ハルカの名⑤
時間の無駄なく辿り着いた筈なのに、修練室は人でごった返していた。各装置の前には列が出来ていて、不慣れな生徒たちが説明を受けながら検査などを行っている。
「……うわ、無茶苦茶混んでる……!」
「ホントですねぇ。これだと、三時限目までに間に合わないかもしれません……」
「……うーん」
里桜の言う事は尤もだった。列の進み具合は非常に悪く、能力を測る装置の前では、結果に納得出来なかった生徒が騒動を起こすなど、混沌な光景が広がっていた。
他に何か出来る事がないかと思って、辺りを見渡し――。
「……あれ? あの機械って、確か……」
――一つの装置に既視感を覚える。それは、入校管理室で伊田先生が弄っていたものによく似ている気がした。
「……伊田先生の所に行ってみよう。もしかしたら、待たずに装置が使えるかも」
「おお……そんな裏ワザがあるんですか!? ハルカさん、いったい何者なんですか!?」
「あはは……聞いてみないと分からないけどね」
キラキラと眩しい里桜の瞳が背中をむず痒くさせる。裏切れないと言うか、裏切りたくないと言うか。その瞳を曇らせない為に、自分に出来る事で支えてあげたいと思った。
一階にある教職員室に辿り着いたオレたちは、扉にノックをして入室する。『ノックをしてから入る事!!』と三枚も貼り紙がされていたものだから、流石に守るしかなかった。
「「失礼しまーす」」
一瞬だけ、広い教職員室中の視線が集まったが、すぐにその感覚は霧散する。里桜がブレザーの背中を抓んで来た為、その手が離れない速度を保った。
「伊田先生、ちょっと良いですか?」
「ん? ああ、ハルカに……剣花か。早速、何か質問か?」
伊田先生は開いていた出席簿を閉じて、オレたちに身体を向けた。
「はい。それと、ちょっとお願いがありまして……お忙しければ、後でにしますけど」
「構わないよ。私たちの仕事は、どんな時でも学生への対応が最優先だ」
――良く悪くもな。そう続けた伊田先生は、少し楽しそうだった。
「それで、お願いと言うのはなんだ?」
「あ、えっと……ゲートの所にあった入校管理室に入りたいんですけど、あそこって自由に使えるんですか?」
「ああ。空いていれば、勿論使用可能だが……何か忘れ物か?」
「いえ、そうではなく。あそこにあった機械を使わせて貰えないかなー、と」
「……あそこにあるものが『能力の測定機械』だと、良く気付いたな?」
「いやいや、ただの偶然ですよ。どこかで見たような気がしていたので」
心底驚いたと言う風に感嘆する先生に首を振る。担任教師は頬杖を突いて時計を見た。
「……そこまで時間も無いな。車で向かうとするか」
立ち上がった伊田先生に連れられ、教職員室から直結している駐車場へ。丸みの強いフォルムの電気自
動車に乗せられ、ドームの壁側にある入校管理室へと向かって行った。