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優秀種⑩

 里桜と向き合って笑っていた加島は、「ところでよ」と雰囲気を一転し、真剣な表情へと切り変える。


「……ハルカ。あれから、自信満々な『異彩』持ち共と戦って分かったんだが……オレたちが得た能力って言うのは、どうにもパッとしねえもんばっかりだ。この分だと……炎を切れるような里桜以外の全員が……なんて事もあり得るかもしれねえ」


「……ああ、その事なんだけど……」


 里桜の放つ『異彩』や、炎を斬り裂いたオレの補助による剣風。その仕組みをざっくりと解説すると、加島は納得出来たように「なるほどな」と息を漏らした。


「……って事は、やっぱりよ……『劣化因子』で手に入れた能力は、全部……」


「……そう、だね。十二分にありえると思う」


「……なんてこったよ、ホントに……」


『やっぱり、【劣等種】としての力だから使い勝手が良いって事はないかな』


 そんな、癒羽先輩の言葉を思い出す。


『劣等種』――オレたちが持つ能力は、基本的に便利なものではなく、超能力などには幾歩も及ばない。むしろ、同じ特徴を持つ既存品を使った方が『細胞電子』を使わない分、効率が良いぐらいだと感じる程だ。


『発火促進』はよく燃える着火剤で代替が可能で、『双製四散』はそもそも同じ剣を二本用意すればいいだけの事。重量が軽くなってしまうデメリットを好意的に受け止めている里桜は、例外中の例外だ。


『異彩』は、特別な状況が噛み合わなければ、使う事に意義を感じられないかもしれない。


「……能力に気付いて、すげえガッカリする。自分の掴んだ『確かな未来』の限界を知って、嫌になっちまう。それは、俺だけじゃねえ筈だ……ちょっと、心配だよな」


「……加島」


 いち早く『異彩』を放ったが故に、誰よりも早く『現実』に気付いてしまった。その失望は計り知れない――きっと、今も胸に抱えている事なのだろう。


 ただ得るだけなら、「無償で手に入ったものだから」と割り切る事も出来たかもしれない。

 しかし、その代償に『最たる才能』――最も輝ける可能性のあった未来を失っている。


 サステナ・カレッジのパンフレットに良い面ばかりが書かれている事。対外的に伏せられている、『劣等種』と『優秀種』の呼称や、悪い面の情報。それらは、現実に飽きた若者に仮初の希望を与え、入学前にその失望に気付かせない為の姑息な手段だとしたら。


 伊田先生が、オレに入学を思い直させようとした理由は――。




「きゃあああああああっ!!」




「「「ッ!?」」」


 ――突然の悲鳴。思考が寸断され、一気に現実へと引き戻される。加島のクラス中がどよめき、音がした方角――中庭方面の窓に生徒たちが駆け寄った。


「な、なんだあ!?」


 慌てふためく加島が立ち上がって、辺りを見回した。


「ドラゴンだ……ドラゴンが中庭で暴れてるぞおおっ!!」


「ど、ドラゴンだって!?」


 ――ドラゴン。鱗に覆われた強靭な皮膚を持ち、鋭利な牙が生え揃う口から灼熱の炎を吐く、幻想的な生物。それが、教育機関の施設――その中庭で暴れているという。


「み、みんな窓から離れろ!! ドラゴンが手当たり次第に物を壊して、その破片を撒き散らしているぞ!!」


「で、でもっ……中庭には、まだ人が居るのに……!!」


「なんですって!? くっ……!!」


 里桜が剣の柄に手を掛け、蒼白の電流を発する。次の瞬間には、強化した敏捷性で教室から飛び出していた。


「里桜ッ!?」


「ハルカ、俺たちも行くぞ! ドラゴンがゲームとかで見る奴なら、里桜が危ねえ!!」


「う、うんっ!!」


 オレは彼女の心に身体を明け渡し、天ノ川はるかの面影を呼び起こした。


「よし行くぜ……ってお前、髪白くなってねえか!?」


「説明は後でね! それじゃあ、先に行ってるから!」


「いや、ちょっとま……っておい、走るのは―え――よ――――!!」


 戸惑う加島を尻目に、オレは『細胞電子』を発して廊下へと踏み出す。『天星哀歌』の力は使えないが、身体の基本性能がより高くなる白髪化は、移動などに向いている。


人がひしめく階段を駆け下り、中庭に向かった金髪少女の見えない背中を追った。



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