2.殺すということ
生き物を殺す。
ダンジョンに潜り、探索者として生きるということはそういうことだ。
足元に横たわるホーンラビットと呼ばれる角の生えた兎の首筋からは、血がドクドクと溢れている。
探索者の資格を取った翌日、俺は初心者用のダンジョンに潜り初めての戦闘と殺生を行った。
少し刃の長いナイフを伝って落ちる血、服に付着した血、顔にかかった血。それらが目の前の生き物を殺したことを強く印象付ける。
初めて見る大量の血液と初めての殺生に吐き気を覚えながらも、魔石を取り出していく。取り出して砕き少したつとその欠片と死体が少しの血の染みと毛皮を残し消えた。
気持ちを落ち着け整理するために安全地帯と呼ばれる場所に向かい、少しの間休んだ。
気持ちを整理して、少しずつ慣らすようにして階層を進めていく。サイズや色、角の形状などが違う兎と戦闘を繰り返していく。
なんとか慣れてきた頃にようやく中程まで到達した。
中ボスと呼ばれる、ビッグツインホーンラビットとの戦闘を終え、さらに下へ下へと降りて行く。
そして最終階層である8階のボス部屋前まで来た。
息を整え扉を開け入る。
「これ、やっぱり兎じゃないよね?」
動画や資料で確認していたが、実物のボスを見てそうこぼしてしまう。
長く延びた爪に血走った目、太く発達した足に二本の太く鋭い牙、そして黄金に輝く角。どう見ても兎ではないが名称はキングホーンラビット。
グルルルゥ
少しの睨み合いの後に戦闘が始まる。
切って避けるの一撃離脱を繰り返すこと二十数回。
ようやく敵の動きが鈍くなってきた。隙を狙って目を潰し、脳天にナイフを突き立て強引に捻って止めをさした。
同様に魔石を取り出し普通のより大きめのそれを砕くと、死体は消え、宝箱が現れた。
中身は収納袋と真っ黒な手甲と真っ黒な小刀。
荷物を全て収納袋に入れてポータルと呼ばれる脱出装置に乗り地上へと帰還する。
装備品の性能や収納袋、その他のアイテムを換金するかしないか、鑑定に出すかどうかを決めその他もろもろの手続きを済ませ帰宅する。
一人暮らしの暗い部屋に戻り、ご飯を食べる気も起こらず風呂に入りベッドに寝転がるとそのまま寝てしまった。
初めてダンジョンに潜ったその日の夢は、血にまみれた悪夢で酷くうなされた。
初心者用ダンジョン
名称:角兎の迷宮 全8階層
角兎とその上位種が出現する小規模のダンジョンで、ボス部屋のクリア報酬が収納袋と武器であること、比較的安全に倒せる事から初心者用のダンジョンとして協会が管理しているダンジョン。それぞれの階層に協会直属の探索者が常駐しており、安全度は高い。