流星のように、強く鋭く
ある日の事。オレと里桜は、普段は訪れない高危険度の草原区域に来ていた。目的は、勿論一攫千金――素材価値の高い研究生物の討伐だ。
「……居ました! あのずんぐりむっくりな人型の生き物が『トロール』……!」
「うわー、デカいなあ……あんなの、人間が生身で相手する奴じゃないだろう」
「大丈夫ですよ! 先日も一〇メートル以上ある龍の討伐に行って、無事に帰って来たじゃありませんか!」
「うん、確かに行ったよ? でもさあ、二人して『細胞電子』を使い切ったのに、見向きもされなかったよね?」
「まあ、そうとも言いますが。でも、いずれ勝てば良いのです! そうすれば、あの涙ぐんだ敗走も戦略的撤退になりますからね!」
「……そうだね。なら、オレたちはもっと強くならないとだね」
「もちろんそのつもりですともっ!!」
底抜けに明るく、前向きで、諦めない心を持つ少女、剣花里桜。
自分一人の力では大した事も出来ないオレは、運命的な出会いをしたその存在と肩を並べて目標を見据えた。
「それじゃあ、その足掛かりにあいつを倒すとしようか!」
「よぅし! アタシに合わせて下さい、ハルカさん!!」
「分かった、でもあんまり無茶しないでよ!! 今月はもう君の医療費に割ける金が無い……これ以上、癒羽先輩へのツケを増やす訳にもいかないんだ!」
「承諾しかねます! アタシたちには、無茶をしてでも掴みたい未来がありますから!!」
「――ああ、そうだね、そうだった!! オレたちは、そう言う奴だった!!」
強く頷く。それに応えるように、里桜は満面の笑みを浮かべた。
「よし。いつも通り、攻撃はお願いね!!」
「がってんしょうち!」
オレはようやく完治した右腕で、背から最安値の片手剣を引き抜き、少女に手渡した。
「――はぁっ!!」
細腕が振り回すには重過ぎる剣を両手で握って、蒼白の輝きを迸らせた脚が跳躍する。
「『双製四散』ッ!!」
高く跳んだ少女が両手に電力を集め、一振りの片手剣を二分する。
最も秀でている性能などを劣化して、ようやく理想の動きを可能に出来る――決して優れてはいない少女に向かって、トロールの拳が振り抜かれた。
「『天星哀歌』……『星海の大盾』!!」
オレは虚ろな星乙女を呼び出し、星を散りばめた宇宙を映し出す。その美麗な星空が拳を受け止め、相棒の身を守った。
「ナイスタイミングですっ!! このままっ、うぉらあああああッ!!」
里桜は金髪を靡かせて、腕の上に着地。その肌を剣で攻撃しながら伝い、駆け上る。
「せぃ、やあああっ!!」
刃が頭部に斬撃を放つ。刃先の軌跡が快音を立て、トロールの目元に薄い痣を作った。
大口を開けて雄叫びを上げたトロールが激昂する。その肌は岩のように硬く、里桜の持つなまくらでは傷付ける事すら出来ない。状況は最悪と言って良いだろう。
「うわっ、かったぁっ!! アタシの腕、前より筋肉付いてるハズなんですけどぉっ!!」
「やっぱり腕立て五回じゃ、誤差の範囲か……まあ、こればっかりは仕方ない」
里桜が空中で回転しながらオレのもとに帰還する。近くに見えた、翡翠のような目に灯る闘志の熱を感じ取れた。
「……里桜。オレの『細胞電子』を受け取って!」
「待ってましたっ!! ハルカさんの熱いモノ、いっぱい注いでください!」
「……その言い回しのせいで、色々と台無しだよ……まったく……」
星乙女を引っ込めながら身体を変成する――天ノ川はるかを思わせる白髪が風に靡いた。
同じ標的を見据えたオレたちの間に、電流が迸る。蒼白の稲光は衝突して音を爆ぜさせ、里桜の持つ光と合体して束ねられていく。
『最たる才能』を失った原因でもある、『劣化因子』によって生み出された『細胞電子』。
失ってしまったものは大きく、取り返しだってつかない。
「剣を持ったアタシなら想像出来る――アタシたちが、あなたに勝利する光景をッ!!」
――それでも、『劣等種』たちは非日常の檻の中で、蒼白に輝き続ける。
「全力で行きますッ!!」
閃光と化した一筋の光が、地表を一直線に駆け抜ける。
「ふっ……はぁッ!!」
トロールの拳の射程に入る直前で、雷光の弾丸が垂直に跳ね上がった。
「『天星哀歌』……『星海の大盾』!」
再び黒髪に戻り、身体を分かつように星乙女を召喚――ここからでは見えない星空を切り取った、不可侵の盾を再び展開する。
今度は攻撃を防ぐ為ではなく、跳ね上がった里桜の足場を用意する為に。
「ぉおおっ……りゃあああああああああッ!!!!」
現象として存在出来るだけの電気が連なり、眩い光を放っていた少女が星空を蹴り飛ばす――雷光を宿す二振りの剣を構え、標的に向かって空を斬る。
それはまるで、宙から零れ落ちた流星のようにも見えて――。
『――アナタはきっと、輝ける』
――かつて語られた、輝く未来。その、確かな兆しのようだった。
インフェリア・スターズ! 終




