地に堕ちた、星の輝き
未済と名乗った少年の突き付けた『現実』は、すぐに一年生全体に広まった。職員室には新入生のほとんどが質問に訪れ、その真実が一人ずつに語られる事になるだろう。
『劣化因子』を抽入して『最たる才能』を失った人間は、『劣等種』と呼ばれるようになる事。そして、同じ条件で入学した者たちの中には、ごく稀に『最たる才能』を失わず、強力で有効な『異彩』を放つ人間が現れる事を。
「……それが、『優秀種』って言う事か。ソシャゲで言えば、全員に配られたしょぼいガチャチケに、実は最高レアキャラの引換券が混じっていたみたいなモンだよな」
職員室周辺に人が集まった事により、すぐに合流出来た加島が顎を撫でながら呟いた。
問題を巻き起こした未済は宣告後、満足気な表情で飛び去った。その後に残された怪我人たちは、二年生や三年生が協力して保健室に搬送してくれている。オレたちはその作業を手伝っている最中だった。
「……う、ぐ……」
「大丈夫か?」
加島が肩を貸した眼鏡の男子生徒が、呻きながら歩く。その足取りは、力が一切入っていないように見えた。
「……すまない、加島……」
「良いって事よ……って、お前はこの前の……?」
「え? お知り合いの方なんですか?」
オレと二人掛かりで、別の男子生徒を補助している里桜が首を傾げた。
「ああ。この前、模擬戦闘をした坂東って奴だ……ほら、入学した時のふざけた説明に質問していた奴だよ」
思い当たりはあったが、面識が無かった為に「はじめまして」と二人で会釈する。
「……君たちは、怪我はないのか……?」
「ええ、なんとか。完全にしてやられてしまいましたが……特に怪我とかはしていません」
「いや……あの男や竜に立ち向かえただけ凄いじゃないか。僕は、あんな強い人たちと戦える力を持っていないから、羨ましいよ」
「そんな……アタシは、ただ皆さんを助けたいと思っただけで……」
「謙遜なんて必要ないよ……凄い『異彩』の放ち方だったし。君も『優秀種』って奴なんだろう?」
「えっ!? あ、いや、あの……あれは、アタシの『異彩』ではなくて……」
どう言葉にして良いのか。迷った里桜が表情を曇らせる。
オレと一緒に修業をしたから。たまたま、デメリットを自分の力に出来るから。そんなややこしい理由を事細かに説明するような空気ではなかった。
「……って言う事は、『異彩』を放つと、もっと凄くなれるって事だよね? 良いよね、選ばれた人間って言うのはさ」
「……っ!!」
里桜は口を堅く結んで押し黙る。言葉に迷う彼女を見ているオレも、何も言う事が出来なかった。
この二週間の間に二人で重ねた経験や、乗り越えた試練。どれもこれも、泥臭い思い出であって――人に語り聞かせるような誇らしい話ではない。
「……誰でも入学出来るこのサステナ・カレッジでも、そんな能力の優劣で差別が起こるんだもんね。僕みたいな一般人は、結局下の立場に居る事しか出来ないんだ……これじゃあ、今までと全く同じだ。僕も、君のような強い力が欲しかったよ」
自分を蔑むような言葉に、加島が目を細めた。
「おい坂東。里桜の持っている『異彩』は――」
「……いい。良いんだ、加島。君の『発火促進』も、僕の『異彩』も……彼女や、未済と名乗った男のように、優れたものじゃあない。気遣われなくても、分かっているよ……」
「……っ!!」
「……『劣等種』……劣った、か。誰でも『異彩』を放てる、確かな未来を掴める。そんな甘言に騙された僕らには、お似合いの言葉なのかもしれないな」
全てを悟った――いや、目を逸らしていた事を直視させられた少年が、力無く俯いた。
「失ったモノは、元に戻らない……何が起こっても自己責任。そう誓約させられて、僕たちはここに足を踏み入れてしまったんだから」
「……もう、黙ってろ坂東。舌、噛んじまうぞ」
加島はむっつりとした表情を浮かべて、黙々と保健室への道のりを歩く。
それは、自分の能力に感じた劣等感か。それとも、失意のどん底に沈んだ彼への気遣いなのか。加島との付き合いが浅いオレには、分からなかった。




