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第十二話 帰り道


信介は翌朝いつも通り学校へ行った。


前日の放課後に新城を付け回す田中に「新城に相応しくない」など色々言われ流石の信介も腹が立ち、持ち前の口の悪さを持って田中を黙らした。


流石にその後は言い過ぎたかもと田中に悪いことをしたと感じていたのだが、時間が経つにつれてその意識はなくなっていた。


しかし田中に対して根付いた苦手という意識がなくなった訳ではなかった。



「......................」

「..................あっ」



そしてそんな中、2人は廊下で互いを認識すると自然と立ち止まり見つめ合う。


腐女子なる者がこの場を見れば間違い無く誤解を招きそうな場面ではあるが、2人の周りには2人以外の生徒はいない。


見つめ合うと言っても、信介はいつものやる気のない感じで田中を見て、田中は完璧な自分を完全に否定した存在であり気になっている新城葵(想い人)と仲の良い忌まわしき存在である信介に睨みを利かせている。


そもそもこの問題は新城と仲良くしている信介の事を勝手に邪魔者扱いしている田中が個人的に信介を敵対視している為、信介からしたらめんどくさくて仕方がない。


休憩時間にトイレを利用としている信介は何事も無かったように田中の横を通り過ぎようとする。


しかしそんな平然した態度で自分を通り過ぎる信介に対し、田中は信介の腕を掴んで動きを止めた。



「.........トイレ、行きたいんだけど」



信介はそう言って掴まれた方の腕を動かして振り解こうとする。


だが田中の掴む力が強く、中々振り解けない。



「いや、ホントマジで。休憩時間なくなるんだけど」

「昨日、あれだけ僕の事を侮辱しておいて良くそんな言葉が出てくるな」

「逆にあれだけ言われてもケロッとしてるあたり、昨日結構“ああ、言い過ぎたかもな〜”って思ってた時間を返して欲しい」



信介のその言葉に田中は鼻で笑う。


そして掛けている眼鏡をクイッと位置を正すのだが、本当に嫌いなのだろうか信介は田中の上から目線な行動一つ一つにイラっと来る。



「確かに昨日の君には言い返せなかったが、良くよく考えてみれば僕よりも劣っている君に僕自身の事を何と言われようと何ら痛くないんだよ!」

「あっ、そう」



そのまま信介は歩く。


そしてそれを止める田中。



「待て槙本!」

「ああもう!何なんだよ!!しつこい!」



廊下に信介の怒鳴り声が響くが、今は休憩時間中。


誰も廊下の声に気付かないほど教室内で騒いでいる。



「僕は君と新城さんの仲を認めてなどいないからな!!」

「別にお前に認められても嬉しくねえよ」



そのまま信介は田中から逃げるようにトイレへ駆け込んだ。





次の授業、信介達のクラスでは数学Bが行われていた。


しかし授業に使っている信介達のクラスの教室は所々席が空いている。


この高校は、生徒のレベルにあった授業を展開させるべく授業をする際に、出来る方と出来ない方とへ分けて授業をしている。


出来る方をα(アルファ)クラス、出来ない方をβ(ベータ)クラスとに分けており、2クラス同時で行われる授業に関してはβはそれぞれのクラス毎であるが、αクラスは2クラスのα合同で行われる。


新城や田中と言った優秀な成績をその授業の試験で出している生徒はαなのだが、信介や近藤などは勉学があまり得意ではなくβクラスだ。


この授業に於いても信介や近藤、木村のいつもの3人や他のクラスメイトもβクラスだ。


信介と木村は文系で、近藤は理系なのだが、それでも数学Bは苦手である。


(............終わったなこれ)

(ああ.....ゲームしたい)

(全然分かんねえ!)



実際、3人は数学B担当の先生が黒板に書いてくれている公式を使ったやり方を見てもちんぷんかんぷんだ。


それでも頑張って解きはするのだがそれでも正解に導く答えが出たのは問題が提示されてからかなり経った時間だった。


3人のノートは頑張って解こうとしたのか、何度もシャーペンで書いてそれを消しゴムで消した後が残っており、机には大量の消しカスがのっている。


ノート提出が無ければこんな事はしないが、成績を出す際に提出物の点数が試験と同レベルで高い事を知っている3人は例え赤点を取ったとしても提出点だけは確保しようと必死だった。


留年だけはしない。


それが3人の心の底から誓っている事だからだ。


授業の終わりのチャイムがなり、授業を受けていた生徒達は皆緊張感から解き放たれる。


信介は疲れから机に頭をのせた状態で隣の席にいる木村を見る。


木村も信介同様に数学Bの問題にやられたのかいつもなら真っ先にスマホを取り出してゲームをするのだが、今はそんな元気すら無いのだろう、白く燃え尽きていた。



「木村、生きてるか?」



信介は木村に呼び掛けると、木村は頭だけ動かして信介を見る。



「........死んでるかも。信は?」

「俺は瀕死の重体で何とか繋ぎ止められてるって感じ」

「物騒な会話をするな!」



信介と木村の話に介入して来たのは同じ授業を受けた近藤だった。



「祐樹は何でそんなに元気なの?」

「意味分かんない」

「飯食うぞ!」

「へーい」



そして昼食タイムが始まった。



「はあ、数Bはマジで赤点かも」



楽しい筈の昼食なのだが、木村は先程受けた数学Bの問題から立ち直れないようだ。



「赤点なんて取ったら追試がめんどくさい」

「何で数Bなんて選択したんだろ」

「「それな!」」



木村の言葉に信介と近藤の2人は共感を露わにする。


数学Bは2年生に進級する際に選択授業として選べる授業の1つだ。



「まあ、進学か就職かも決まってないなら一応やっとけって言われたからなんだけど」

「2年始まったばかりで将来が決まる方がおかしいと思う」

「絶対少ないぞ、今将来なりたい事が決まってる奴何て」



高校2年でなりたいものをハッキリとさせ、3年に進級してからはその将来に向けて道を進むために大学や専門学校、そして就職を目指して頑張る時期。


しかし信介達は現在なりたいものもなく、大学へ行くか就職するかどうかも決めていない。



「..............みんなと一緒なのも高校限りか」



信介はこの高校で出会った近藤や木村、仲の良いクラスメイトの事を思いながらそのように言う。


どれだけ拒んだとしてもこのメンバーで一緒にいられるのはこの高校生の期間だけだ。



「寂しいの?」

「いや、特には」



暗い雰囲気で言った為か木村は信介に聞くのだが、信介は全然そんな気配は無かった。



「まあまだあと1年以上はあるんだ。ゆっくり考えて行こうぜ」



笑顔で言う近藤を見習うように信介と木村の2人の表情も明るくなる。


今日はリレーの練習が無いらしく近藤は昼休みはずっと教室に居た。


流石に毎日の練習で身体を壊されても悪いと言う事で、時々練習が無いよう調整しているらしいが、誰が調整しているのかは分からない。


昼休み、3人で談笑をしていたのだが、そんな時信介はふと隣のクラスにいる新城達の事が気になった。



(......今日は大丈夫なのか)



昨日のこの時間は隣のクラスにいる新城と宮野が田中から逃げる為にこの教室に来たのだが、今日は来ないようだ。


近藤がいると言う事は同じリレーに出る中条もいつもの練習に出ておらず、教室内にいる事になるので中条のお陰でなんとかなっているのだろう。



そこから時間は経ち、午後の授業も終えて放課後となった。


全授業を終えて疲労感の溜まった身体をゆっくりと動かして信介は帰りの支度をする。


近藤は体育祭準備をクラスメイトに頼まれ絶賛労働中で、木村は帰ってゲームをする為に信介より一足早く帰って行った。



「よし、帰ろ」



特に校内に残っている理由もないので信介はリュックを背負って教室を出た。


体育祭の準備で頑張る生徒の声に毎度お馴染みの部活動の体操の声を聞きながら信介は下駄箱でシューズから学校指定の靴へ履き替えて校内を出る。


リュックの中は相変わらず筆記用具と財布にイヤホン、学生証とその他勉強道具は一切入っていないのでとても軽い。


信介は歩きながらリュックの中にあるイヤホンを取り出して制服のポケットに入っているスマホに接続する。


そしてスマホの中にある無料音楽アプリを開き、ダウンロードしている気に入った曲を適当にランダムで流す。


曲を選んでイヤホンから音が出ているのを確認しスマホを再度ポケットに入れイヤホンを耳につける。



「槙本くん!」

「ん?」



左の耳に付けて右耳に付けようとすると信介の後ろから信介の名前を呼ぶ声が聞こえて、信介は動きを止めて後ろを振り返る。


名前を呼んだ人物、新城は走って信介のもとまで来る。



「よかったら....一緒に帰らない?途中まで道同じだから」



新城は信介に言う。


校内のアイドル的存在である新城葵にそんなお願いをされたら校内にいる男子生徒の殆どが叫んで喜びそうだが、生憎信介はそこら辺が良く理解出来ていない。



「良いよ」



だが断る理由もなく信介は新城のお願いを受け入れた。


それに新城は嬉しそうな表情をするが、なぜ一緒に帰るだけでそんなに嬉しそうな顔をするのか信介には良く理解出来なかった。


2人は横に並んで歩き校門を出て同じ道を歩く。



「......................」

「......................」



しかし2人に会話はない。


新城は信介と一緒に帰れる事で満足していて今の状況を想定しておらずどう会話を始めればいいのか分からないでいて、信介は隣で歩く新城側のイヤホンを耳に掛けて反対側の装着済みのイヤホンで音楽を聴いている。


一応会話をするであろうと音も小さくして新城側のイヤホンを外したのだが、信介も信介で話す事が無ければ別に無言でも良いと思う人間なので自分から会話を始めようとする気が元々ない。



「(このままじゃあ何も無いまま終わっちゃう.......!)..........何聴いてるの?」



危機感を感じた新城はこの状況をどうにか突破しようと信介がイヤホンを付けている事に気づいてそのような質問をする。



「ん〜〜、これ何て曲名だっけ」

「え、覚えてないの?」



新城に言われて今聴いている曲名が出てこない信介はスマホを取り出して曲名を確認しようとする。



「適当にお勧めで出て来たやつをダウンロードしてるから一々曲名なんて覚えてないんだよね。この人達の歌だよ」



理由を話して信介はスマホに出ている現在聴いている曲の名前を新城に見えるように見せる。


信介が今聴いているのはロックバンドに近い男性グループの歌だ。


信介自身彼らの事は有名だと思ったのだが、新城は信介のスマホの画面を見てそのグループの名前を見てもピンと来ていなかった。



「知らない?」

「う〜ん、私は聞いた事ないかな」

「まだまだか」

「どんな歌なの?」

「.........ん」



信介は新城に片方のイヤホンを差し出す。


そしてそれを見て新城は「え?」と困惑する。



「口で言うのあれだから実際に聴いてみて」



新城はその申し出に少し顔を赤くしたが、結局は信介の持っているイヤホンを恐る恐る手にとって耳にはめる。


今2人は周りから仲良く片方ずつのイヤホンで音楽を聴く仲睦まじいカップルに見えていそうで、実際新城もそのように意識してしまっている。



(無意識なのかな!?槙本くん、普通そうだし)



音楽を聴きながら新城は、信介の行動にも危機感を覚える。


こんなに平然に女子といるのに一切緊張をしていない信介が、自分にだけでなく他の女子達にも同じ様な対応をしているとなるとその中の何人かは自分のライバルがいるのでないかと。


そして信介はと言うと.......



(.........新城って潔癖だったりしないよな?)



自分がイヤホンを差し出した時物凄く警戒して受け取るように信介は見えた。


実際には信介の身に付けていたものを渡されてどう反応すれば良いのか分からなくてなっただけなのだが、それが信介には“汚いから付けたくない”と思っている行動に見えた。



「...........どう?」

「え...........ああ、うん!良い歌だね」



急いで答えた新城だが、ほとんど音楽など聴いておらず頭の中は他にいるであろうライバル達の事を考えていた。



「............そう言えば、今日は実行委員の仕事とかないの?」

「うん。もう会議する様な話し合いは全部終わったの。あとは直前の準備の時と本番を残すだけだよ」

「お疲れ様」



信介は労いの気持ちで言葉を掛けておく。


そしてあっという間に分かれ道に来た。



「それじゃあまたな」

「うん、また明日!」

「明日って、どうせ夜になるとメッセ飛ばしてくるんだろ?」

「あはは.....かもね」

「あんまり夜更かししてると肌が荒れるぞ」

「そ、そこまで夜更かししてなんか居ないよ」

「じゃあな」



そこで信介と新城は別れた。











最後読んでいただきありがとうございます!

面白い、続きが気になると思いましたらブックマーク、感想・評価をお願いします!


感想で色々と言われていますが田中が予想以上に皆さんに嫌われていました笑


すいませんが、事情により次回の投稿はかなり間が空くと思われます。


すいません!


それでは皆さま、これからも宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 全然更新されへんやん
[一言] いいぞ田中、もっとやれ。
[一言] 続き楽しみに待ってます。 田中強く生きろよ。
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