地に堕ちた、星の輝き②
「……よし、これでこっちは一段落だな」
人がほとんど居ない廊下を渡り、保健室に辿り着く。保健室は一般的な学校のものとは違い、ベッドが十床以上立ち並んでもなお、広く感じられた。
怪我人を空いていたベッドに寝かせ、額の汗を拭う。搬送に『細胞電子』を使って、『許容電量』を超えてしまうリスクを考えると、地力でなんとかするしかなかった。
オレたちが運んだ男子生徒二人が最後の怪我人だったらしく、手を空かせた二年生たちがぞろぞろと戻って来る。
「ありがとうね、皆。後はこちらで責任を持って治療するから」
怪我人の診療を続ける保険医が笑みを浮かべる。
お役御免となった人々が保健室を後にしようとした時、廊下に続く扉が開かれた。
「……失礼、します……」
ぼさぼさになった若葉色の髪と、塵に汚れた身体。酷い火傷を負った両手を、だらんと垂らしている。力の抜けた足取りで、少女が清潔のある部屋に入室した。
「……中庭に居た、皆さん」
泣き腫らした瞳を、さらに潤ませながら、魔谷竜子と呼ばれた少女が頭を下げる。
「危険な目に遭わせてしまって……大変、申し訳ありませんでした……!!」
身体を悲しみと後悔に震わせ、尻尾のように垂れるツインテールを揺らす。
ベッドの上からその姿を見ている全員が、困惑をその顔に浮かべる。痛ましい姿の少女に向ける怒りは湧き起こらず、ただ静かな時が過ぎるだけだった。
「……先生。医療費が発生した場合は、三年七組の魔谷竜子に請求して下さい」
魔谷先輩はそれだけ呟き、保健室の外に向かってふらふらと歩く。
「……すみませんでした……」
最後に、扉の前で深々と頭を下げる。そして、小柄な少女は廊下へと去ってしまった。
「……あの方が、あの危険な竜だったなんて……今でも、信じられないです」
里桜は唇を尖らせて、行き場のない想いを露わにした。
「でもよ、あの人が中庭をあんな惨状にしたのは間違いないんだろ?」
「……それは、そうなんですけど……なんか、釈然としないと言いますか……」
「……まあ、あんな風に謝る人が、暴れ回るとは思わねえけどよ」
加島は頬を掻きながら唸る。二人の抱いた思いは負傷者たちも同様に抱いていたようで、保健室に気まずい沈黙が訪れた。
オレは静かな保健室の中で、彼女の行動を思い返していた。
竜の身体を消失した直後、花壇へと向かって這う。その花の残滓を掬い、涙する――その状況からだけでも、心にあるだろう慈愛を感じられた。
『ちゃんと早く寝ないとダメよ?』
――そもそも、あんな優しい言葉を口にする人が、理由も無く破壊行動に移る訳がない。
「……っ!」
「ハルカさんっ!?」
気付けば、走り出していた。
オレは身体を突き動かすその心のままに、保健室を飛び出した。