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インフェリア・スターズ!  作者: 成希奎寧
ハルカの名
19/50

ハルカの名⑨

 ――気付けば、彼女と別れた時の光景が広がっていた。

 

 オレたちが通っていた、中学校の体育館。白く煙るその場所は、時間が止まっているように見える。彼女の事を忘れないようにと、事細かに、大切に思い描いていたと思ったが――一番記憶に新しいこの場面ですらも、随分と色褪せて劣化しているように見えた。


 周囲に居る、固まった学生たちの制服――それが、●●●や●●●●●ではなく、サステナ・カレッジのものにすり替わっていた。入学式から始まった密度の濃い時間が、たった数日で記憶を上塗りしているのかもしれない。


「……っ!!」


 壇上に、その取り戻せない時が固着している。彼女が唐突に倒れる、その直前。

 オレに向けた、その切なさを孕んだ笑みが、取り残されていた。


「……あの時、何も出来なかったな……」


 星色の彼女が、最期に伸ばした手。現実では、その手が遠過ぎて掴めなかった。


 心の中――あの時を切り取っているこの場所なら、きっと近寄って、引き寄せられる。


 壇上に向かう。宙を歩いているような、足取りの不確かな記憶の断片を進む。


 ステージ上で凍り付いたように動かない彼女は、精巧に出来た石像のようだった。オレが今居る方には目を向けず、ただ一点を見つめ続けている。


 過去のオレと、過去の彼女は確かに視線を交わしていた。現在に生きるオレは――現在に生きていない彼女と、同じ時を過ごす事は出来ないのだろう。


 動かない過去の彼女に手を触れると、脆く『劣化』した彼女が崩れ落ちていく。そして、その体内に内包されていた球体が現れた。それは蒼く、脈動するように電流を放っている。


 温もりを持つ球体に触れ、自分の胸に押し当てた――。


「……くっ、ぐっ……!」


 ――抽入される異物を拒むように、身体が悲鳴を上げた。


「……だい、じょうぶ……これ、は……オレたちの――」



 拒む必要はない。改めて受け入れる必要もない。




「――『ハルカ』のものだから……ッ!」




 もう、既に背負ったものの筈だから。




 ――君が居なくなってしまったのなら、オレが……遥星吾はるかせいごが、君の分までその名を背負う。君が運命を感じたと言った、二人分の偶然を併せ持つ。


 そう決めた。そうする事しか、彼女の為に出来る事を思い付かなかったから。


 弔いの言葉でも、感謝の言葉でも表し切れない想いを、いつか言葉にする為に。


 その為に、自分の力で生きたかった。彼女の親族がオレを気遣い、用意してくれた楽な道ではなく、自分の足で歩める道を選んだのだ。


 今、君が生きていたのなら。涙が出る程に笑いながら『ありがとう』と言うと思う。


 そんな、今を生きる『ハルカ』の姿を想像する。


 そこにあるものと、そこにないもの。二つを合わせて、オレは――。  




「――彼女の分まで、生き続ける……ッ!!」




 胸に宿った熱意が身体中に行き渡る。細胞単位の極小な刺激が、全身を大きく震わせた。


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