないつも通りの態度で接してきたつもりなのだ。


それを今更変えろと言われても困ると言うものだ。



「.........俺そう言うの分かんねえから、新城が思う仲の良い人達がする事をするって事で良い?」

「私が思う..............」



新城は考え込み出した。


リビングには暗くないように電気だけは付けているがテレビなど、寝ている近藤達を起こすような音が出る電化製品はつけていない。


信介と新城が会話をする事によって静寂はなかったが、新城が考え込んでしまうとリビングには静寂が訪れる。


新城が考えるのを待っていると、「じゃ、じゃあ......」と少し躊躇する様に新城が口を開く。


信介は、少し頬を赤くしている新城の顔を見ると少しドキッとしたのが分かった。



「お、お互い名前で呼び合うって言うのは?」



言い終えた新城の顔は、言い始める前よりも顔が赤くなっていた。


信介はそれが恥ずかしさから来る顔の赤みだと分かる。


かなり新城なりに勇気を出して言ったのだろう。


信介は、今まで同年代の女子を名前呼びにした事はあるが、高校からは中学の時の女子が違う高校に行った事により全て苗字の呼び捨てなのだ。


名前呼びしていた中学時代の女子の同級生だが、それも小学校からの付き合いの長さもあってだ。


しかし、新城本人が言ってきたのだし、ここまで勇気を出して自分に言ってきたのだ。


いくら性格の悪い自分でも、頑張った人を落とす様な事はしたくない。



「じゃあ......................葵?葵さん?」

「っ!〜〜〜〜〜待って!」



信介なりに少し緊張しながら言ったのだが、新城は信介の口の前に手をかざして止めに入った。



「え、何で?」

「だ、ダメじゃないの!?ただ私の心の準備が.........」



新城はそっぽを向き1度気持ちを落ち着かせようとする。


先程から自分の心臓の鼓動の音が響いて仕方が無いのだ。


信介は暫く新城の気持ちの整理がつくのを待つ。


「はぁ〜」と深い溜息をつくと、新城は気持ちの整理がついたのか信介の方へ向く。



「それでどうすんの?」

「こ、今度は私が言う!」

「.........................」

「..................信介」



顔を俯かせて新城は信介の名前を呼んだ。


普段から信介は自分の事を「信」と愛称で呼ばれているので、新城に呼び捨てで呼ばれた嬉しさよりも、言われ慣れていない下の名前の呼び捨てに新鮮さを感じた。



「久しぶりに名前で言われた。めっちゃ新鮮」

「はあ............」



信介の隣では何故か疲れた様子の新城がいる。



「名前で呼ぶって、普段から使ってって意味?」

「うん。出来れば、私は名前で呼ばれたい。でも欲を言えば、もう少し特別な名前で呼んで欲しい........かな」

「.............じゃあアオね」

「う〜ん、じゃあ私も!信くんって呼ぶね」



信介的に自分は別に良いのだが新城は良いのだろうかと少し心配になる。


仲の良い関係なら名前呼びは別に大した問題では無いのだが、新城に彼氏が出来たら自分達の名前呼びに違和感を持つのではないだろうか。



(新城に彼氏が出来たら...................間違い無く誤解を招きそうだ)



悩むが、信介は別に今問題にする点ではないと結局考えを放棄した。


すると、左肩に重みと甘い匂いを感じる。


信介は左側を見る。



「.....スゥ.....スゥ....」



新城は心地よい寝息をかきながら全体重を信介に任せて寝てしまっていた。


新城からは自分と同じシャンプーを使っているにも関わらずとても良い香りがする。



(...........どうしたものかね)



このまま新城を起こすのも良いがここまで安心しきって寝に入られては起こしようにも起こさない。



(..ああ.......俺も..............眠く...........)



信介は目を閉じる。


リビングには2つの寝息が聞こえ、その影はくっついたままであった。

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