9.決着
『其は全なる一
其は一にして全
天も地も 宇宙すらも
全ては 神より始まった
代償は我が魂
今ここに神名契約を結ばん』
口上が終わり契約が完了する。
それと同時に黒石は俺の心臓の位置へと消えるように吸い込まれていった。
ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ…
心臓が脈打つごとに身体が熱を帯びる。
「あ、熱い。」
そして次に来るのは激痛。
まるで骨を砕かれたかのような痛みが全身にはしる。
痛みが引くと、傷はきれいになくなっていた。
完全な契約を果たしたことで現在の状況を完全に理解する。
力に耐えるための器である身体の再構築
力を得る代償となる魂とは魔物討伐時の経験値のこと
契約した神の名前は『アーレ』
その他にも現在の解禁されている能力や使用方法なども把握した。
さぁ、目の前の敵を滅しよう。
『選刃・嵐』
『選鎧・嵐』
嵐を連想させる鈍色の刀が右手に握られる。そして右腕の肩口までを、嵐の力強さを表現するような刀と同じ鈍色の荒々しい鎧が覆う。
『神装・双嵐薙払』
強い風が吹く。
今のレベルで扱えるのは、極限まで力を抑えられた刀と右腕を覆う鎧のみ。たったそれだけの力の発現なのに、目の前の魔物は怯えをみせた。
ズキッズキッ
極限まで抑えられた状態でもレベルの低い現状では自分の体に反動がくる。一刻も早く終わらせるべく刀を正眼に構える。
2体をしっかりと視界にいれ、正眼に構えていた刀を上段にもっていき振り下ろす。
グシャッ
大質量の何かに上からおされたように魔物の体が潰れた。
もちろん奴等の体にあった魔石ごと押し潰した。
『嵐の型・壱 嵐墜』
そういう技名だと脳裏にうかんだ。
魔石を壊したことによる経験値の流入が行われる。
約9割が神魂に持っていかれる。
正直多すぎやしないかと思うが、どうやら力を借りた状態での戦闘で得た経験値のみこの割合らしい。
まぁ、使わなくても5割持っていかれるのだが。
その代わりに、レベル上昇によるステータスの増強は大きくなるらしい。
「終わったか。さんざんな目に遭った。」
ドロップ品を回収して、逃げてきた道を辿りながら帰路につく。
ぐちゃぐちゃになった道を歩いて暫くすると、最初に狩り場にしていた所へたどり着いた。
「もっと遠くに逃げていたつもりだったけどそんなに遠くなかったな。」
そう言いながら周囲を警戒しつつ休息をとる。
水で喉を潤しながら、携帯食料を齧る。
そういえばステータスを確認していないと思い確認を行う。
「簡易ステータスオープン」
《職業》契約師・代行者
《階位》1
《職業階位》1
《技能》選刃 選鎧
《契約》アーレ
《平均能力値》C+
本来ならば、職業レベルが3を越えてからでないと発現しないはずの二つ目の職業が増えている。
そして平均能力値のC+というのはもはや笑える上昇幅だ。
ダンジョンアタック前の平均能力値はEだったことを考えると、実に7段階の上げ幅である。経験値の流入による能力値の上昇は平均で1~2、最大で4が限界だと言われている。
「本当に肉体の改変が行われたんだな……。」
しみじみとそう思いながら帰宅するための準備を行う。
周辺を警戒しながら最短距離で帰る。
暫くすると、明かりが見えてきた。
常駐している係員や今から潜ろうとする人々も確認できた。
周囲を見渡してモンスタートレインをしてきた集団がいないか確認してから、受付に向かう。ダンジョン内部での犯罪行為に分類されるモンスタートレインの届け出を行い、それぞれの人相や装備品などを伝えていく。これである程度の社会的制裁が与えられるだろう。
ドロップ品の買取を済ませて自宅へ帰ろうと思う。