地に堕ちた、星の輝き⑧
「もっとだ……もっと燃え上がれ!!」
煌々と巨大な火柱を上げる広場で、加島力人が想いを乗せて声を上げた。
その広場は、かつて少年二人が追走劇の末に辿り着いた決戦地であり、加島が圧倒的な勝利を収めた場所であった。
「――『発火促進』! 『発火……促進』っ!!」
左手から電流を迸らせ、広場の砂や舗装に対して手当たり次第に助燃作用を与える。そして、構えた火炎放射器で着火――燃え続ける火柱を量産する。
「うおおおおああああっ!!」
狭い範囲で燃える火柱は寄り添い、合体して巨大な豪炎と化していた。大火事一歩手前のそれは、さらに周囲の空気を巻き込み、膨張して存在を増していく。
「くっ……そ……これ、マジでヤバいな……!!」
加島の持つ『細胞電子』は平均以上で、『発火促進』も一度に使う電力が少ない。ただし、それを数十、数百と繰り返せば限界は自然と訪れる。
ハルカや里桜と対峙した時に披露した、広場全体を覆う助燃フィールド。それは一地点に帯電する『細胞電子』が非常に少なく、効率の良い『異彩』の放ち方だった。
しかし、今加島が行っているのは、一地点に漂わせる事が出来る限界量まで『細胞電子』を凝縮し、着火する作業だった。非効率的な使用方法を続け、加島は額に汗を滲ませて息を切らせている。
最初の火種を起こし、延焼しない炎を連ねてここまで巨大化させるまでに、幾度も限界を迎えていた。ふらつく足取り、明滅する視界。全てが、諦めたくなる程に辛い。
「……だけどよ……諦めてらんねえだろ……!! なあ、ハルカ! なあ、里桜!!」
自身の能力は、期待していた程大きくなかった。他の生徒たちがまだ『異彩』に気付かない中で『気付いてしまった』。訪れた孤独の挫折に、身体を震わせてしまった。
――だが。
「……俺たちで、示すんだよな……!! 『劣化因子』の良い所ばっかりに乗せられて、こんな場所に誘われちまった奴らにも……ちゃんとした未来があるってよ!!」
加島は拳を握って奮起し、火が及ばない地点に手をかざす。
突然聞こえた放送で、少年は全てを察した――一目置いていた彼らは、さらなる偉業を達成しようとしていると。
その意思に協力している事を誇りに思い、加島は心を燃やし続ける。時間を掛けてでも『細胞電子』を集め、その炎の足跡を一つずつ刻み続けた。
「『異彩』の大小だけが――持っている力だけが、人のすごさを決める訳じゃねえ!!」
自分の『異彩』よりもリスクが高く、得られるものすら小さい『異彩』を放つ少女。
自分よりも劣る身体で、『異彩』に目覚めていない状況でも立ち向かって来た少年。
――不格好でも、『すごい』を実現している奴らを、この俺が知っている。
「お前ら、気付け……早く、気付いてくれッ!!」
魂の叫びを乗せた炎が轟音と共に風を巻き上げ、サステナ・カレッジ全体に届くような熱い輝きを放っている。
「あいつら、ホントにすげえんだよ……!! 『劣化因子』のせいで大切なモンを失っても……お前らより早く、不平等に気付いても……全然気にしちゃいねえんだ……!!」
――何故か。目から、涙が溢れ出す。
感謝と、憧れと、希望。心の全てを込めた感情の雫が頬を伝い、声と共に弾けた。
「『オレたちにだって、出来る事は絶対にある』なんて……恥ずかし気もなく言える奴が居るんだよ……ッ!! だからっ……!!」
「――俺の……俺たちの……ッ!! 燃える心を見やがれええええええッ!!!!」
火炎放射器が火を噴き、ただ『燃えやすくなった』だけの広場を広大な炎の海と化した。
その火柱は遥か上空までも影響を及ぼし、『優秀種』の力が及ばない程の上昇気流――『火炎旋風』を作り上げていたのだ。
『発火促進』。それは、決して優秀とは言えない能力だった。落胆した『異彩』だった。
「……は、ハハ……どうだよ、でっけえだろ……? 俺の、炎はよ……」
――どうしてそれが、こんなにも誇らしい炎を起こせたんだ。
(……ンなの、あいつらが俺に教えてくれたからに決まってんだろ……)
電流を収束させ、加島は倒れ込む。幾度も限界を超えた男の意識が、遠のいていく。
「こっちは、なんとかやり切ったぜ……あとは、頼む……ハルカ……り、お…………」
視界が闇に覆われる直前――蒼い光が、炎の中で一瞬だけ煌めいた。加島はその『忘れ物』に小さく笑って、穏やかな眠りに就いた。