優秀種②
第三街区に辿り着いたオレたちは、近場にあった素材屋でふわもこの死骸を買い取って貰った。その際に、角を剣で突いて破壊し、回収したのだが――。
「……お金を稼ぐのって、難しいですね……」
「……そうだね」
――角の価値を差し引いた取引額を見て、この先の生活への不安が募った。最安値の片手剣すらも買えない金額に頬を引き攣らせていると、「初めての討伐で無事に帰れたから十分だよ」と前向きに慰められる。癒羽先輩の温かい優しさが身に染みた。
「それに、角付きだったらもっと高かったと思うよ? 研究生物の子たちは、遺伝子調整の影響で色々な特徴を持つ部位があるから、価値が集中してしまう事も多いんだ」
「なるほど……より価値のある効能を持つ素材が回収出来れば、お金も稼げる……?」
「そうそう! それに、買い値に納得がいかなかったら、頂いちゃえばいいんだもん。お金に困った人たちは、そうやって生活しているみたいだよ?」
「……そっか。討伐する為の力と料理の知識が必要ですけど、自販機で武器も買えるし、巨大な図書館もありますもんね……良く出来てるなあ」
ここでは、力さえあれば飢え死ぬ事はほとんどない。野性的かつサバイバル要素すら感じる教育機関が国内に――このような近未来都市にあるとは、夢にも思わなかった。
「そう言えば……単純な疑問なんですが、いいですか?」
「私に答えられる事なら、ぜひぜひ」
「実技面での成績って、どうやって確認するんでしょうか?」
「ああ、それは……確か、身体の中にある安全装置のスイッチみたいなものが、戦闘データや回収した素材の情報を蓄積して、その点数を学園側が評価する『らしい』よ」
「そうなんですね……でも、あれ? 『らしい』と言うと……先輩は、実技面の成績は確認していないのですか?」
「そうなる、かな? 私、入学早々に戦闘行為を放棄して、研究員コースに移ったから……実技面とか、討伐に関してはそこまで詳しくないんだ。ごめんね?」
「えっ……すみません、なんかオレたちに色々付き合わせちゃって……」
「ううん、いいんだよ。こう言う皆での行動は珍しくて楽しいし、それに――」
癒羽先輩は、ほんの少し袖の余っている手をパタパタと揺らして続ける。
「――研究員コースは、文字通り研究の成果で実技面分の評価が決まるから。実は、これから行う治療も、私の研究に付き合って貰う側面があって……今更なんだけど、その……」
癒羽先輩は、もじもじと手を擦り、指同士を絡ませていた。
彼女から言い出せないのなら、こちらから――。
「もちろんですよっ! アタシたちで良ければ、いつでも力にならせて下さい!」
「……上に同じで」
――食い気味に同意した里桜に合わせて、癒羽先輩と向き合った。
彼女は少しだけ面食らったように目を見開いて――。
「うふふっ……ありがとう。とっても嬉しいな」
――くすり、と笑って、眼尻を優しく下げて頷いた。