表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
インフェリア・スターズ!  作者: 成希奎寧
地に堕ちた、星の輝き
41/50

地に堕ちた、星の輝き⑨

「なんだ、あの炎は!? 『発火能力』を持つ『優秀種』なんて、聞いた事ないぞ!!」


「……あれは、あなたが『劣等種』と呼ぶ人の生んだ、情熱の炎です。『優秀種』のあなたが知らなくて、当然なんですよ!」


「ッ!? お前、いつの間にっ!?」


 落下する破片の雨を抜け、誰もが使えるようになる技術だけでビルを駆け上った剣士が、未済に飛び掛かった。


「うぉりゃあああッ!!」


「チイッ……!!」


 二本の剣による斬撃は、『最たる才能』である切断性能を四分の一にまで劣化させている。そんななまくらでは、不完全な『乱気流の鎧』ですらも斬り裂けない。


 ――風と剣が衝突する。軽快な音を立てながら、少女はその剣で『殴打』する。地表から飛来し続ける、『細胞電子』による強化を乗せて。


「ふんっ、せいっ、はぁあっっ!!」


「……くっ!!」


 里桜は攻撃が届いていないと分かっていても、続けざまに斬撃を繰り出す。身体を捻り、回転しながら、剣で自分の身体を上に弾き飛ばして――重力に逆らい続けていた。


「こ、のっ……!!」


 未済は、鬱陶しく眼前を飛び回るハエを払うように腕を振る。


 しかし、碧玉のような瞳に『細胞電子』が煌めき、その動きを剣で抑える。蹴り上げようとした脚を窘めるように蒼刃が叩き、逃がそうとした首筋までをも追随した。


(なんて、奴だ……!! ただの『細胞電子』の制御で……ここまでの動きを……!!)


 その反応速度は、『優秀種』ですらも達する事が難しい領域に至っている。一撃は軽くとも、絶え間無く繰り出される斬撃の数々は、美しさを感じさせる程に研ぎ澄まされていた。

 さらに、地上で支援に徹する少年からの供給が絶妙だった。『優秀種』に喰らい付く為に、最も勝算を高める――里桜に、自身の全てを託して役割を果たしている。


(再現するんです……!! 頭の中の自分を……剣を振り続け、彼の喉元に喰らい付き続ける…………泥臭くて、『カッコ良い』戦いをする自分を……ハルカさんと一緒に!!)


 届く想いを無駄にしない為に、里桜は剣を振るう。ハルカの武器として、相棒として――二人の力を合わせ続けた。


 空中に居る限り、脚の敏捷性に電力を割くのは最低限で良い。効率は非常に悪いが、腕の筋力に重きを置いた『細胞電子』の操作で、互角の空中戦を繰り広げていた。


「こ、のっ……!!」


「――遅いですよッ!! やぁああああっ!!」


 未済が振りかぶった腕を唐竹割りで叩き――自分の身体を上部に弾き飛ばす。


 里桜は初めて、未済を上から見下ろした。剣を高く振りかぶって、その頭頂を目掛けて刃を空に滑らせる。


「お前ッ……選ばれた存在である僕を見下すな、『劣等種』!!」


「……っ!?」


「大技ばかりしか撃てないと思ったか――『疾風ゲイル』ッ!!」


 未済は素早く腕を振り抜き、巨大とは言えない大きさの風の刃を生んだ。振りが小さく、発生までのラグが小さ過ぎた為に、里桜の反応が遅れてしまった。


「くっ、あああああああッ!!」 


 身体を支える事が出来ない、空中に居た里桜が吹き飛ばされる。その直前に、ハルカから飛ばされた『細胞電子』が少女の放つ光を強めた。


『――――ッ!!』


 高層ビルの壁へと飛ばされた里桜の身体が、少年に襲い掛かろうとする魔竜と接触する。


「……ぐっ、ぬぅううううぅっ!!!!」


 里桜は身体から電流を放出し、鋭い音を立てて周囲に迸らせる。ハルカのものと合わせて増強した『細胞電子』の防御壁が魔竜の外殻から彼女を守り、光と音を弾けさせた。


 風に靡く金髪が強く輝き、エメラルドの眼光が、脳裏に浮かぶ未来の自分を見据える。


「これしかないっ…………竜子さん、ごめんなさいっ!!」


 魔竜の背中を蹴るように電気を爆ぜさせ、ビルまで跳躍。空中で剣を振りながら体勢を整えて、壁に足裏を張り付けた。

 そして――一呼吸も置かずに、再び未済に向かって疾駆した。


「しつこいなっ!! あんたも、お前もっ……!! 何故、『優秀種』に楯突くんだ!!」


『――――――ッ!!!!』


「くっ……!! 話すら通じないクセにっ……!!」


 未済は魔竜の尻尾による一閃を、仰け反りながら避ける。空中で高度を変えない器用な宙返りを決め、『優秀種』は自らの『異彩』の万能さをひけらかした。


 それでも、理性を持たない魔竜は止まらない。剣を握る少女の戦意すらも奪えない。


「……どうして、『劣等種』として、潔く挫折を認めない!!」



『優秀種』が吼え立てる。全く理解が出来ない――見下した相手が、自分と同じ高さで対峙し続けている状況を受け入れられなかった。



「そんなの、挫折する必要がないからに決まっているじゃないですかっ!!」


 雷電のように壁を伝い走り、距離を詰めた里桜は再び剣を構えて飛び掛かる。二振りの剣のインパクトを揃え、大きなダメージを与えられるように胴体へと斬撃を叩き込んだ。


 風の防護越しでも感じた衝撃に、未済は顔を歪める。


「チイッ……お前、何を言っているっ……!? 『劣化因子』がもたらす極小の恩恵と、『優秀種』の放つホンモノの『異彩』……その差を感じれば、普通は絶望するだろう!?」


 自身の周辺から離れない――喉元に喰らい付き続ける少女の剣を、手で受け止めようとする。白雷を発し、強化した腕で攻撃手段を奪う算段だった。


「ふっ……!!」


 しかし、その動きを察知し、躱した里桜の剣が未済の手首を斬り上げる。腕を僅かに痺れさせ、『細胞電子』が薄皮を焼き焦がすだけだが――その刃は身体に届いていた。


 本来の剣であれば、さらに深手を負わせる事が出来ただろう。剣の切断能力の劣化と重量の低下。そのデメリットによって、軽過ぎる攻撃しか繰り出せない。


「クッ……!! そんな、軽い一撃しか繰り出せない力で……!! 『優秀種』の力の前では、ゴミクズみたいなモノでしかないのに……!!」


 大切な未来を失って得たものが、微妙な非日常を作る程度の能力だとすれば、落ち込まない人の方が少ないのだろう。


「お前は、そんなモノの為に一番輝ける可能性を失ったんだぞ……!? 残念に思うんじゃないのか、悲観して然るべきじゃないのかッ!?」


 そして、何をも失わずに、自分たちよりも大きな力を持つ者が存在する――そんな不平等を強いられる世界で、腐らずに生きる事の方が難しい。


「……そう感じる人も、確かに居ると思います。アタシだって、一番輝ける未来……それを失って、悲しいと思わない訳ではありません」


 里桜は剣閃の末に、再び未済の上を取る。剣を構え、表情に微かな憂いを浮かばせた。


「そうだろう? だから、大人しく――!」


 口を歪ませた少年が、腕を小さく振り抜く。


 先程と全く同じ光景が繰り返される。『運』では埋められない、高い壁を打ち立てる。


「でも、その決断をしたからこそ、こうして剣を握る事が出来ました!!」


 少女は目を見開き、自身の身体から『細胞電子』を放出。反応速度を極限まで高め、発生した風の刃に、剣の刃先を合わせた。


(この風は、『必ず固定されてから』操作されています……なら、その瞬間にはッ!!)


 ――鼓膜を震わせるのは、剣戟。風に飲み込まれる少女の悲鳴ではなく、刃と刃が打ち合った互角の音が鳴り響く。


 里桜が斬撃を乗せた場所には、人を吹き飛ばすような流体ではなく――刃の形に留められた、風の塊があったのだ。


「……なん、で……!? いや、分かっていたとしても――リスクが高過ぎる!!」


「そんなもの、喜んで受け入れますとも! この向かい風を超えた先に、輝かしい未来があると信じているのですから!!」


 風の刃を用いてさらに上部――未済の天頂を、遥か真下に見据えた。




「例え一つの可能性を失ったとしても――未来を全部諦める必要は無いんです!! こうして、あなたを超える未来を夢見て――叶えてみせますともッ!!」




 一時的に、遥か高みにまで身体を跳ね上がらせた里桜に、相棒の『細胞電子』が助力する。二人分の想いを乗せた『剣』が、回転を加えながら振り下ろされた。




「――『裂風・合雷(サンダーボルト」)』ぉおおおおおおッ!!!!」




「ぎっ……があああああっ!!」


 未済の無防備な頭部に、マスメタル製の塊が打ち付けられた。


 重厚と呼ぶには軽過ぎる音が小気味良く空に響く。剣道で言えば、間違いなく一本が与えられる、勝利の一撃となっていただろう。


「……っ!!」


 しかし、彼女は剣道に一瞬だけ触れてはいても、その道に生きる者ではなかった。


 里桜は確かな手応えを感じたが、続行される戦闘に備えて一度体勢を立て直す。俯いたまま空中に留まる未済から離れ、ビル壁に張り付いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ