地に堕ちた、星の輝き⑦
「ば、バカなっ……あいつらはただの『劣等種』なのに……ぐっ、ぁああああっ!!!!」
――空を飛びたいとも願わなかったのに、空中を支配出来る程の怪物と化した少女が、電爪を振り下ろした。
少年が既の所で腕を盾にし、てこの原理で身を捩る。爪は強靭な『乱気流の鎧』を引き裂き、傷一つ無かった少年の学生服を焼き焦がした。
「僕の制服を二度も……たかだか『劣等種』の出した『細胞電子』の電流で……!!」
『――――ッ!!』
――知った事か。そう言わんばかりに、言葉を伴わぬ本能が咆哮する。
魔谷竜子は、心の底からの優しさを持てる――人の幸せを喜べる少女だった。
それでも、彼女が放つ『異彩』は、全てを破壊し尽くすまで止まれない――残虐非道の暴力のみ。望まなかったこの破壊力が。捨てたいと願ったこの暴虐が。
――その腕部に漂う雷を、刃に見立てて構えていた。
「な、にっ……!! ただ暴れるだけしか、能が無いんじゃなかったのかっ!?」
それは、内側を守る『細胞電子』の膜が無い状態だからこそ起きた、無意識の反映だった。少女が感じた、己の力に匹敵する『金色の』象徴が象られている。
破壊出来るものが一つしかない、仲間たちが用意したこの場所で、爪牙の剣を轟かせた。
『――――――ッ!!!!』
「ぐっ……があああああああッ!!」
具現した腕の刃が、横凪ぎに振り抜かれる。少年の身体を弾き飛ばした剛健な手刀が、凝固していた風の壁を完全に無力化した。
魔竜の手刀を象っていた電流が音を立てながら変形――再び鋭い爪を生やした手に変形する。自分で弾いたばかりの相手に追い縋り、爪を潰して雷を炸裂――力強く拳を握った。
『――――ッ!!』
「ぐぶっ……がばっ、ぐっ、はあああああああああっ!!」
防御の要を失った未済が、全力の雷拳で打ち抜かれる。その衝撃に吹き飛ばされ、高層ビルの壁に未済の身体が打ち付けられた。
ビル全体が振動し、外壁が音叉のように怪音を発生させる。周囲のビルも共振を起こし、第四街区全体が剛腕によって唸りを上げた。
「ぐっ、うう……良い気になるなよ、『劣等種』……!! まだ僕は動けるし、『優秀種』の力は一度壊された程度じゃあ、なくならないんだよッ!!」
自らの力に確固たる自信を持つ少年は声を張り、手を振り上げた。
周囲に漂っていた風を逆巻かせ、自身を覆うように竜巻を発生させる。
『最たる才能』を失わず、劣化因子に打ち克った身体が得た、風を掌握する『異彩』――『風清弊絶』の出力を高めた。
「…………なんで……なんでだよっ!!」
――しかし、集めている風が、鎧を作る為に必要な量に届かない。
未済は平静を欠き、周囲の様子を探る。そして、目を疑う程の風の流れに気が付いた。
絶対である筈の自分の呼び声を無視して、風たちは狭い空を吹き抜ける。
「…………なん、だ……あれ……?」
『優秀種』は、自身の力に勝る存在に驚愕する。その光景に、目を見開く事しか出来ない。
視線の先には、未済の支配を逃れて風を呼び込んでいる現象――ビルのようにそびえ立つ、巨大な火柱が上がっていたのだ。




