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第十五話 勉強会 土曜日午前〜午後6時過ぎ


試験まで残り4日となった土曜日。


朝から信介は家の掃除をしていた。


自分の部屋と客間、リビングなど人が普段から生活する上で出入りしそうな部屋を念入りに掃除していた。


何故家の掃除をしているかと言うと、試験をする為に皆んなで勉強する事になったのだが、皆んなが皆んな入れる場所と言うのは限られて来る。


流石にファミレスでも良いと思うが、長時間滞在してしまっては店側の迷惑になると考え、普段から一軒家に1人暮らし状態の信介の家で行う事になったのだ。


この事は一応母に連絡済みであり、勉強会をする時も仕事で忙しいので帰れないと伝えられている。


掃除機を掛け、後は皆んなを待つのみとなった信介は自分の部屋で皆んなが来るまでの間スマホをいじる。


何気に友達を自分の家に入れた事がない信介は、不安と緊張が少なからずある。


家に寄る前は来るメンバーの誰かが事前にメッセージを飛ばしてくれるので信介はどうにかそれまでには不安が消えていたら良いと思う。


そこから数十分経つ。


試験範囲の勉強を少しでも進めておこうと勉強していた時スマホから音がなる。


確認すると近藤からで『今から全員で行く!』と短い文面からでも近藤の元気さが伝わる。


それを確認して、信介は勉強を再開する。


そして近藤からメッセージが来てからほんの数分後、家の呼び鈴がなる音がした。


信介は部屋を出て階段を下り、家の入り口である玄関の扉を開ける。



「よっ!」



扉を開けた先には元気いっぱいの近藤とその後ろにいる木村達がいた。


今日は天気が良く太陽が直に当たり熱いと考え、信介は挨拶も早々に皆んなを家の中に招き入れた。


皆んな人の家で少し躊躇しながら入るが、近藤は来た勢いのまま家に上がった。


皆んなをリビングに入れた後、信介は人数分のコップを棚から出し、冷蔵庫に辛うじて残っていた母の作っておいた麦茶を容れる。



「麦茶で良いよね?」

「気が利きますな〜」

「ありがとう」



信介はトレイにコップを乗せて皆んなに渡す。



「俺、信の家に来るの初めてかも。駿は?」

「俺もなんだかんだ初めて」

「へ〜、友達なら行ったことあると思ってた」

「私も」

「結構綺麗だね」

「皆んなが来る前に掃除しといたから」



信介達は常日頃から一緒に居るが、こうして互いの家に行った事は意外にもないのだ。


信介も近藤と木村の家には行った事がなく、家の方向が分かるぐらいだ。


それを女性陣に話すとびっくり顔をされる。



「私は葵と遥の家にも行った事あるよ!」

「お泊まり会した事もあるよね」

「やっぱり女子ってそんな事するんだな。俺たちもするか?」



宮野の『お泊まり会』と言うキーワードに反応した近藤は信介と木村に自分達もするか?と提案する。



「お泊まり会って、祐樹と木村は今日泊まってくんだろ?」

「あ、そうなの?」

「それで2人ともそんな大きいバック持ってたんだ」



新城は近藤と木村がここまで頑張って持って来た勉強会にしては大きすぎるバックを見て納得した様子で呟く。


中には勉強道具ではなく、泊まる為の衣服類や歯磨きなど、部活の合宿を連想させる物ばかりだった。



「え〜、それなら私もお泊まり会したい」

「...........は?」



突拍子もない発言に流石に中条以外の全員が戸惑いの声を漏らす。


普通男子だけ泊まる中女子1人で泊まると言うのは、いくらなんでも警戒心がなさ過ぎる。


そう考えるが、信介達は仮に中条が泊まるメンバーに加わるとしても大した問題にならないのではと容易に想像が出来た。


しかし、中条本人がオッケーしても、中条の親御さんにはどうやって説明するつもりなのだろうか。



「千鶴、何言ってるの!?」

「だって、それなら夜でも勉強教えれるでしょ?泊まらなかったら夜になる前に帰らないといけないから、そこまで試験対策の勉強は出来ないじゃん!」

「そうだけど.............泊まるのは流石に」

「第一親になんて言って許可貰うんだよ」

「そこは普通に友達の家に泊まるって言えば大丈夫!」



この場にいる誰もが中条の正気を疑うが、流石に後々問題になるとこの家の住人である信介に1番迷惑が掛かる。


それが分かる近藤と宮野は止めに入る。



「いやいや、やっぱりダメだ。男子3人の中にお前1人加わるとなると問題になりそうだ!」

「そうだよ千鶴。だから落ち着いて」

「え〜、だったら葵と遥も泊まればいいじゃん」

「いや、何でそんな話に?」

「お前酔っ払ったおっさんみたいなノリだな」

「...............俺は別に気にしないけど」



その中でまさかの木村が空気を読まない発言をする。



「信はどうなの?」

「俺?俺も別に気にしてないな。ただ中条が泊まるとなると来客用の布団があったか?って疑問に感じてた」



信介は近藤と宮野、新城が問題視する中、別に中条を家に泊める事自体に何ら躊躇はない。


1年の時から気の知れた中である中条なら、問題になるようなトラブルは起きないと分かっているからだ。


この家の住人である信介が中条の泊まりを否定しないので、近藤達は口を出す事が出来なくなった。





















「結局、全員泊まる事になったな」



リビングの机に教科書とノートを開き、疲れた表情で頬杖をつく近藤は数時間前に起きた『女子陣もお泊まり会!?』騒動の事を思い出す。


話し合いの結果、女性陣全員も槙本家に泊まる事になった。


それにより現在、お泊まりセットを信介達男性陣に数時間試験範囲の部分を教えたのちに各家に取りに行っている。


今はそんな女性陣抜きで勉強をしている。



「でも意外だったのは新城かも」



信介も数時間前にあった話し合いを思い浮かべる。


中条が泊まりたい発言から始まり自分がオッケーしたのだが、それに便乗するように泊まりたいと申し出たのはまさかの新城だった。



「あ〜........そうだな」

「そうだね」

「.......?」



しかし意外と思っていたのは信介だけであり、近藤と木村からしたら新城のこの行動は意外でもなければ寧ろ当然と言っていい行動だった。


近藤は彼女である宮野から聞く以前に新城の信介に対する行動からある程度察し、木村も新城の信介への分かりやすい態度で勘付いていた。



「てか、もうこんな時間か」



スマホで時間を確認する。


時刻は午後6時、午前中は話し合いで勉強を本格的に始めたのが午後からなので、かれこれ5時間以上勉強している。



「夜飯どうする?」

「コンビニにでも行くか」



毎度お馴染み信介の相棒コンビニ弁当を求め椅子を立とうとする信介を止めるのは近藤。



「冷蔵庫に何か材料とか入ってないの?」



木村の一言で、信介は立ち上がりキッチンに置いてある家庭用冷蔵庫を開ける。


しかし中はアイスコーヒー数本と信介が買ってきたコンビニ弁当についているソースやタレなどの付属品しか無かった。



「食料品は何も入ってない」

「いつもお前何食べてんだよ」

「毎日コンビニで過ごしてるよ俺。料理やらないし、母さんもたまにしか家に帰って来ないから料理しない。せめて俺が出来るのは米を炊くぐらいだけど、この家に米自体あるのかも怪しい」

「「................」」



ここで近藤と木村の2人は信介の食生活を知る。


信介はいつも昼休みに食べる昼食はコンビニで見る惣菜パンであり、日にち毎に違いはあるが殆ど同じ物しか食べていない。


信介の食に対する興味の無さを知った2人であった。


そして近藤はスマホを操作し出して何処かに電話をかけ始めた。



「あ〜もしもし夜飯なんだけど.....................うん........いや、この家材料がないんだよ.......それで悪いんだけど.......うん、頼まれてくんない?..........おお、分かった。気を付けて...」



そこで電話は終わった。



「誰に電話したの?」

「遥。丁度3人揃ってたから、今日の夜飯の材料買いに行ってもらうようお願いしたんだよ」

「それならコンビニでもいいじゃん」

「いや、流石に毎日コンビニ弁当は健康に悪い」



コンビニ弁当は確かに美味しいが毎日食べるにはあまりにも不健康だ。


それを考慮して近藤は彼女の宮野に今日の夜飯の材料を買って来て貰うように頼んだ。


頼んでから数十分後、教科書の問題をやりながら試験勉強をしながら過ごしていると玄関から「ただいま〜!」と中条の声が聞こえた。


特に出迎える事もないまま3人は泊まりの鞄とここまで来る時に寄ったスーパーで買った袋を持ってリビングに入って来た。



「適当に買って来たけど誰が作るの?」

「この中で誰が料理出来る?」

「俺無理」

「俺も。あと信もね」

「おい男子共!」



料理は男性陣が使い物にならない事が分かり、夜飯は女性陣が担当する事になった。


女性陣は買ってきた材料をキッチンの空いているスペースに置く。


キッチンには、普段料理を作らないが基本的な調理道具が揃っていた。



「俺、風呂洗ってくる」



信介は勉強を一時中止し、風呂を洗う為にリビングへ出て行く。


湯船を洗う為に洗剤を大量にかけ、風呂洗い専用のスポンジで洗っていく。


ドタドタドタドタ!!



「ん?」



すっかり磨き終わった湯船の中をシャワーで洗い流す。


その時、シャワーの音と一緒に誰かが大急ぎで階段を駆け上がる音が聞こえた。


それも足音は1つだけでなく複数聞こえた。


湯船を洗い終えた信介は手をハンドタオルで拭き浴室を出てリビングへと戻る。


戻ったリビングには誰一人居らずキッチンで料理をする宮野が1人作業してるだけだった。



「宮野、皆んなは?」

「皆んななら、祐樹くんの提案で槙本くんの部屋に行ったよ」

「あいつら、俺の部屋の場所知らないだろ」



信介はキッチンの見える机の椅子に座り、宮野が料理しているのを静かに見る。



「.........見られながらだと料理しづらいんだけど」



宮野は少し恥ずかしそうに信介に言う。



「いや、祐樹は良い彼女を持ったな〜って思って」

「槙本くんはいないの?そう言う気になってる異性とか.....」

「異性か..........」



信介は自分の身の回りにいる異性の存在を思い出す。


宮野との話からして友達としての好きではなく、恋人に対しての好きと感じる異性はいないのかと言う質問だと言うのは言わなくても話の流れからして分かる。


友達の彼女である宮野を除き、信介は身の回りの異性の存在を多く思い浮かべる。


新城に中条、そして女子のクラスメイトと案外少ない物だった。


しかし幾ら思い浮かべても宮野の質問に十分に答えられそうな相手は今の信介には存在していなかった。



「今の所いないかな」

「.......今って事は前はいたの?」

「う〜ん、どうだろ。俺、あんまり恋って言うのが自分で良く分かってないんだよね」

「恋が?」

「そう。中学の時も友達とかで付き合ってる人達がいて色々と聞いてたんだ。それで恋愛ってめんどくさいんだなって思っちゃって。話を聞いてるだけでも疲れて、もしこれが当事者だったらもっと疲れるんだなって。それなら別に付き合わなくても良いって感じたんだ。仲は良いけど友達より深い関係にはなりたくないんだ」

「.................」



料理の手を止めそうになるが宮野は手を止めずに話を聞く。


友人の為にも、少しでも多く信介の恋愛に対する姿勢を知っておかなければならないからだ。


しかしその肝心の信介が恋愛に対してあまり乗り気ではない事を聞くと新城の恋路はかなり難しいのではないかと思う。



「でも羨ましいとも思うよ」

「えっ.........?」



突如、先程までとは違った意見を出した信介の言葉に思わず宮野は疑問の声を出した。



「だってその中学の時の友達も、祐樹も楽しそうに話すんだよ。好きな人が出来るだけで人生が楽しそうに見えるって、自分の人生をつまらないって考えてる俺からしたら結構羨ましいんだよね。俺ももし彼女が出来たりしたらあんな風に楽しめるんじゃないかなって思うよ。だから別に俺は恋愛がしたくない訳じゃないよ」

「....................」

「誰か俺みたいな物好きを好きになってくれる人いないかな?」

「.....さあ?案外近くにいるかもよ?」

「そうだと良いけど..........」



信介は話終えてから柄にもなく語ってしまったと後悔する。


しかも話した相手は友達の彼女だ。


間違い無くこの話は宮野から彼氏である近藤へと伝わるだろう。


近藤の事だ。


どうせこの話で色々といじってくると想像出来る。


信介は未来の自分にごめんと謝る。


そこで信介の部屋に本人の許可無く無断で向かった4人がリビングに戻って来た。



「あ〜何にも無かった」

「何を期待してたんだよ」

「まあ、思春期男子なら持っているであろう本を予想して」

「じゃあ言っとくけど俺、そう言った本持ってないよ」

「もう、私1人に料理任せないでよ」

「ごめん遥、手伝うよ」

「ほら、千鶴も!」

「はいはい」







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