第十話 呼び出し
田中に睨まれた翌日からも普通の学校で信介達はいつも通りの学校生活を楽しんでいた。
リレーに出る中条と近藤の2人は昼休みになると学校のグラウンドへ行き、それぞれのチーム毎に練習をしている。
問題の田中だが、信介が新城に助言した事により新城は中条と宮野の2人に相談したそうで、2人は極力新城が1人にならないように護衛を兼ねて一緒にいる事にしたそうだ。
それでも新城に関わろうとする田中は中条によって何とかかわせているのだが、中条がリレーの練習の為に昼食後直ぐに教室から出て行くの確認すると直ぐ様新城に近付いてくるようになった。
最初の方は近藤の彼女である宮野の3人で話をする事で何とかなっていたのだが、段々と田中が調子付くようになった。
内容は『自分がどれほど優れているか』とか『僕と一緒になった女性は幸せになれる』など自分の株を上げようとするものだった。
流石に宮野も田中の相手がうんざりしてしまい、ある日宮野は新城と共に中条が教室を出る一緒のタイミングで教室を出て信介と木村のいる隣のクラスにやって来た。
信介のクラスは突然の新城と宮野の訪問に驚き、信介と木村も驚きのあまり口に入れようとしたパンを空中で止める時間が出来た程だ。
2人は教室中からの視線を集めながら真っ直ぐ信介と木村の近くの椅子を持って来て2人の近くに座った。
「.........え?」
これには木村も動揺を隠しきれなかったのか、そのような戸惑いの声をもらす。
「祐樹なら中条と一緒にリレーの練習に行ってるぞ」
「こっちのクラスに来たのは近藤くんに用があるからじゃないの」
「......と言いますと?」
「田中くんが中々しつこくてね。遥も困ってるから2人でこっちのクラスに来ようって事になったの」
「逃げて来たんだ」
訳を話してくれた新城に木村はそのように言った。
「もう疲れたよ。連日昼休みになると葵目的で来られるんだから」
「どんまいだな宮野は」
宮野の疲れ様は見るからに察する事が出来た信介は労いの言葉を一応掛けておく。
「中条ならズバッと言ってくれそうだけど、生憎体育祭が終わるまでは昼休み居ないからね」
「そうそう。だから余計ね」
しかし宮野と新城が来た事によりクラスの視線が多少なりとも集まっている事に気付いているのは信介と木村の2人だけだった。
新城はいつもの様で、宮野はそんな新城といつも一緒にいる為、視線に対してある程度の耐性がついてしまったのだ。
そこから4人は談笑をしたりなどして昼休みの時間を潰して終わり、リレーの練習終わりの近藤と中条の2人が帰って来てから3人で教室へ戻って行った。
ーーー新城葵ーーー
私達3人は一緒に教室へ戻った。
「葵、前より全然マシになったね」
「え、何が?」
教室に入って早々自分のロッカーに体操服の入れ物を納めに行った千鶴を見ていると隣にいる遥が私にそのように言ってきた。
「槙本くんとの会話。前に比べてスムーズにいってる」
それを聞いて私は前までの自分の槙本くんに対しての反応はバレバレだったのだろうかと思う。
それと同時に.....
「ん〜そんなに前の私って酷かったかな?」
「まああれはあれで可愛かったけど、今はもう積極的な乙女って感じかな。槙本くんと話してる葵、本当に楽しそうだもん」
あのファストフード店で槙本くんとの関わり方も変わり、私は前までより積極的に行動に起こしている。
毎晩と言って良いほど夜は必ず槙本くんとメッセのやり取りや通話をしている。
学校のある平日はそんなに長くしないように約束してあるけど、その分休みに入るとその約束は無くなる為沢山話しているので私的には大満足だ。
今まで遠慮していた部分が全て弾けている気がする。
それだけ私は槙本くんに心を許していると言う事だろうか。
「ふふ、このまま順調にいけば良いね」
「うん、ありがとう」
私は良い友達を持ったと思う。
ここまで人の恋路を応援してくれる友達が出来て良かった。
私は遥と千鶴と別れて自分の席に着く。
「新城さん」
すると私の声を呼ぶ声が聞こえた。
その方を向くと同じ体育祭実行委員になってから何かと私の周りにいる田中くんがいた。
「田中くん、どうしたの?」
「さっきの昼休みどこ行ってたんだい?」
田中くんは私にそのような質問をして来た。
私は正直に理由を言うと田中くんが傷つくと思い、槙本くんと木村くんの名前は伏せて「隣のクラスの友達の所に行ってたんだ」と嘘ではない理由をつく。
「...........そうか。分かったよ」
「どうしてそんな事を聞いたの?」
理由を話すと田中くんの雰囲気が少しだけ重くなったと言うか、怖くなった感じがした。
「いや、ただ気になっただけだよ。それじゃあ」
「あ、うん」
田中くんはそう言い残して自分の席へ戻って行った。
田中くんは何やら私の行動を全て把握していたいような気がした。
何やら見られている、視線を感じると。
ーーーーーーー
ーーー槙本信介ーーー
午後の授業も全て終わり、俺は帰る準備をする。
そんな俺の横では隣の席の木村が項垂れる様に机に伏せていた。
「お〜い、どした?」
「..........ガチャ爆死した」
そう言って上げた顔を再度伏せる。
どうやらゲーム内にあるガチャで、木村のお目当てだったキャラもしくはアイテムが出なかったらしい。
所詮ガチャなど運でしかなく、確率が出ていたとしても結局当たらない事の方が多い。
「信、駿、2人は放課後どうすんだ?」
リュックを背負った祐樹が来て、俺と木村の2人に放課後の予定を聞いて来た。
「俺はいつもながら何の予定もないよ」
「俺も。帰ってゲームするぐらい」
「よし!だったらこれから遊びに行かねえか?」
祐樹のその提案に、俺と木村は2つ返事で承諾した。
帰っても特にやる事のない俺は断る理由もなく、木村はゲームをする為のネット環境さえ良い場所であればと言う条件付きだ。
木村の条件で祐樹は行き先をカラオケに決定し、俺達は近くのカラオケ店に行こうと教室を出る。
学校の校歌や国歌ぐらいしか歌わない聴く専門の俺からしたら歌はあまり自身が無いのだが、前を歩くノリノリな祐樹を見ていると今更断る事が出来ないと思った。
校内は部活の掛け声や先生の呼び出し放送が混ざり合い、色々な音が流れている。
俺達は階段を降りながらカラオケで何を歌うかを話していた。
祐樹から「せめて一曲は歌えよ」と逃げ道をなくされた俺だったのだが、階段の途中で「槙本」と俺の名前を呼ばれた。
俺と一緒に居た祐樹と木村も俺の名前を呼んだ方を振り返る。
そこに居たのは場所的に俺達3人を見下す形で階段上にいる田中だった。
田中の俺を見る目はあの時、新城と話し合えた時にすれ違った時と同じ様に睨むような俺を見ていた。
やはり勘違いなどではなかった。
「........えっと、何か用?」
「少し君と話したい事がある。ついてこい」
物凄い上から目線で命令された。
え、俺何かしたか?
今まで話した事もない奴に急に呼び出しとか怖いんだけど。
「悪いけど田中、今から信は俺達と遊びに行く予定なんだよ。悪いけど話は明日にしてくれ」
祐樹は若干声を低めて田中に言う。
いつも一緒にいる祐樹だが、俺はここまでテンションの下がった祐樹を見るのは初めてかもしれない。
そんなに祐樹は田中の事が嫌いなのか。
「近藤。今から僕達は真剣な話をするんだ。遊びたいなら君達こそ明日にしてくれ」
「は?何で俺達が予定を変えなくちゃいけねえんだよ。そもそも話ならここですれば良いだろ」
「僕は“真剣な話をする”と言ったんだ。部外者である君達は関係のない事なんだよ」
俺は田中と祐樹との間にバトル漫画やアニメでよくある火花がバチバチとしているのを連想させた。
「その話って今じゃないとダメなの?」
すると今まで黙って祐樹と田中の話を聞いていた木村が田中に問いかけた。
「ああ」
「それってそっちの都合だよね?」
「僕の予定を優先して何がいけないんだ?」
「別にダメとは言ってないよ。ただ、そういうのって前持って相手側に言っておくものでしょ。それを相手側の予定を無視して自分勝手にしてたら社会に出た時困るよ」
「僕の様な優秀な人材が社会に出て困る様な事は有り得ないね。逆に君達のように優秀な人材をダメにする人間の方がよっぽど社会で困ると思うのだが?」
凄い自信家のようだ。
木村の言葉で臆するところが全然怯むこともなく、さらっと自分は凄いですよアピールをしてくる。
初対面に近い田中だが俺は大分田中の事が嫌いになっていた。
別に自分に自信があることに文句は言わないのだが、それを鼻に掛けて相手を見下すのは俺は好きじゃない。
「こんな時でも僕の貴重な時間を君達は削っているんだ。槙本、さっさと来い」
「........つ!良い加減に.....っ!」
「はあ、分かったよ」
田中の全然変わらない考えた態度に本気で怒りそうな祐樹の言葉を遮って、俺は田中の申し出を受けた。
「おい信、あんな奴ほっとけよ」
そんな俺に祐樹と木村は心配そうな顔をして俺を見る。
「明日の放課後にやる方がめんどくさいよ。さっさと終わらせてくるから今日は悪いけどカラオケはなしね」
「.............はあ、分かったよ」
俺の目を見てくれて祐樹も納得して俺の意見を尊重してくれた。
木村も同様で、田中の後に続くように階段を上がる俺に「頑張って」と言ってくれた。
そして俺は前を歩く田中について行く。
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