ハルカの名④
なんとか無事に高等部の学舎に辿り着き、イントロダクションを受けた。新入生合計三六余人は九つのクラスに振り分けられ、それぞれにクラス担任となる教諭が就く。
「君たちの担任となった……伊田……秋保だ。一年間の間だが、よろしくな」
見知った顔の彼女がクラスを一望した時――オレの顔を見て、明らかに時間が止まっていた。縁と言うものはひょんな事で結ばれる為、容易に使うべきではないのかもしれない。
伊田先生からの勉学面の説明は、シンプルで分かりやすい。特筆すべき内容なども見受けられない――実技面の事に目を瞑れば、普通に学生生活を送れば問題なさそうだ。
(……しかし、便利な時代になったよなあ)
机に設置されているモニターは教室前方の大モニターと連動して文字が映し出される。支給されたタブレット端末には、必要な教科書・資料集のデータが全教科分入っていて、ストリーミングで動画を見る事も出来るという。
「――取りあえず、こんな所か。何か質問はあるか?」
説明の終わりと共に、静まり返る教室。伊田先生は特に気にする様子もなく、手元の資料をまとめ始めた。
「……分かった。もし何か聞きたい事があれば、個別に聞いてくれ。私の経験上では恐らく、半数程の生徒が何かしらを聞きに来るだろうがな」
くつくつと笑った女教師は、教団の上でハイヒールの音を鳴らした。
「それでは、高等部学舎の施設案内に行こう。廊下に適当に並んでくれ」
伊田先生の言葉に従い、クラスメイトたちはぞろぞろと廊下へと向かった。その流れに従っていない少女――剣花里桜は、オレの顔を見てニッと笑っている。
「……一緒に行こうか、里桜」
「はい!」
有無を言わせない、良い笑顔を浮かべた里桜と肩を並べて、廊下の列に加わった。
伊田先生の先導で、七階建てで横にも広い施設内を見学する。凄まじい蔵書量を誇る図書室、最新設備の整った視聴覚室、オシャレな学食などの、一般的な学校と同じ設備。
そして、広いトレーニングジムや学生向けの貸研究室、各種計測機械や移動する的などがある広大な修練室などの、ここならではの設備。高等部学舎にはそのどちらもが混在し、サステナ・カレッジに通う学生を補助する為の機能が盛りだくさんな建物となっていた。
「まさに、快適な籠の中の中って感じですよね!」
「……若干棘がある言い方だね……」
全てを案内していると日が暮れてしまうとの事で、必要最低限の情報だけが与えられた。あとは自身で探索するなり、教職員に聞くなりで対応してくれの基本スタンスのようだ。
ざっくりとし過ぎている説明を受けたクラスメイト全員が、教室まで帰って来た。教壇に立った女教師は、「はい注目!」と手を打ち鳴らした音で視線を集める。
「それでは、次の時間まで休憩時間にしてくれて構わない。私や他の教職員は職員室に居るから、何か困った事があったらすぐに呼ぶ事だ」
それだけ言い残し、伊田先生は足早に教室から去ってしまった。
「……どうしましょうか?」
オレの席に近付いて来た里桜と顔を合わせる。やるべき事はたくさんあるが……。
「……とにかく、『異彩』について少しでも調べてみようか?」
「了解です! アタシ、勉強とかからっきしなんで、ハルカさんにお任せします!!」
「……うん、任せて!」
勉強や考え事が『嫌いではなくなった』事が、誰かの力になる事に繋がるなんて思いもしなかった。持っている力を寄せ合って、なんとか形にしていく為に頑張る。
今は、そうする事しか出来ない――非力なオレたちが、少しでも這い上がる為に。
「おお、頼もしい! それじゃ、何をしに行きましょうか?」
「……さっきの見学で見た、修練室に行ってみよう。あそこには色々な機械があったし、能力の測定とかも出来るかもしれない」
「えーっと……上の階にあったアレですよね? 早速行ってみましょうか!」
「おー!」と手を打ち上げた里桜。無垢な彼女を連れて、修練室がある五階に向かった。




