第十四話 試験対策
体育祭と言う学校行事が終わった後に待つのは、1学期中間試験だ。
どの学校もこの時期に試験があり、試験1週間前はどの学校も部活動は試験が終わる最終日の放課後まで休みとなる。
信介達の通う高校も体育祭が終わり、振替休日の月曜を休み次の日の火曜日に学校へ行くと試験週間に入っていた。
信介達からしたら2学年になって最初の試験であり、ここで躓くと1学期期末試験、2学期中間まで引き摺る可能性が高い。
信介・近藤・木村のいつもの3人は各々の顔を確認しながら試験までの日程を確認していた。
試験は来週の火曜日から金曜日の4時間目まである計4日間ある。
それまでに自分にあった勉強の仕方でどのように赤点を回避するか。
信介達の通う高校の赤点ラインは30点未満、つまり30点を取ればセーフ、それより下の点数ならば赤点だ。
「さて、どうする?」
いつもの明るさはどこへ行ったと突っ込みたくなるような顔をした近藤が2人に聞く。
「正直、現代国語はノートを見てれば何とかなるかな。出題される範囲の物語は大体わかってるから」
「残りのコミュニケーション英語と英語表現、古典、生物化学、あと数学は数Bが危ないです」
信介と木村は文系で、近藤は意外な事にも理系。
それにより文系と理系の間で少し授業の多さは変わってくる。
だが、今3人が危ないと感じている教科は文系理系関係ない教科ばかりである。
信介は「どうしたものか」と悩む。
信介は1年後半である3学期、学年末試験で1度に2つ赤点を取ったのだ。
3学期の試験は期間が短い事から授業の範囲は2学期の期末が終わってからやった授業の分も試験範囲に組み込まれるので3学期になるとやった筈の範囲に部分を忘れてしまう。
それにより信介は1年の学年末試験でコミュニケーション英語と古典の2つが30点未満で赤点だったのだ。
その2つは追試で何とか解消したが、あの地獄を知っている信介からしたら「もう2度と赤点は取りたくない」と思わせるには十分だった。
しかし意気込みだけで試験は乗り切れない。
学年が1つ上がり、どの教科も難易度が上がり、このままでは学年末試験の時と同じ展開になってしまうと信介はかなり焦っていた。
それに加え、試験教科の数も多くなり、どのように試験勉強していけば良いのかさっぱり分からない。
「流石にゲームをする時間はなくなったよな」
「え」
「今のところこれだけヤバい教科があるんだ。木村、少なくとも試験が終わるまではゲームは我慢した方が良いと思うぞ。やるとしてもデイリークエストぐらいでやめといた方がいいよ」
「うっ..........」
信介と近藤の言葉でゲーマーの木村は絶望の表情を表す。
木村が授業が終われば直ぐ様制服のポケットに入れてあるスマホでゲームをするのを隣の席である信介はずっと見て来た。
だが、試験まであと1週間しかない事を考えるとその時間を試験勉強に当てた方が良いと思っていた。
木村もそれが分かったのか最初はゲームが出来ないことに絶望していたが、結局赤点を取ってしまえばゲームをする時間は後々無くなってしまうことを考えて信介と近藤の忠告を素直に聞いた。
「それで俺考えたんだけど、遥達に勉強教えてもらおうと思う」
すると突然近藤は2人に向かってその様な提案を言う。
「........達って事は」
「遥から新城と中条の2人にも声を掛けて貰って教えてもらうよう頼んでみようと思うんだ。2人はどうする?」
「どうするって........」
信介からしたらこの近藤の提案は願ったり叶ったりだ。
正直自分だけの力ではどう考えても赤点無しで試験を乗り切れる未来が全然想像出来ない。
それに比べて多少なりとも勉学の出来る人達から教えを乞えばそれなりに点数は取れると思う。
「宮野達って勉強出来るの?」
木村がきく。
「遥頭良いぜ。それに新城は学年でもトップクラスで、スポーツ万能そうな中条もあれで俺達よりは頭良いし」
新城は言われなくてもあれだけの注目度なので結構頭が良いという情報は入って来ていた。
中条の場合も1年の時に同じクラスで仲が良かった事もあり、自分よりは頭が良いとも信介は分かっていた。
しかしその上で近藤の彼女である宮野もまで頭が良いとなると、あの3人と自分達馬鹿は一緒にいて良いのかと思ってしまう。
しかし、今は試験前の焦っている時期。
その様な考えは直ぐに放棄する。
「頼もう。俺も新城に言う」
「おっし!それなら今度の試験前の土日は誰かの家で勉強合宿だな!」
意気込む近藤が他所に信介はスマホを操作して新城宛てのメッセージで『皆んなと試験勉強をしませんか』と送っておく。
ピロン!
「ん?」
仲良く中条と宮野と女子トークを展開をしていた新城の元に一通のメッセージが送られた。
送り先は新城が想いを寄せる信介からで、新城は直ぐ様メッセージの内容を確認する。
急にスマホを取り出した新城に中条と宮野は疑問に思う。
「葵どうしたの?」
宮野がスマホを見る新城にきく。
「槙本くんから。皆んなで試験勉強しないかって」
「.........そこは皆んなでなんだ」
「どうせなら2人でって送れよ!って思うけど信の事だから特に考えなしに送ったんだろうな〜」
信介を1年の時から知っている中条からしたら、信介が別に新城に対して他の男子と違い特別扱いをしていない事は分かっているのだが、ここまで新城の事をただの女友達扱いしている信介に想い寄せる友人に対して少しだけ可哀想と思う。
それを感じているのは中条だけでなく、宮野もである。
2人の目から見て、新城が信介に対してベタ惚れなのは新城が信介と話している時や、信介とのメッセージのやり取りや電話での内容を嬉しそうに話す新城の顔を見ていて丸分かりだ。
だから2人は友人として新城の恋を全力で応援している。
「でも、これはチャンスだよ!」
「え.........チャンス?」
「そうだよ葵!これを機に信との仲を深めなさい!」
焦ったい新城の恋路を見て来た2人は多少食い気味で新城に詰め寄る。
「大丈夫!葵は普通に可愛いんだから何とかなるよ!」
「そうだよ!葵になびかない男なんて、この学校で信と木村の2人だけだよ!木村は女よりゲームだけど、信はまだチャンスがあるから!」
木村に物凄く失礼な事を言っていると感じた新城は友達として心の中で木村に謝罪する。
「私も祐樹くんと協力して2人の仲を近付けるから」
「...........ん?ちょっと待って遥。それってつまり......」
「あれ?気付いてなかったの?葵が信の事好きなの、いつものメンバーなら知ってるよ。木村も多分察してるけど.....」
「私は祐樹くんに直接言ったけど『あっ、やっぱり?』って知ってたみたいだよ」
「ええ!」
新城は自分が信介の事を好きなのが近藤と木村の2人に気付かれていた事に驚きの声を表す。
教室でだが、今は誰もが賑やかに話したりゲームをしたりと雑音になっている為新城の声に注目する生徒は誰一人居なかった。
「そ、そんなに私分かりやすかったかな!?」
「まあ、いつも槙本くんとの惚気話を聞かされてた身としては分かりやすかったかな」
「の、惚気てた?」
「うん。私幸せですって顔で」
新城は友人2人から今まで自分がかなり分かりやすい事をしていたと自覚し顔を赤くする。
新城も少し自覚していたのだが、信介への強い想いから自分1人で溜め込むことが出来ずその勢いのままに中条と宮野の2人に信介との話をしていた。
それがまさか信介との話をしていない近藤と木村の2人に気付かれていたなんて思ってはいなかったが。
まだ顔が熱いのを感じながら新城は2人と話を続ける。
「そ、それで勉強会でどうやって近づけるの?」
「う〜ん、私的にはどうせなら信と葵を2人っきりにしたいけど、今の葵だとハードル高そうだし」
「うっ....!」
「皆んなって来てるなら私達も参加だよね?それなら私が祐樹くん、千鶴が木村くん、葵が槙本くんを教えるって事にすれば?」
「それだ!」
新城の前でどんどん2人で作戦が出来上がっている。
新城は取り敢えず信介に『やりたい!千鶴と遥もオッケーだよ!』と返信した。




