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勇者パーティにはピエロはいらない  作者: トラタロウ
あらくれサーカス団
7/52

旅立ち

 王都の地下。

 暗い下水道の水に浸かりながら歩くあらくれサーカス団の皆は、鼻を強くつまんでいた。

 生ごみと糞尿が合わさった匂いがするこの場所は、軽く息をするだけでも吐き気がしてくるほどの激臭だったのだ。

 

 「ふっ、まぁ臭いと思うかもしれんが、少しの間だけだ。我慢できなくなったら、そうだな‥‥‥適当に吐いておけ」


 親父は鉄の棒と松明を持って、下水道を照らしながら、軽く笑った。


 「ふっほぉ、たまらんなこの匂い。臭くて堪らんわい」


 フレディの言葉に、なんとなくツッコミを入れたくなったが、精神的に疲れていたので、気にしないことにした。


 「待て、何かいる‥‥‥魔物だ」

 

 前の方から、何かグチョグチョと歩く音が聞こえてきて、それが松明の明かりの中に入ってきた。


 親父は、すぐ後ろにいる俺に松明を渡して、鉄の棒を強く握りしめた。

 ズルズルと音を立てながら現れたのは、泥をまとった人の形をしていた魔物だった。


 「デンネイだな。こりゃ、武器が鉄の棒だけだと心細いなぁ」

 「親父、どういった魔物なんだ?」

 「見ての通り、泥の魔物だ。外見は柔らかそうだが中はかなり硬い。ちゃんと急所を狙って攻撃しないと、鉄の棒がもたないぞ」


 そう言って、親父は鉄の棒を大きく振り回してデンネイの頭らしき場所にぶつけた。


 「フゴォォォ」


 するとデンネイの頭の頂点から赤い泥を噴き出した。


 「おっと、それに触るなよ。高熱の泥だ。火傷じゃすまねぇぞ!!」


 親父は噴き出した泥をうまく避けて、収まるのを待った。

 するとデンネイの体にまとった泥が少なくなり、胸元に赤い心臓のような物が見えてきた。


 「ふん!」


 すぐに親父は、胸元の赤い部分に勢いよく鉄の棒を突き入れた。

 すると、ジュワッと溶けるように魔物が崩れていった。


 戦いを終えた親父は、ふぅっと吐息を吐いて鉄の棒の先端を見た。


 「むぅ、少し溶けたか‥‥‥」


 鉄の棒の先端が部分が溶解したのか、ボロボロになっていた。


 「あと1回分といったところだな。もう出会わないことを祈るってもんだ」

 「‥‥‥なぁ、なんで王都の地下に魔物がいるんだ。上の奴らは知ってるのか?」

 「知ってるさ。だがこいつら自然発生していてな。倒しても倒しても湧いて出てくるんで、ある程度までは放置してんのさ」

 「そうなのか‥‥‥親父は良く知ってるな」


 親父が色々と物知りだった事が不思議だった。

 この地下の事や、貴族の事、魔物の倒し方だって知っていた。

 俺は親父の事が馬鹿だと思っていたから、なんだか目の前にいるのが親父じゃない気がしてきた。


 ‥‥‥もしかして異世界の誰かが乗り移ったんじゃないだろうな?


 親父は俺の視線に気づいて、親指をたててニヤっと笑った。


 「ふっ、我が息子よ。とうとう知る時がきたな。そう、俺は偉大なる賢人で最高のピエロ。マスターピエロよ」

 「はぁ?」


 なんだか親父はカッコつけているのだけど、そのマスターピエロってのがわからない。

 それと、質問の答えも言ってない。


 「おい、バレルク。あまり大きな声を出すな。魔物が寄ってくるぞい」


 フレディは汚水の中からプクプクと泡立っている場所を見つけて、親父に警告した。


 「む、いかん。そこから汚水のスライムが出てくるぞ。皆走るぞ、相手にしてられんからな」


 汚水がポコポコと盛り上がって、一つ、二つ、三つ、そして四つと次々にスライムが現れた。

 

 ‥‥‥たしかに、こんなの相手にしてられないな。


 皆はスライムから逃げるように走っていくと、奥の方に光が差しているのが見えた。


 「よーし、見えて来たな。あそこが出口だ」


 もう少しと聞いて、皆の足に力が入った。

 速くこの場所から抜けたくて仕方がなかったのだ。


 「待った!」


 親父は突然止まり、後ろを振り向いた。


 「‥‥‥バレルク、どうしたのですか?」


 トム座長は緊張した顔で親父に話しかけた。

 すると、親父は思案顔になり、それから頭振った。


 「いや、気のせいか‥‥‥」

 「まさか魔物がついて来てるのかい?」

 「いや、トム座長。誰かに見られてる気配がしたんだが‥‥‥どうも気のせいだったみたいです。さぁ行きましょう」

 

 親父は下水道を抜けるために走り出した。

 皆もまたそれを追った。


 そしてとうとう王都ナザレから外へと出ることが出来た。


 「はぁ、ようやく出れた」


 皆は王都の下水道からの匂いに開放されて、また王都ナザレから外へ出れたことの安心感から「はぁ」と息をついて座り込んだ。


 「まずは、王都脱出成功だな」

 「いやはや、さすがバレルクですね。冒険者組合で活躍しているだけのことはありますね」

 

 トム座長は白い髭をいじりながら親父を褒めた。


 「まっ、脱出で褒められるのもあれですがねー。はっはっは!」


 大きな声で親父は笑った。


 「あのさ、親父が冒険者組合に入ってるのって初耳なんだが‥‥‥」


 冒険者組合は魔物退治や未開拓地域の冒険や洞窟の探索、食材のお使いや猫ちゃん探しなど、幅広い分野の仕事を請け負う。簡単に言うと、何でも屋。

 親父はそんな冒険者組合に所属していたようだ。


 「なんだ知らなかったのか。あ、そういえば言ってなかったわなぁ。わっはっはっ」

 「‥‥‥はぁ」


 まぁ、いいんだけどさ‥‥‥。


 「さてさて、皆さん注目!!」


 トム座長は手を叩いて、皆の視線を集めさせた。


 「これからの方針について話し合いたいのですが。まずはここから離れましょう。ここは匂いがすしますからね」


 トム座長のその言葉に皆大いに頷いた。


 あらくれサーカス団の皆は、体の落ち着ける場所を探すために歩き出した。

 すると、すぐ近くに川を見つけたので、そこへと移動した。


 「うっし、ここで匂い落としていくか」


 親父が真っ先に川に飛び込み、ゴシゴシと体を洗い始めた。

 ティティ以外の皆も、同じように川に飛び込み、体にこびり付いた汚れを落としていった。

 それが終わると、川岸に上がって腰を落として、体をやすませた。


 「濡れたまんまだと寒いな。そういえば親父いつのまにか何処かへ行ったな‥‥‥あとティティさんいないな」

 

 びしょ濡れのままの俺は、横に座ってるアレクに聞いてみた。


 「ああ、ティティ姉はどこか隠れて体を洗ってるんだろうさ。あとバレルクさんは、焚き火ようの木の枝を集めに‥‥‥ほら、丁度帰ってきた」


 親父は細長い木の枝を沢山持ってきた。

 そして俺の前にドサッと置いた。


 「さて、あとは火だが‥‥‥ほれ」


 親父はそう言って、革袋を俺に投げて渡した。

 この革袋は、親父がいつも大事に持っている物だった。


 「おっと、なんだこれ?」


 受け取った革袋の中にはガラス玉が入っていた。

 座っていた皆も気になったのか、ガラス玉を見に来た。


 「おや、これは‥‥‥魔法の玉だね」


 トム座長は魔法の玉をじっくりと見ながら言った。


 「へぇへぇ、これが魔法の玉」

 「ほうおう、これが魔法使いが持つと言われる魔法の玉ねぇ」


 ベルニーニとバルタが魔法の玉に顔を近づけてじっくりと見て言った。


 魔法の玉。それは魔法使いが魔法を使うのに必要な道具だと言われている。

 大抵は杖の先に付いてたりするのだけど、ここには玉だけしかない。


 「親父がなぜこんな物を持ってるのか気になるけど、これをどうするんだ?」

 「さぁ、我が息子よ。これを使って火を起こすのだ。簡単だろ?」

 「はぁ?」


 魔法を使うには素質が必要だと聞いてる。

 そのため、魔法使いになれるのも1000人に1人ぐらいだと聞いている。


 「いや待て。俺、魔法使ったことないんだが。素質とかもあるとも思えないんだが‥‥‥」

 「ところがどっこい、そうでもない。お前は子供の頃ちゃんと使ってたぞ」

 「ま、まじか」


 魔法を使った記憶が全くない。

 そもそもだ、この魔法の玉すら初めて見た。


 「まぁ、子供というより赤ん坊の頃だから、覚えてないか。わはっはっ」


 思わず「おいっ!」とツッコミを入れて、それから手に持った魔法の玉を見た。


 「となると、俺はこれを使えるんだよな?」

 「ああ、そのはずだ‥‥‥多分な」

 「んで、どうやって使うんだ?」

 「知らん」


 俺は眉を顰めて親父の顔を見上げた。親父はふっと笑いながら両手を腰に当てた。


 「俺はピエロ。マスターなピエロであって、魔法の玉の使い方など知らん!!」

 「それなら俺もピエロであって、魔法使いじゃないから、使い方なんて分からないだが‥‥‥」


 困った顔をした親父は「むむっ」と唸った。


 「まぁいいから試してみろ。損をするわけじゃない」

 「と言ってもなぁ‥‥‥」


 どうしたものかと魔法の玉を撫でた。


 ‥‥‥そういえば昔、誰かが言っていたな。魔法は想像力で生み出せると。

 なら、ためしにやってみようか。

 

 俺は目を閉じて、頭の中で想像を膨らませる。

 想像するのは‥‥‥火。真っ赤な火。燃えるような熱い火。あらくれ劇場を燃やした真っ赤な炎だ。

 

 俺は目を開ける。

 そして口を開いた。


 「ファイアーボール」


 不思議と言葉が出た。

 魔法の玉が赤く燃えだし、燃えた炎が木の枝に向かって飛んで行った。

 そして木の枝は一瞬で消し炭になった。


 「おおぉー!!」


 それを見ていた皆は感嘆の声をあげた。


 「なんだロジック。お前魔法使いだったのかよ」


 アレクが俺の背中をバシバシと叩いた。


 「ほう。これは驚きましたね」

 「おうおう、おどろいたわいのぉ」

 「やるじゃんかよロジック!」

 「やるじゃねぇかよっよロジック!」


 トム座長達も俺の背中を叩き、見直したぞと言わんばかりに褒めた。

 だがそんな中、親父は両腕を組んで怒ったていた。


 「おい! 消し炭になってるじゃねぇか。手加減しろ、このバカ息子が」

 「いや、初めてなんで加減なんて出来んよ?」

 「ふうっ、まったく。また枝を探しに行かなければならないじゃないか」


 そう言って親父はまたどこかへ行った。


 「あれ、どうしたの? さっきすごい音が聞こえたけど」


 親父がいなくなると、入れ替わるようにティティさんが水浴びから帰ってきた。


 「ティティ姉聞いてくれよ、ロジックがさぁ‥‥‥」


 アレクは先ほどの出来事を話して、ティティを驚かした。


 「それじゃ次は、消し炭にしないようにしないとね」

 「お、おう」


 ティティや他の皆も「あー寒いな」「風邪ひいちゃうわい」と言い出して、俺に強いプレッシャーを与えてくるようになった。


 失敗したら。皆絶対見下してくるだろうな‥‥‥。


 最初は褒めて持ち上げて、失敗したら見下して落とす。

 これがあらくれサーカス団の団員達だ。

 とっても恐ろしい仲間だから失敗出来ないぞ。


 「おーい、集めて来たぞ。次は失敗するなよ我が息子よ。絶対失敗するなよ」


 行って早々に木の枝を集めてきた親父は、俺の前にバサッと置いた。


 「ふぅ‥‥‥」


 俺は息を吐いて、両手で魔法の玉を包んだ。


 さぁ、想像しよう。次は小さな火。そう、マッチの火。マリーちゃんがくれたマッチ一本の小さな火。


 「ファイアー」


 魔法の玉から最初の時より威力が弱い火が飛び出した。

 木の枝に落ちて、パチパチッと燃えだした。


 「よし、成功だっ」


 俺は安堵の吐息を吐いた。 

 

 「さすがは我が息子。よくやった」

 「うむうむ。さすがはバレルクの子だね。さぁ、皆温まりましよう」

 「ふぅ、これで少し落ち着くわい」

 「ホントねぇ、暖かいわ」

 「あ、ティティ姉。俺の場所取らんといてや」

 「ほっくほくだぜぃ」

 「ほっかほかだぜぃぜぃ」


 こうして焚き火の近く集まった皆は、濡れた体を乾かした。


    

 


 パチパチッと火花を出しながら燃えている焚き火。

 俺はその焚き火の周りで、横になっていた。


 「さてと、これからの方針ですが‥‥‥」


 胡坐をかいて座っていたトム座長は今後の方針について話し始めた。


 「まずは馬車を手に入れましょう。さすがに、このまま歩いて行くのも大変ですしね」

 「たしかに」 


 皆はそれに賛成した。

 ただ、問題はどこで馬車を手に入れるかだ。


 「馬車に関しては大丈夫ですよ。ちゃんと手に入れる方法がありますから」

 「さすがは、トム座長ですぜ。頼りになります」

 「さすがだわい。我らのボスですわい」

 

 団員達はトム座長を褒め称える。

 すると、トム座長も嬉しくなってお鬚を何度も触った。


 「んふふ。まぁ、これでも座長ですからね。任せてくださいよ。‥‥‥さて、ここからが皆と相談したいことなのですが。馬車を手に入れた後は何処へ向かうかです」

 「‥‥‥」


 団員達は考え込んだ。

 何処へ行くか。何処を目的地とするか。旅をするにおいて重要な決め事なので、誰もすぐには思いつかなかった。


 もちろん俺自身も考えてる。

 どの町へ‥‥‥いや国へ行けば、俺達あらくれサーカス団は食べていけるか‥‥‥。又、サーカス団として一躍有名になれるかだ。


 そういえば、親友は今隣の国にいるんだったよな。たしか国の名前は‥‥‥。


 「アレンシア王国かぁ」

 「ん? おや、アレンシアですか?」


 俺が呟いた言葉にトム座長が反応した。


 「ほう、いいと思いますよ。たしかアレンシア王国には勇者が滞在していることで、各々の村や町が賑わっていると聞きました。これはあらくれサーカス団である私達の出番があるかもしれません」

 「アレンシア王国は女は美人、男はイケメン、食い物は旨くて宿屋も最高。たしかに言う事なしですわな」


 トム座長と親父は、アレンシア王国を目的地として最良と捉えたようだ。


 「さて、どうですかな皆さん。これから向かう先はアレンシア王国という事で」


 トム座長の言葉に団員達は「いいぜ!」「おっけー!」と返事をした。


 「ふむ、これで目的地が決まりました。では明日、馬車を手に入れたらアレンシア王国へと向かうといたしましょう」


 「それでは明日も早いので寝ましょう、おやすみなさい」そう言ってトム座長は早々に目を瞑って眠ってしまった。

 団員達も「さてと、眠るか」「おやすみー」と言って横になって眠り始めた。


 「あいかわらず、皆は眠るのが早いな」


 皆があっさりと眠る中で、俺は眠れる気がしなかった。

 すごく疲れているはずなのに目がさえていた。‥‥‥なんでだろうな。


 「おい、横になって目を瞑っておけ。そうしておけば、気づかない眠れる」

 「親父、眠っていたんじゃなかったのか?」

 「俺は横になってるだけさ。一応魔物が出てくるかもしれんしな」


 たしかに、魔物や獣のことを考えると、誰かが起き見張ってないと危なかった。


 「なら、俺が‥‥‥」

 「いいから眠っておけ」


 親父に頭をぐっと押さえつけられて横に倒された。

 

 「わかったよっ」


 そのまま横になりながら目を瞑った。

 そして静かに、自然の音を聞きながら、何も考えないでいた。

 気がつけば、俺はぐっすりと眠っていた。





 次の日の朝。

 早々に目を覚ましたあらくれサーカス団の皆は、馬車を手に入れるため、ある場所へ向かっていた。

 その場所は、トム座長の古い友人の家だった。


 「以前、私達が使っていた馬車を古い友人に預けていたのだよ」


 あらくれサーカス団が、王都ナザレで拠点を構える前は、馬車に乗って各地へ放浪しながら旅をしていた。

 その時使っていた馬車が、これから向かうトム座長の古い友人の家にあるそうだ。


 「おや、見えてきましたよ」


 トム座長が指さした方向に、ぽつんと1軒家を発見した。

 どうやらここが目的の家だそうだ。


 そんな古い友人の家の前に着くと、丁度家から1人の男性が出てきた。

 その男性は、ニコリと微笑んで軽く手をあげた。

 そう、この人がトム座長の古い友人だ。

 

 どんな人なのだろうと、よーく顔を見てみると、あら不思議‥‥‥トム座長とそっくりな顔つきをしていた。


 「あれトム座長って双子だったの?」


 俺はつい気になって声に出していた。


 「おやおや、違うますよ。彼は古い友人のジムと言います。ちなみに、私とは全然似ていませんよ」

 「うむうむ。私とトムとは全く似ていないとも。それと双子でも兄弟でもないよ」


 トム座長とジムは顔どころか声も似ていた。

 だが、そんな2人は双子でも兄弟でもないという。

 

 「うーむ、気にはなるが‥‥‥。なに、人には色々と事情というのがあるんだ。詮索はしないほうがいいだろう」


 親父も両手を組んで唸った。

 他の皆も興味深そうにトム座長とジムを握手する様を見ていた。


 「それで、久しぶりだなトム。元気だったか?」

 「まぁ、元気‥‥‥と言っておきましょうか。ジムはどうでしたか?」

 「まぁ、いつもどおり元気だな。それでだ、今日はどうした?」

 「実は預けていた馬車を返してもらおうと思ってね」

 「ああ、それなら裏にあるよ。‥‥‥しかしなんだ、また旅を始めるのかい? せっかく王都ナザレで落ち着いたというのに」

 「夢は燃えてしまったのですよ、ジム。ならば、新しい夢を探そうと思いましてね」

 「ふむ。よくわからんが、まぁそれもいいだろう。ついてきなさい」


 ジムの後をついていくと、家の裏に厩舎があった。

 そこに4頭の馬と、厩舎から少し離れた場所に2台の馬車が置いてあった。


 「あれ、馬車が2つもある」

 「あぁ、手前のがトムの馬車で、奥の方にあるのが私の馬車だよ。いやぁー私も昔はお前さん達のように、サーカス団を率いて各地へと旅をしていたことがあったんだよ。それでね‥‥‥こういうことがあったんだ、是非とも聞いてくれ」

 「うおっ」 


 いきなり、がしっと肩を掴まれた。そしてジムは話し続けた。

 昔はこんな場所で、あんな事をして、稼いで笑って楽しかったといった事を。

 そんなジムの昔話を、肩を掴まれたまま聞かされた。


 そんな俺がジムの話しを聞かされている裏で、団員達はトム座長の指示のもと出発の準備を始めていた。


 「よし、問題なさそうだ」

 「車輪も問題ないですぜい。トム座長」

 「こっちも大丈夫ですわい」


 こうして、ジムの昔話が終わる頃には、出発の準備は終わっていた。


 「おやおや、もう行くのかい。さっき来たばかりじゃないかい。どうだろう、少し休んでからにしないかい?」


 ジムはトム座長がすでに馬車の前部に座り、出発しようとしている姿を見て驚いた。


 「ジム、そうしたいのですけど、そうも言ってらません。私達あらくれサーカス団はすぐアレンシア王国に行かなければならない」

 「おやおや、そんなに急ぐ旅なのかい?」

 「あいや、そうでもないのですが‥‥‥。善は急げと言います。燃えてしまった物を取り戻すためにアレンシア王国に行きたいのですよ」

 「ほうほう。なるほど、よくわからんが‥‥‥分かった」

 「それではなジム兄さん。また手紙を書きます」

 「そうか。弟トムよ楽しみにしておるよ」


 俺は2人の会話を聞きながら馬車の後ろへと乗った。

 そして先に乗ってた親父と話した。


 「兄さんとか弟とか言ってるけど‥‥‥」

 「んーまー、我が息子よあまり気にするでない。ほら後ろのティティとアレクが乗るのを手伝ってやれ」

 「おう。アレクさん、ティティさん俺の手を使ってくれ」


 俺はティティとアレクに馬車に乗りやすいように手を出した。


 「おう、サンキュー」

 「あら、ありがとう」


 それからフレディとベルニーニ、そしてバルタと順番に乗っていき、あらくれサーカス団の全員が馬車へ乗った。


 「よし、出発ですね! 皆さん行きますよ!!」

 「おうよ!」


 トム座長は手に持った手綱を振ると、馬が動き出した。

 ガラガラと音が鳴り、車輪が回ると馬車は進みだした。


 「まったく、相変わらずトムはせわしない奴だ。1度休んでから行けばいいものを。あ、ほれほれ」


 ジムは遠くへ行った馬車の後ろ姿を見ながら、鶏達に餌をあげながら見ていた。

 すると、突然近くの茂みからフードの被った少女が現れた。


 「おや?」

 「‥‥‥」


 その少女はジムを見てペコリと頭を下げて、それからあらくれサーカス団の皆が乗る馬車を追って走っていった。


 「なんだ、あの子は?」


 ジムは、いきなり現れて去って行った少女を不思議そうに眺めていた。 

 




   

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